◆第27.5話 裏切り者たち(聖一視点)

「君、このあたりで暴れている人物がいると通報があってね」


 ふう、驚かせやがって、俺を特定して来た訳じゃねえのか。めんどくせえな。相手はどうにでもなる警官だが、ここは優等生モードでいくのが無難か。


「それは怖いですね。でしたら早めに帰ることにします」


「その方が無難です。ところで君は学生のようだが、あまり夜に出歩かないようにね」


「はい。ありがとうございます」


「それと、タバコは預かろうか。本来なら補導させてもらい、親に引き取りをお願いしているんだが、今は、ね」


「あ、すいません」


 しまった。タバコ持ったままじゃねえか。しかたねえな、またそのへんのヤツらを殴って奪えばいいだけだ。


 火のついたままのタバコと、残りのタバコを警官に差し出した。


「素直でよろしい。もう吸うんじゃないぞ? あと、今回だけは名前も住所も聞かないことにする」


「はい。わかりました。ありがとうございます」


 タバコを受け取った警官が周囲を見渡し頷きながら歩き始める。俺の真横を通りすぎ、ずに止まり、小声で――


「成瀬家嫡男の聖一くん。あまり羽目は外さないでくださいね。佐藤家の豪くんが捕まった経緯もあり、今しばらくは揉み消すことも難しくなりそうなので」


「なっ!」


「それに、先程の通報は実際に警察に来てます。この付近に手配された私以外の者たちは我々の手がかかっていない者ですので、お気をつけください」


「チッ、しかたねえか。わかった、佐藤先輩の後に続くつもりはねえからな、その忠告を聞いてやる」


「そうしていただけると助かります。では」


 にこりと笑いながら遠ざかっていく警官。そして俺の手にはさっき渡したばかりのタバコが持たされていた。


 あの警官いつの間に……。だが、御三家の者だったのか……ん? チッ、また警官か、……今のヤツに言われた通りか。


 通りを挟んだ側にも手の者じゃない警官がいる。……見つからないようにとかクソめんどくせえことやってられねえよな。


 火のついたままのタバコを足元に落として踏みつける。ならやるつもりだったオーバーフローをやるしかねえってことか。


 スマホを取り出し二葉を呼び出す。三コール目が鳴るか鳴らないかのタイミングで繋がった。


「二葉、今どこにいる?」


『今はタクシーを呼んで帰るところだよ。場所はさっきのラブホテル』


 なんだ、まだホテルにいたのか。だがちょうどいいな。


「今からダンジョン行くからよ、佐藤先輩が捕まった商店街まで来てくれるか?」


『私たちが見てた方でいい? ダンジョン行くなら装備もあった方がいいよね』


「おう。持ってきてくれ。商店街まで十分くらいでつくからよ」


『わかったわ。すが行くから待っててね』


 通話を切り、対岸の警官が俺とは反対側に歩いていくのを見て、スマホを戻した手でタバコを取り出し火をつける。


 少し歩き、大通りを少し進み寂れた商店街に入ると、一角だけ黄色のテープで囲われた、佐藤先輩が捕まった現場が見えた。


 誰もいねえな。通行人も何人かいるが、ほぼすべての店がシャッターを閉めている。現場の店もその一つだ。


「レイのヤツ、なんで急に強くなりやがった、……まさか隠していてのか!?」


 口にしてからそれはないと確信する。レイのヤツはなんでもかんでも俺様に言ってきてたからな。


 隠し事は無い。俺様が二葉にレイの彼女役をさせていたことも全部報告してきてたからよ。


 アイツ――


『ありがとう聖一。俺に彼女ができたよ!』

『どうすればいいのかな?』

『手、手をつないだりするんだろ?』

『やっぱりデートに何回か誘ってからかな?』

『聖一、デートの誘い方教えて!』


 ――ってな。


 てかよ、何が『手をつないだりするんだろ?』だ。もっとガキでもキスくらいやってるってのにな。


 まあ俺様がそんな情報をレイにやるわけねえし、遠ざけてやってたからよ。今でもコウノトリがーってやつを信じてるかもな。


 保健体育の授業も――


『体育時間だぞ、机に座ってられるか』


 ――と、連れ出してサボらせていた。残りの懸念は、ほぼ毎日通ってる病院の看護師たちだ。


 そんなこと教えることなんか無いだろうとは思ったが、念のために看護師達を口止めのために買収したのは手間だったらしい。


 それも御三家が立てた作戦の一つで、最終的に、うちの手の者が結婚して、管理する予定だったからだ。


 手の内の者じゃない女と子供でも作られたら、これまで積み上げてきた金が無駄になっちまうしよ。


 もちろん二葉にはデートはしても手なんて繋がせるなと言っておいたがな。


 商店街の出口に近づいた時、一台のタクシーが止まった。


 近づくとドアが開き、二葉が見え、そのまま乗り込む。


「いいタイミングだ。運転手、Eランクのダンジョンへやってくれ、急げよ」


 ドアが自動的に閉まると――


「Eランクダンジョン前ですね。了解しました。シートベルトをお願いいたします」


「下らねえこと言ってねえでさっさと出発しろや! ぶん殴られてえか!」


「お客さん。シートベルトは後部座席も装着してもらうのがルールですので、そう言われましても」


「っ! ふざけやがって!」


 ドアを乱暴に開け、外へ出ると運転席側に回り込み、ドアを開けた。


「お客さん何を――」


「うるせえ! とっとと降りやがれ!」


 ガスッ!


 顔に一発入れた後、運転席に頭から突っ込みシートベルトを外して運転手を引きずり下ろした。


「ひっ、ひい!」


「てめえは! 俺様の! 言う通りに! 運転してれば! いいんだよ! わかったか!」


 続けて六発殴り付けると、運転手はアスファルトの地面で小さく体を丸めて転がっていた。


「おら、さっさと出発しろ!」


 今度は蹴りを入れてやる。


「は、はい、わ、わかりましたからもうやめ、やめてください!」


「最初からそうしとけやクズが!」


 最後にもう一度蹴りを入れて後部座席に戻る。血まみれの運転手が席に戻り、ドアを閉めた後タクシーを発車させた。







 当然金など払ってやる気はない。


『料金を――』


 とふざけたことを言ってきたから殴ってやり――


『お釣りは要らねえからさっさと消えろ!』


 ――と、言ってダンジョン前でタクシーを降り、二葉と二人、装備を確かめながら入口に向かう。


 門番はまだいる時間だが、問題ない。ここの門番は御三家の手の者がやってる。


「おい、入るぞ」


「許可証の提示――あ、成瀬の坊っちゃんでしたか。どうぞ。今日はお二人のようですが、いつものレベル上げですね」


「おう、そんなとこだ。わかってると思うが――」


 レベル上げじゃねえか、こんなところで門番するような底辺のヤツに、わざわざ説明なんてやる必要はない。


「はい、入場の記録は消しておきますので、どうぞお通りください」


「おう。行くぞ二葉」


「うん」


 二葉を引き連れ、ダンジョンに入る。後ろで何か言ってた気がしたがどうでもいい。俺のストレス発散の邪魔になるだけだ。

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