第28話 修行開始と急展開?

 タクシーを呼び乗り込むと、ビジネスホテルではなく、俺たちはいつものダンジョンまで乗せてもらった。


 運転手さんはなぜか――


『Eランクのダンジョンへ』


 ――と言うと、その喧嘩でもしたような顔をひきつらせながら――


『り、了解いたしました』


 ――と言い、急発進じゃない? ってくらいの勢いで走り出した。


 それに到着すると――


『料金はいただけません!』


 ――と、タクシー代を受け取らず、俺たちを降ろすとタイヤを鳴らしながら去っていった。


「運転手さん、何か変でしたね? お金も受け取ってくれなかったのです」


 うん。本当に受け取らないとか、なんなんだろう。


「タクシー代の方は後日タクシー会社へ持っていきましょう。料金は五千四百円でしたわ。名前も控えておきました」


 さすがお姉さん。俺はまったくそんなことに気づけなかった。


「それに、……誰もいないのです」


「シオン。門を管理するギルド職員の方はいらっしゃいますわよ。ほら」


「いたのです」


「ですがこの時間にここに来てどうなさいますの? ここには宿泊施設など無かったと記憶しておりますが」


「それは――」


「ぬふふふ。お姉ちゃ~ん。それは見てのお楽しみなのですよ~。ほらほらお姉ちゃんは安心しておんぶされててくださいです」


 背中のお姉さんに説明しようとしたのにシオンがかぶせてきた。内緒にするようだ。


「シオン。それじゃお姉さんも安心できないぞ? だけど戦闘は本当に一人で大丈夫か?」


「任せるのです! お姉ちゃんにツヨツヨなわたしを見せてあげるのですよ! 行くのです!」


 そう言って、駄菓子がパンパンのエコバックが四つも吊るされたバックパックを担いだシオンがダンジョンの門へ向けて歩き出した。


「はぁ、シオンったらまた勝手に……。レイごめんなさい。あの子、ああなると止まりませんわ」


「ははっ。楽しくていいじゃないですか。それじゃあ俺たちも行きましょう。しんどくなったら言ってくださいね」


「はい。あの、その、私、重くありませんか?」


 俺の大きいバックパック、中身はたくさんの食材を背負い、手にもエコバックをもってもらっている。


「軽いくらいだよ。それに、このくらいの荷物なら持ったままでもゴブリンくらいは蹴れば余裕だしね」


 そう言って歩き出し、今朝も使った入場許可証を管理していた職員さんに見せ、会釈をして止められることもなくシオンを追いかけた。





「とうちゃーく! じゃあ行くですよ!」


 道中危険を感じることもなく現れるモンスターたちを倒して進み、目的地についた俺たち。


 そして休むことどころか止まることもなく、シオンはバーンと勢いよくモンスターハウスの扉を開け放ち飛び込んでいく。


「え? 何っ! シオン待って! レイだめですわ! ここモンスターハウスですわよ! ああー! レアゴブリン! メイジまでいるじゃないですか! 戻りなさいシオン! レイも止め――」


「あははは! よし! 一気に行くぞ!」


「止まってくれませんのぉー!」


 飛び込んだ矢先に『ふれいむぼーるです!』と、動き出し始めたゴブリンたちに向けて撃つシオン。


 お姉さんをおんぶしたままゴブリンに突っ込み飛び蹴りをした俺。


 ものの数分でメイジを始めゴブリンたちを倒しきり、散らばった魔石を拾い集め始めた。


 ちょこちょこと走り回りながら魔石を集めるシオン続き、俺も手伝おうとお姉さんをおんぶから下ろしたんだが、ひょこひょこと歩きシオンの元へ歩き始めた。


「あ、お姉さんは待っててもらっても俺たちで拾うから大丈夫だよ」


「……」


 返事をしないお姉さん。危なっかしく歩くからいつでも支えられるようについていく。


「にゅ? お姉ちゃん?」


「この…………、馬鹿シオン!」


 シオンが魔石を拾い上げ立ち上がったその時、『この』をめちゃくちゃ溜めてから、いつの間にか持っていた本を――


 ゴン――


「ひにゃ!」


 ――振り落とした先は、シオンの頭。


「…………」


「痛いのです」


「……お姉さん? 何か怒ってるのか?」


「当たり前ですわ! 何を考えているのですかあなたたちは! いつもモンスターハウスにたった二人で入っているのは知ってます! それでも今は十分にからだが動かない私がいて、それもおんぶしてもらっていると言うのに飛び込むなんて! ……怪我したり死んじゃったらどうするのですか……」


 怒った横顔の目からポロポロと溢れ出した涙。そして頭をおさえ痛がるシオンを抱きしめた。


「あ……、そっか」


「お、姉ちゃん。ごめんなさいです」


「俺もごめん。心配かけたよな」


「馬鹿。馬鹿シオンに馬鹿レイ……」


 ガコン――


 そんな時、前と同じようにモンスターハウスの奥の壁に黒い入口が現れた。


「え? な、なんですの、あの黒いのは……」


 俺たちは開くのを知っていたから驚くこともなかったんだけど、始めてのお姉さんだと流れていた涙が止まってしまうほどの驚きだったようだ。


「えっ! 出口がありませんわ! 閉じ込められてますわよ! 三階層のモンスターハウスにこのようなトラップがあるなど記録にもありませんわ! 二人とも警戒してください! 私も魔法で対処して見せます!」


 そう言ってどこからともなく、本ではなく身長ほどの杖を取り出し戦闘態勢になるお姉さん。


「心配しなくても大丈夫だよ。あの黒いところの奥が目的の場所だから」


「そうなのです。ちょっとサプライズでびっくりさせたかっただけなのです。だから安心して大丈夫なのですよお姉ちゃん」


「は? え? あの奥へ行くのですか? トラップ、じゃない? ど、どういうことですの?」


 混乱が再開され、入口を見つめたままフリーズしているので、今のうちと魔石を拾い集め、今度はお姉さんをおんぶではなくお姫様抱っこで入口をくぐる。


 先頭シオンが、建ち並ぶ鳥居の向こう側へ届くように――


「タマちゃん来たのです!」


 ――と元気よく呼び掛けた。


「……あれ? タマちゃんいないのです?」


「ダンジョンを散歩でもしてるのかな? とりあえず社務所しゃむしょに行こうか。お姉さんもまだ固まってるし」


「はいなのです」


 幾重にも連なる鳥居を抜けて、くぐり抜けた先の社務所に到着した。


 中に入り、お姉さんの靴はシオンが脱がせ、二十畳はある部屋で下ろし座らせたんだけど、まだぼーっとしたままだ。


 持ってきた荷物を畳の上に下ろした時、あわただしい足音が近づいてくるのが聞こえてきた。

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