第27話 火事→ダンジョンへ

 玄関を乱暴に開け、屋内ガレージに飛び出した。思わず鼻を覆いたくなる煙の臭いを感じた。火事か?


 そこへ管理人さんもバンッと一階側のドアを開け、走り出て来るなり俺たちを見つけ叫ぶ。


 普段は二階の玄関を使う管理人さん。ここを使うのは車を使う時くらいだ。その管理人さんが――


「うちの二階玄関前、レイの元いた部屋から出火だよ! あなたたちとりあえず外へ出てなさい!」


 ――そういいながらも走る足は止めずに動き出していた電動シャッター前まで行くと、備え付けの消火器を手に取って開きかけのシャッターをくぐり出ていった。


「急ごう。俺も消火器を持って行くからお姉さんはシオンが支えてあげて」


「はいです! お姉ちゃん行くですよ!」


「ええ。シオン、お願いね」


 一度部屋に戻り、玄関に置いてあった家庭用の消火器を引っ張り出して部屋を出た。







 アパートの住人がよってたかって消火器を振り回し火は消し止められた。


 それも消防隊員たちが到着したとほぼ同時に。


「お疲れ様。ありがとうねみんな、怪我はないかい? みんなが頑張ってくれたから小火ぼやで済んだよ。本当にありがとう」


 管理人さんが消火を手伝った俺と、このアパートの住人たちにすすまみれの顔を見て笑顔になる。


 するとみんなは口々に――


「いきなりベルが鳴ったから焦ったけど消せて良かったな婆さん」

「それな! 俺なんか風呂入ってたからよけいだぜ。それと今月の家賃安くなんね?」

「いや、あんた、それは良いから服来てこいよ! 腰バスタオルでよく来たなマジでって、ゆるんでる!」

「しかしなんでこんな所から火が出たんだ?」

「いや、今のスルーかよ! てか、ケツ丸見えだろ!」


 ――そんな時、火が出た元俺が済んでいた部屋の新しい住人だろう髪の毛が少しチリチリになり、一番煤だらけになっている人が謝り始めた。


「す、すいませんでした! 僕、引っ越しの段ボールをまとめて外に置いてあったのが悪いんです!」


 確かに段ボールとか新聞を出せる日はまだ先だから出しておくのは駄目ではある。


 だけどここは二階建てアパートの二階の一番奥の部屋で、通路の突き当たりはコンクリートの壁だ。


 二階だから外からのタバコのポイ捨てなんかで段ボールに引火なんてことも考えられないし……。


「それは今後注意してもらうとして……、問題はこの小火は放火の可能性が高いってことだね。見てごらんよ」


 管理人さんが指差した先には段ボールの燃えカスと、消火器から出た白い粉、それと小さな四角い物が落ちている。


「ZIPP○だねこれは。あ、触らないでね、消防と警察の人に見てもらわなきゃ駄目だろうから。ほら、来てくれたよ」


 階段を駆け足で上がってくる複数人の足音がきこえた。


 オレンジ色の制服の消防士さん五人と、警察官が二人、火が消えていることを目で確認したからか、走るのを止めて歩きやって来た。


「ご苦労様。火元はここだね。それとオイルライターが落ちてたよ、ほら――」


 俺と、住人たちは消防士と警察官たちに場所をゆずる。ここにいても力にはなれないだろうし、シオンたちのところに戻るか。


 いや、この場合残って事情聴取? 状況説明? を受けた方が良いのか?


 少し悩んでいると、シオンたちが下の駐車場から手を振っているのが見える。飛び上がりながら両手で手を振るシオンの頭をまた本で叩いてた。


 ……小火ですんだけど、小火でも火事は火事だ。消し終えたとはいえあんなに騒いじゃ駄目だよな。


 他にも見たことある住人の方に、見たこともない野次馬たちがたくさん集まって来ていた。


 そして本を消すと今度はお姉さんが俺に向かって頭を下げる。本当にどこから出してどこへしまってるんだ?


 今度聞いてみようと決意した俺は、身振り手振りで『大丈夫』と答える。


 少しほっこり緊張が解けたなと、現場に目を戻すと男性警察官が目の前にいた。


「っ!」


「ああ、驚かせてしまったかな? 下の方は知り合いのようだね」


「あ、はい。今日から……ルームシェアを始めた姉妹です」


 本当は『結婚を前提とした同棲』と言いたかったのだが、二人の『友達から始めよう』の言葉が押し止め、ルームシェアとお姉さんが言っていた言葉を借りた。


「そう、なんだね……」


「何か問題でも?」


「ああ、火災が起きた家にはね、ダイオキシンなどが発生している場合があって、すぐには中に入ることができないんだよ」


「え? じゃあ今晩はどうすればいいのですか?」


 男性警察官は困った顔をして――


「そう、だね。一時避難としてどこかホテルを取ってもらうことになるはずだ」


「この時間から取れるホテルとか近くにねえだろ! 金なんか持って出てきてねえぞ!」

「そうだそうだ! 俺なんかバスタオルだけなんだぞ! 服くらい取りに行かせろ!」


 ここに来て消火をした住人たちも同じことを言われたようだ。その前におじさん。バスタオルはせめてちゃんと巻こうね。


「ああ、その程度なら、消防隊員の方に防毒マスクを借りて中には入れますから」


 とか言われてもな。この近くのホテルと言ったらビジネスホテルがあるにはある。


 アパートの住人が何人かわからないけど、満室だと言っていたからうちが三人、管理人さん、残りが十人だ。


 一度に予約無しで泊まれるようなものなのか? しかももう夜だ。泊まるにしても急いだ方がいいだろうな。


 俺とシオンだけならダンジョンに行って、タマちゃんに泊めてもらうことも可能だけどお姉さんがいる……、ん? いても大丈夫なのか?


「――隊員が付き添いますのでなのですみやかに必要なものだけを取りに入ってください」


 少し考えていたら話が進んでいた。説明はもう終わりなのだろうか。何もしてないんだけど……。


「はい、コレ君のマスクね。下の方にも配っているから心配ないよ」


 防毒マスクを受け取り一階へ降りる。シオンとお姉さん、そして消防士のおじさんを引き連れて部屋から財布や探索用の装備と買ってきた食料を持ち出した。


消防士のおじさんは、『そんな食料を持っていくのか?』と不思議そうにしていたが、構わずもって出た。


最後に住人や、野次馬の方も一緒に足跡を取られ、放免となったがどうするか……。


「シオン、お姉さん。ちょっと泊まる場所だけどさ――」


二人だけに聞こえるよう顔を寄せてささやいた。


『ダンジョンへ行こう』

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