◆第24.5話 裏切り者たち(聖一視点)

「聖一、佐藤先輩が捕まっているところはわかったわ」


「早いな。こっちもダンジョンのオーバーフロー作戦はまだ少し時間がかかるってのに。それで、先輩はどこだ?」


 佐藤先輩がレイの襲撃に失敗したその夜。俺と二葉はまだラブホテルに滞在したままだ。


 二葉に佐藤先輩の居場所を探るよう言っておいたが、数時間でその場所を特定したようだ。


「場所は最悪よ。すでに警察の探索者専用刑務所に入ったみたい」


「チッ! いきなりそこかよ! 手が出せねえじゃねえか!」


「うん。どうする? 山本先輩が言ってたように大人しくするしかないのかな」


 俺の予想では探索者ギルドか、市の警察署だったんだが……、刑務所かよ。……どうするか。


「クソ! 二葉酒だ!」


 ここに来てすぐの一本。二葉と二回戦を終えて二本をたて続けに飲み、これで四本目だ。


 カシュ――ピロリン――


 酎ハイのプルタブを起すのと同時に二葉のスマホがメッセージを受け取ったようだ。


「……聖一。探らせていた者が追加で送ってきた話だと、佐藤家の暗部が動いているみたいなの。もしかすると佐藤先輩はすぐに救出されるかも。それに――」


「それになんだ?」


「山本家がレイ暗殺から手を引いたそうよ」


 佐藤家の暗部が動いたのは良い知らせだが、もうひとつは何を言われたのかすぐには理解できなかった。


 だが内容が頭に入った後はやっぱりなと……。


 レイが持つスキル、レベルがあるだけの『身体強化』が持つ可能性に着目し、将来的に利益が出ると見越した御三家。


 そこで俺をヤツの友達として送り込んだ成瀬家。候補には佐藤先輩と山本先輩も候補に上がったが、同じ年齢だったことが決め手だった。


 御三家はいち早くその可能性を手にするように全日本技術研究所へ投資を始めた。


 だが、ヤツは期待を完全に裏切り、スキルレベルが上がろうと、何一つ強くならなかった。


 そこでこれ以上投資をするのもバカらしい、投資を無駄にされた報復としてレイを殺害することになったんだが……。


「だろうな。予想はしてたさ、山本家は引くのが早いからよ、さっきの山本先輩が動くなと言った時、そうなるだろうと思ってたからな」


 開けたばかりの酎ハイを半分ほど喉に流し込む。


「そうだ、もうひとつの方はどうだった」


 すまなさそうな顔で二葉が続ける。


「レイの以前住んでいた部屋には別人が住んでいたそうよ。研究所にもいないみたい」


「そ、っか」


 スマホをサイドテーブルに置き、裸で俺の腕に絡み付いてくる二葉を振りほどき、抱き寄せる。


 なんで上手く行かねえんだ。レイをモンスターハウスに置き去りにしたところまでは完璧だった。


 苛めていたから難しいと言われていたレイと偽りの友達になった。成功した時の親父たちの顔は笑えたな。


 だがそれからの日々は地獄だった。好き勝手やっていたことを止められ、遊びたくもないレイとの日々が続いたからだ。


 まあ、見てないところでストレスは発散しまくったがな。


 色々とやったが街を歩くカップルを見つけては美人なら彼氏をボコボコにして縛り、目の前で女をいただいた時の彼氏の顔は傑作だった。


 何組かは処女で、その中にクラスメイトもいたっけな。どうでもいいがあの後学園にも来なくなった。自殺でもしたか?


 一番はやはり金魚のフンみたいについてくるレイの絶望した顔が見たくて、許嫁の二葉をレイの彼女にしたてて寝取り気分を味わった。


 ああ、絶望するレイの顔は見損ねたままだな……。記憶喪失か……、なら二葉は使えねえ。


 ……残りカスを使うか。小学生並みのスタイルだが、確か双子の姉はスゲー美少女だったよな?


 ……いまいちインパクト不足になりそうだが、どうやる。佐藤先輩のような真っ正面からだと今は警戒しているだろう。


 まずは――


「二葉、残りカスの居場所は調べられるか? カスの姉は病院だったよな?」


「それが、今日退院したそうなの。残りカスは泊まり込んでいたから今は行方はわかってないわ」


「チッ! アレも駄目! コレも駄目ってか!」


「キャ!」


 まだ半分近く入っていた酎ハイを壁に投げつける。


「気晴らししてくるわ、二葉は帰れ」


 さっさと服を着て、何か言いたそうな二葉を置いてラブホテルを出た。





 週末の賑わう街を歩く。幸せそうなカップルを狙い、体をぶつけに行っては男をボコボコにしてまわり、戦利品として大事にしてそうな物と金を抜き取る。


 お、これは女物の○レックスか、プレゼント用の梱包がされていたから期待したんだが、売るしかねえな。だが、まだまだこんなんじゃ気は晴れねえ。


 なん組ものカップルを襲撃してたどり着いたのは見たことのあるアパートだった。


 二階建ての、どこにでもありそうなアパート。レイの野郎が住んでいたところだ。


 確か二階の一番端だったか。


 なんの関係もない、赤の他人が住んでるであろうその部屋に無意識で向かっていた。


 部屋の外には引っ越しで使われたと思われる段ボールの束がまとめてまずは積まれている。


「はっ、無用心だな、燃やしてくれってか?」


 キンッ――ジャキン――ボッ――


 ここにつく直前で奪ったタバコケースから取り出したオイルライターに火をつけ、積まれた段ボールに放り投げ火を着けた。


「ひひっ。よく燃えやがる。そういやZIPP○オイルも入ってたよな……、おお! 燃える燃える! ひゃははは! これでちょっとは警察もバタバタするか。あ、この場合は消防署か。……くだらねえ」


 その場を離れ、街に向けて足を向け、タバコをくわえ気がついた。


「あ、しばいたヤツが限定モデルのライターとか言ってたな……。ちともったいねえことしたか? ……ま、いっか。てかよ、こんなんじゃ駄目だ、もっと俺を楽しませることはないのかよ」


 近くにいたおっさんをシバいてライターを奪い火をつけた時、けたたましく鳴り響くサイレンが俺の横を通りすぎていく。


「来るの結構早いじゃないか、これじゃあ全焼は無理そうか。……こうなったらオーバーフローの様子でも見に行くか。そこでモンスターでもぶっ飛ばして気晴らしするしかねえな」


 ダンジョンオーバーフロー。御三家が進めているダンジョンの大災害、モンスターをダンジョン外へ追い出し、街を破壊させる作戦だ。


 そして壊れたこの街のインフラ整備を受け持つ御三家が大儲けする。スゲー鬼畜な作戦だ。


 本当なら半年後を予定していたが、俺様がほんの少し時期を早めてやろうってことだ。


「くくっ、いい気晴らしになりそうだぜ」


「君、少しいいかな?」


 誰だ!? 今の独り言聴かれた!?

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