第38話 話が通じない
「四織が我がリバティから脱退、移籍ってどう言うことですか校長先生!」
バン!
シオリが到着して校長先生の話が始まったとたん、リーダーの
校長先生に面と向かって、よくこんな態度取れるな。……というかなぜシオリのことを呼び捨てにしてるんだこの先輩……。
いや、そうか、元々は同じパーティーメンバーだったからか。……それでも何かモヤモヤするな。
「言葉の通りです。大和シオンくんはやっと登校してくれるようになりましたし、シオリくんも、怪我から復帰したところです。そこで探索者パーティーについて大和姉妹から相談を受けた、こちらの高橋様と話し合った結果です」
やっと登校……まあその通りだ。経過観察もかねて、シオリも自宅療養していたし、シオンは俺が引っ張っていかないとズル休みの常習者になっていただろう。
それをシオリが――
『シオン。私が休んでいる間、どんなことが学園で起こっているか、調べて欲しいの』
『ぬ? 学園行きたくないのです』
『お願いシオン。これは大事な任務よ。極秘のね』
『っ! ご、極秘任務! お姉ちゃん! く、詳しく聞かせるのです!』
というやり取りがあったお陰で、シオンのズル休みすることなく毎日登校するようにからな。
さすがシオンのお姉さんだ。扱い方がわかってる。
というか、そんな相談していたなんて知らないぞ? でも高橋さんがなぜいるのかと思ってたけど、そういうことだったんだな。
そこにシオリがタイミングよく口を挟んでいく。
「敷島先輩。以前も言いましたが、私のことは呼び捨てにしないでいただけますか? 元パーティーメンバーとはいえ親しくもない方に呼ばれたくありませんわ」
良かった。シオリが許可した訳じゃなかったんだ。
スッと胸のモヤモヤが晴れていく。はは、単純だな俺。ん? 震え? あっ――
男性が苦手というだけあって、膝が震えているのが見えた。ほんの少しだけど、足を開いてシオリと足同士を触れさせる。
まだ震えは止まらないが、ほんの少し表情がゆるんだ。頑張れシオリ。
ふぅ。と短く息を吐いたあと、校長先生に向き直り――
「校長先生。私もリバティからの脱退申請を提出したところですから、こちらは当然異論ありませんわ」
朝イチに一緒に行ったからわかってる。だけど、本当にタイミングがよかった。
一応処理されてはいるけど、さらに高橋さんが話を校長先生話してもらったみたいだもんな。
「それはそれは。私のところにはまだ届いておりませんが、実にタイミングが良かったですね、ではなにも問だ――」
「なにを言ってる四ぉ――大和! お前はリバティに無くてはならない紅一点! 脱退など不許可だ!」
敷島先輩はにこやかな校長先生の言葉を遮り、興奮したまま訳のわからないことを……紅一点、それが理由……なのか?
まあ、名前を呼び捨てにしていたのを名字読みにしたところは素直に褒めておこう。
「敷島先輩。お忘れですか?」
「何がだ! なにを言おうが脱退は認めない!」
あ、見えないところでシオリが手を握ってきた。
そうだよな。やっぱり苦手だから、こう威圧込みで怒鳴られると怖すぎるよな。
「……入学早々のお誘いの時も申しましたが、シオン。妹が復学して、探索者になれば姉妹でパーティーを組みますと一筆書いて約束させていただきましたよね?」
そんなことを約束してたのか。そうだよな。今ならわかるがシオンは放っておくととんでもないことをしでかしそうだし。
今もテーブルに置かれたお菓子に夢中だしな。
え? くれるのか? ……あ、ありがとうな。
栗饅頭を差し出されたので受け取っておく。この場で食べろと? いや、後でね。
「くっ、そ、そんな約束――」
こちらはこちらで、シオリが敷島先輩の言い訳に被せていく。
「それに。先ほども言いましたが、パーティーの脱退申請は
「今すぐ取り消せ! 誰がなんと言おうが脱退は認めない! あのような約束は無効だ!」
これは駄目だな。シオリがうつむいた。それに握る手が冷たくなってる。ここで俺が守らないと。
少し握る手に力を込めて大丈夫だと伝える。
「えっと、敷島先輩」
「なんだ! 部外者は口を挟むな!」
「いや、部外者じゃないですよ。大和妹、シオンと探索者パーティーを組んでいる、長門と言います」
「それがどうした! 今は無駄話をしている暇はないから黙ってろ!」
バン!
また机を叩き威嚇するように座る俺を上から睨み付けてくる。だけどここで黙るわけにはいかない。
「無駄話ではありませんよ。シオリは先輩のパーティーからは脱退したあとです。それに俺とシオンのパーティーすでにに入っています。諦めてください」
「なにを馬鹿なことを! 大和はリバティから脱退などしないから貴様のパーティーに入ることはない!」
「話を聞いていましたか? 今朝脱退の申請を出して処理されているのですよ?」
敷島先輩から視線をシオリに変え、優しく手を握り返し話しかける。
「シオリ。俺たちのパーティーに入る申請も出したよね?」
「はい。脱退申請と一緒に生徒指導の先生に提出して、処理してもらってますわ」
「と、いうことなのでもう一度言います。えっと、リバティでしたっけ。敷島先輩のパーティーからは脱退が済んでます。それに俺たちのパーティーに入っています。だから――」
「そんなものは無効だ! 俺は絶対認めない!」
敷島先輩の暴走に、他のリバティメンバーも、この状態なのにウンウンと頷いている。
良くこんなパーティーメンバーと一緒に探索してたよなシオリ……。学園一のAランクパーティーだから実力はあるってことなんだろうけど……。
これはどれだけ話し合いを続けても無理だろ。こうなったら黙って、苦笑いをしている校長先生振るか。
「……校長先生、話が通じないようですが、俺たちはこの後用事がありますので、お話がこの事なら終わったことですし、退席しても大丈夫ですよね?」
そう告げて、返事を待たずにシオリの手を握ったまま立ち上がった。
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