第二章
ランクアップ
第37話 呼び出し
「長門と大和妹は応接室へ来なさい」
「がーんなのです」
「俺たち、なにかやっちゃいましたか?」
「いいから来るんだ!」
なにしてしまったんだろうか……怒っているし、ただ事ではないよな。でも応接室? 生活指導室じゃないのか?
シオンを見ても……うん。口で『がーん』とか言いながら体でも表現してるしわかって……ないね。
「先生。私もご一緒してよろしいでしょうか?」
シオンの双子の姉、シオリと三人で、帰り支度をしていたところに担任のこの呼び出しだ。
シオリが一緒に来てくれると、気分的に助かるんだけど――
「大和姉は関係ないから来る必要はない! ただでさえお待たせしていると言うのに、手間をけさせるな! 行くぞ!」
そう、言い放つと教壇の日誌を手に取り教室を出ていった。
「なんなのです? すごく怒ってたですよ」
「いや、まったく心当たりがないんだが……誰かが待ってるから早く来いってことか? というか、誰が?」
「さあ、二人が呼び出しされる方ですと、研究所の方……でしたらアパートでことたりますわね。しかし、どうしたと言うのでしょうか。普段の
柊先生はシオンによく『事なかれ主義が教鞭を取ってるです』と、言われるくらい、主張しない先生、らしい。
俺の人間観察が拙いからか全然わかってないけど、シオリも『よく教師に、それも担任に成れたものです』と、あきれるほどだ。
「とりあえず……行くしかないよな。それに、誰か待たせてるみたいだし、早く行くに越したことはないだろ?」
「そう、ですわね。なら私は教室でお待ちしておきますので、シオン、レイ。いってらっしゃい」
「めんどうなのです」
「そう言うな。今日からEランクダンジョンも、調査が終わって入場再開されるんだから、さっさと済ませてしまおう」
「しかたないのです」
「ふふっ。頑張ってねレイ」
「お姉ちゃんレイにだけズルい! 私にも頑張って、くださいなのですよ!」
「はいはい、頑張ってねシオン」
「ぱわー全開! 行ってくるです!」
「じゃあ、行ってくるよ。遅くなりそうだったら――」
「何をしている! さっさとついてこい!」
怒れる柊先生が真っ赤な顔で戻ってきた。
「……行ってきます」
「……行ってくるです」
校長室と書かれた部屋の横。応接室と書かれた部屋に入る。初めてだ。
「さっさと入るんだ! ぐずぐずするなと何度言えばわかるんだ君たちは!」
「うぅ。余計に入りたくなくなるのですよ」
「はは……、同感」
来いと手招きする柊先生。仕方ないよな。
覚悟を決め、重厚な扉をくぐると、豪華そうなソファーセットに座る校長先生と、高橋さんがいた。
「あっ、たかぴーなのです」
「シオンちゃん、たかぴーはやめてね! 私の威厳がね!」
はは、誰が待っているのかと緊張したけど高橋さんだったのか。
「え? あの、高橋様? こちらの二人とは……面識がおありで?」
「ああ。旧友の子と、その子の仲間として面識はあるね。……ところで校長。名乗りもせず私に話しかける、この無礼な男は?」
「この者は生徒の長門くんと大和くんの担任をつとめる柊と申しまして、いつもはこのような態度ではないのですが……」
額をハンカチで拭いながら苦笑いの校長先生。
そういやシオリも、柊先生の様子がおかしいって言ってたな。……よし、俺も言われる前に気づけるよう、人間観察をしっかりするようにしなきゃだな。
「ほう。そうでしたか。では柊先生。この二人は先ほど言った通り、仲良くさせてもらっている」
あっ、高橋さん、おでこに青筋が立っちゃってるよ……。元だけとSランク探索者を怒らせるなんて柊先生大丈夫かな……。
「たかぴー怒ってるのです。柊先生、謝るですよ? たかぴーはツヨツヨだから逆らっちゃ、メなのです」
「こらシオン、みんなの前でたかぴーはやめてあげてね?」
「シオンちゃん……はぁ。まあ良いでしょう。柊先生。少し人事には口を出させてもらいますがね」
「は、はいぃ! 申し訳ありませんでしたァー!」
腰を直角以上に曲げて謝罪した。
「では本題へ入る前に……もう一つ、大和くんのお姉さんはどうして連れてこなかったのかね? 私は長門くんと大和
ん? そうなのか?
「お待たせしました。Aランクパーティー『リバティ』、四名を連れてきました」
その時、開いたままだった入口から四人の先輩と、先生の五人が応接室に入ってきた。
四人とも見たことある先輩たちだ。確か右から――
――で、シオリはスキルが優秀過ぎるせいで、このAランクパーティーに学園からの要請で入っていたんだけど――
『あの方たち、なんだか怖い雰囲気がありまして、できれば脱退したいのですが……』
『お姉ちゃんは男が苦手ぇーなのですよ』
――と、ぼやいてい
シオンの言うこともあるだろうけど、シオリがぼやくくらいだ。そんな噂は人付き合いの薄い俺の耳にも入ってきてる。
まあ、もう解決済みなんだけどな。
「うむ。ご苦労様。さあ立ち話でするようなことではありませんので、まずは皆さんお座りください」
皆が返事する中、柊先生だけは、校長先生にシオリを連れてくるよう言われ、逃げるように部屋を出ていった。
俺とシオンがL字ソファーの、短い方に並んで座る。シオリが来ても余裕で座れそう。
おお~、お尻が絶妙な感触で沈み込む。うん。凄く良さそうなソファーだ。
リバティの四人も、同伴した先生と長い方で並んで座り、シオリの到着を待つ。
「ねえねえたかぴー。どうして学園にいるのです? あ、飴ちゃん舐めるですか?」
シオンが空気を読まず、高橋さんに話しかけ、ポケットから出した飴を高橋さんに渡した。
驚くリバティの四人と、あとから来た先生。……気持ちはわかる気がする。
「ありがとう。オレンジか、ブドウは無いか? あと、皆の前では、ね?」
「ブドウは~、マスカットならあるですよ」
そんなやり取りを珍獣でも見るような目で固まる俺と校長先生以外。
早くシオリ来ないかな……。
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