第26話 友達から始めよう

 高いお肉を奮発したお陰で箸が進み、三人で十人前は食べたと思う。


 それに、エバ○食品の黄金○味、生姜焼きのたれと一緒に買った、すき焼きのたれが良かった。三人とも納得の味だったから次回も買おうと思っている。


 二人には休んでもらい、食卓から鍋や食器をキッチンへ運ぶ。


 最初、手伝うと言ってたが、退院して倒れたお姉さんを見ていてもらうためにシオンにはお姉さんを連れてリビングのソファーへ移動してもらった。


 そこで買ってきた物をシオンがお姉さんに披露し始めたようだ。 


「あっ、そうです! お姉ちゃんの歯ブラシとか買ってきたのですよ! なんと! 今期のプ○キュア電動歯ブラシと落としても割れることがないプラスチック製のコップ、さらにストロベリー味の歯みがき粉が付いた豪華三点セットです!」


「プリっ! シオン! また自分の趣味の物を! それ子供用ですわ! 普通のは買ってないのですか!」


「え? 駄目なのです?」


「駄目じゃないですが、私が使うものとしては駄目に決まってますわ!」


 ゴン――


 対面キッチンの中から見ていても、どこから出したのかわからないが、分厚い本でシオンの頭を叩くお姉さん。


「んきのゃっ! また同じところだったですよ!」


 また……、病室でも叩かれていたもんな……。


「まったく。以前も同じことをしでかして、注意をしたでしょう」


「うぅ。頭が割れちゃうのですよ。……ん? コレなんなのです?」


 シオンがソファーから取り上げたのは、風船だ。


「ああ、それならさっき管理人さんに持たされた風船みたいだね。まったく。十五歳の俺たちがこんなもので遊ぶとか思ってるなんてな」


 シオンが取り上げ、『風船なのです?』プラプラとさせているうちにまで顔が真っ赤になってきた。


「おいシオン顔赤いぞ、お前もお姉さんみたいに――」


「お、お姉ちゃんコレ、コンドーさん。だよね? 実物は初めて見たのです」


 近藤さん? 誰だその人。その人が発明した風船ってことか?


「……そのようね。それを風船だと……」


 お姉さんもまた赤くなってきている――っ!


「おい! 二人とも横になった方がいい! 顔が真っ赤だぞ!」


 洗い物をシンクに少しガチャガチャと鳴るほど乱暴になったが置き、二人のもとに向かった。


 のだが、なにか様子が変だ。ジト目で二人が俺を見てくる。そして――


「お姉ちゃん。これはやっぱり色々とレイに教えないと駄目なのです」


 なにを教えてくれるのだろうか? 風船の遊び方? 膨らませる以外でなにかあるのか?


 いや、今はそんなことより、二人の体調が……、悪くはなさそうか?


「そのようね。このレベルの無知は罪ですわ」


 俺を見たまま、肩をすくめて小さく首を横に振るお姉さん。


「ところでシオン。何度も注意しているのですが、名前、もしかしてレイが本当の名前ですの?」


 その視線を俺から横にいるシオンへ移してそう言った。


「うん。あ! 今の無しです! 『うん』取り消しです! レイは違ってイレなのです!」


 正直に勢い良く頷いてから気がついたのか、風船を振り回しながら否定している……。


「……」


 これはバレたな。シオンがずっとレイと呼んでいたことに気づき、何度も目で合図を送ってはいた。


 だけどお姉さんはその事について訂正もしなくなっていたから、バレないもんだなと思っていた。


 焦ってしどろもどろになっているシオンから目線を戻し――


「そう。ではレイ・・さんがこの風船と言ってるものはひとまず置いておきましょうか。今はそんなことより、レイさんが名前をイレと名乗っていた訳。詳しくお聞かせしてもらえますか?」


 ――駄目だ。完全にバレてる……。ここが打ち明けるタイミングなのかもしれないな。


 それにこれから一緒に暮らしていく。ずっと黙っているのにも限界は近いだろう。


 それに、あの後三人が揃った時――


『責任を取らせて欲しい。どうか俺のお嫁さんになってください』


 二人にそう言ったんだ。が管理人さんと同じようなことを言いひきつった笑顔で――


『『友達から始めましょうねるのです』』


 ――と説得された。


 まだ納得はいってないけど、これから毎日顔を合わせるようになったんだ。今までのことを話しておくのは当然だよな。


「……はい。実は――」




「――と言うことがあって、シオンを仲間に誘ったんだ」


「そう、だったのですね。そんなことがあったなんて……わかりました。言いづらいことを聞いてしまい申し訳ありません」


「いや、どちらかと言えば聞いてもらって、気が楽になったよ」


「でしたら少しはお役に立てた。と、受け取っておきますわ」


 そうだ、あのことも言っておかないとな。


「それから俺とシオンは今後もしばらく毎日ダンジョンに朝から夜まで通うことになる」


「修行とスキルオーブ集めをするのです」


「修行? スキルオーブは私のためなのは理解しておりますが、修行とは? もしかして病院へ来る前に襲われたからでしょうか?」


「それも理由のひとつだな。だけど、まだ正確にはわかってないんだが近いうちにヤバいことが起こるらしい。だからそのヤバいことを乗りきるためにやる予定なんだ」


「ヤバいこと、ですか――」


 ジリリリリリリリ――


「っ! なんだ火事か!?」

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