◆第39.5話 ???(複数視点)

『――わかりましたか』


「はい。大和のことは詰めが甘く、殺害を失敗した責任もあります。汚名返上の機会をいただけるのですから問題ありません」


『ですね。両親の方は良い性格をしていましたので簡単でしたが、ここからは段違いに危険が伴うでしょう。頑張りなさい』


「はっ」


 ツー、ツー。


 うるせえ! わかってんだよ! クソが!


 あー! イライラする! 弱いくせに上から指示するだけでなにもしやがらねえのに好き勝手口出すな!


 スマホをベッドに叩きつけてもイライラはおさまらない。


 投げ捨てたスマホを拾い上げ、グループL○NEで仲間を呼び出すことにした。


 よし、ダンジョンでストレスでも発散させてもらうか。


 そういや、この前の奴らの全裸土下座は傑作だったよな、レアなスキルオーブも手に入ったのもデカイ。


 真面目に探索していた頃が馬鹿らしくなるほど儲かるしな。


 よし、Bランクダンジョンだな。Bランクならそこそこのドロップが期待できる。それにそこで潜るような奴らは俺たちの敵ではない。


 よし、テンション上がってきたぞ。


 ……それにしても大和四織だ。作戦通りダンジョンの外へ連れ出し、病院で死ぬ予定がなぜか助かり、さらには学園に復帰してくる。


 事故に見せかけ、けしかけたモンスターにボロボロにされちまったが、元に戻ったなら別の楽しみも……。


 おっと、気が早いぜ相棒。いまは大人しくしてろ。近いうちに使ってやるからよ。


 くくっ。テンションMAXだ! 大和四織! その綺麗な顔が醜く歪む姿を見せてもらうぜ!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『――学園に復帰して、そろそろ動きがあるはずよ。あなたは逐一それを報告すると共に、アイツらの補助をしなさい』


「はい。しかし、あのものたちの腕は確かですが、少々性格に難があるものたちで、私の補助を素直に聞き入れてくれるか……」


『……確かにそうね。一人、今度学園に入れ込むものがいるわ。今なら顎で使えるし、そこそこ使えるものを派遣するから』


「おお、ありがとうございます」


『その者から連絡を入れさせるから、しくじらないようにね』


「わかりました。精一杯やらせてもらいます」


 ツー、ツー。


 はぁ。今さら何を探ればいいんだよ。一人Aランクがいるが、残りの二人はゴミスキルに引きこもりだぞ。


 カシュ――


「んぐっ……。クソ、長話するから温くなってるじゃないか……氷、あったか?」


 冷凍庫を開けると霜だらけの庫内は見たまま霜しか入ってなかった。


 はぁ。霜砕いてやれば氷の代わりになるか?


「最小で――衝撃インパクト。おっ、取れた」


 拳に魔力を纏わせ、小突く程度の力加減で霜を殴ると、ボコリと大きな塊が庫内の壁から剥がれ落ちた。


 よし、ならこれをもう少し砕いてグラスに入れれば問題ないな――


 次の日、私は腹を下し、何度もトイレに駆け込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 クソ……。なぜ俺がこんなことをしなきゃならない。俺は佐――いや、もう弟が継ぐ流れだ。名乗ることさえ許されてない。


 整形して元の面影もなくなった顔が鏡に映る。見慣れた制服だが、胸のエンブレムはEランクの物だ。


 Bランクだった俺が3ランクも下のエンブレムをつけなきゃならないとはな。


 それにこれだ。限定的にスキルを封じる魔道具。身体強化と魔力を纏うくらいしかできやしねえ。


 こんなんでレイと残りカス、その双子の姉に近づけとか意味わかってんのか?


 Aランクを仕留められる手の者が瞬殺されたんだぞ?


 くそ、こんなこと、俺は弟が何かの都合で継ぐことができなくなった時の予備ではあるが、首の皮一枚で、気に食わねえが、返り咲く最後の命綱だ。


 いや、何とかして弟を亡きものにすれば自動的に俺が次期か……。なら早いところこの魔道具を外してしまうしかねえな。


 凛。好き勝手顎でつかいやがって、てめえの考え通りに動くやつばかりじゃねえ事を思い知らせてやる。


 なら連絡しなきゃならねえ柊のヤツじゃあねえな。そんなもんは後まわしだ。


 ……なら敷島か。ヤツの魔法ならこの魔道具に干渉できるかもしれない。


 それにサブリーダーの土佐だ。ヤツは剣士だが、リバティをAランクにのし上げたもうひとつのスキルと併せれば……。


 よし――


 洗面台に置いてあったスマホを手に取り敷島の名をタップした。




「敷島か、俺だ。今どこだ、土佐も呼んでもらいてえんだが」


『佐……藤くん、出て来られたのですね。俺ですか? 今から皆でBランクダンジョンに向かっているところです』


 タイミングいいじゃねえか。


「丁度いい。俺の分も入場申請しておけ。いや、Eランクダンジョンにしろ。それから名前は安藤 ごうに今はなっている」


『わ、かりました。ではダンジョン前でお待ちしてま――』


 ツー、ツー。


 最後まで聞かず通話を終え、タクシーを呼び着替えを済ませたあとマンションを出る。


 タクシーは……あれか。


 ハザードを点滅させているタクシーに乗り込み、ダンジョンに向かわせた。


 今に見ていろ。俺の逆転復活劇の幕を開けてやるからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る