第24話 忘れてましたぁぁぁあ!
「たっくさーんの~お~肉ぅ~さぁ~んを~――」
とりあえずの生活用品と、お肉をメインに沢山購入を決めて会計を済ませたアパートへの帰り道。シオンが謎のお肉の歌をスキップしながら歌っている。
もちろんシオンが軽々と持つエコバッグにはお肉がぎっしり入っている。というか肉だけだ。
どんだけ買うんだよと思わなくもないが、余ったら小分けして冷凍しておけば大丈夫だろう。たぶん。
道行く人たちは、その様子をなま暖かい視線を送ってくるんだけど、俺たちの行く手を開けてくれるように端へよってくれる……。
でも、良いのかコレ……。まあご機嫌になっているし、たぶん誰かに迷惑をかけてるわけでもない、はず。
そういえば昔、三久と保育園の帰り道によく歌った気がする。
兎追いしかの山。ずっと、兎『美味しい』かの山だと思っていた。同じ勘違いをしていた人は多いはずだ。三久も同じだったからな。
両親が探索帰りによく持って帰ってきていた角兎がドロップする肉が美味しかったのも要因のひとつかもしれない。
「とうちゃーく!」
「あっ、シオン、ポケットに鍵が入ってるんだけど出して開けてくれるか?」
「ぬ?」
両手に荷物を持っているから出すことができない。米や油、野菜なんかも大量だ。……食べきれるのだろうか。
余りすぎたら管理人さんにもお裾分けした方がいいかもしれない。
それに最大の重量物。パーティー用の2リットルペットボトル六本が沢山入っているエコバッグが二袋だ。
身体強化で力が上がっているとはいえ、一度下ろしてしまうと次に持ち上げるのは少し嫌だと思う。
振り返ったシオンは大阪の道頓堀で有名な、あのグ○コのポーズだ。片足立で器用に振り返ったもんだと感心する。
そのポーズのままコテっと首をかしげるシオン。本当にこの仕草って、可愛い女の子がやるとグッとくるよな。
「どこです?」
「――あ、前の右ポケットにあるよ、そうそうそっち。出してくれるか?」
少し見とれてしまっていた。くっ、……駄目だ、さっきのこと思い出してしまい、俺の俺が身体強化してしまってる!
「任せるですよ!」
シオンが持つと聞かなかったお肉が入ったレジ袋を片手に持ちかえポケットを探ってくるのにあわせて少し腰を引く。
「あ、合鍵を作らないと駄目だな。一応管理人さんにぃ! シオンそこ握っちゃ駄目! 鍵! 鍵だけ探して!」
腰を引いたせいが、カーゴパンツの深いポケットをまさぐる手がさらに奥へ――
あ、ヤバい! 俺の俺が包まれるように……、って呆けてる場合じゃない! 握られてるからっ!
「駄目? ん~、なにかカチコチなのです? ん~、あ、これです」
握らてれていた俺の俺から手が離れ、鍵を見つけてくれたのか、ポケットから出ていく白く細い手に鈴のキーホルダーが付いたアパートの鍵がつままれていた。
チリンチリン
はぁ、気づかれてない……みたいだな。良かった……。
というか、キーホルダーは買えた方がいいか。ダンジョンで鈴の音に気づかれる可能性があるよな
はぁ、これはすぐにでも合鍵とキーホルダーが必要だ。が、今回は先にシオンへ鍵を渡してなかった俺の落ち度だ。
すまんシオン。と心の中で謝り、このことは墓まで持っていくと誓いを立てた。
「おっねえちゃーん、たっだっいまーぁ? いないのです」
「ん、そのようだな。あっ、シャワーの音が聞こえるからお風呂じゃないか?」
耳を澄ますとお風呂から水が床へ当たる音が聞こえた。
「ぬー、ずるい。私も『退院おめでとうお姉ちゃんパーティーお肉編』の前にお風呂入りたかったのにーです」
パーティーの名前があったんだな。だけどお肉編って……。吹き出しそうなところを全力で我慢する。
「くくっ、入ればいいじゃん。すき焼きだったら野菜と焼き豆腐を切るだけだから俺でもできるし入ってきていいよ」
「本当です? じゃあじゃあ冷蔵庫にしまって入ってくるです!」
体を光らせて、シュンと高速で冷蔵庫前に移動するシオン。……身体凶化スキル使ってるじゃん。
生活用品をリビングに置き、残りの食材をシオンのあとを追いキッチンに向かう。
白菜とネギ、しいたけに豆腐を残してシオンが入れ込みしている冷蔵庫の順番待ちだ。
「完了なのです! お風呂行ってきても大丈夫です?」
冷凍食品を入れた冷凍庫をしゃがんだまま閉めながら見上げてくる。
ハラリと前髪が横に流れ、キラキラと期待してますって目が見えた。
ほんの少し返事の間を開けてしまっただけで、大きな目がうるうるとしてきた。
見つめすぎて返事してない!
「う、うん。あとはやっておくよ。行っといで」
「はいです! いっきまーす!」
笑顔で駆けていくシオン見送り購入した物で、今から使わないものをしまっていく。
『お姉ちゃーん。私も入るよー』
脱衣所からシオンの元気な声が聞こえた。
早いな!? ……ということは今、シオンはまた……。
『――あわわわ! お姉ちゃん大丈夫です! アチアチですよ! お姉ちゃんがゆでダコなのです! レイ! お姉ちゃんが!』
よからぬことを考えていたら俺を呼ぶ、それも慌てたように。
っ! まさかお姉さんの怪我がまた!
「どうした! 何か――」
一大事だと手に持っていたものをその場に落として脱衣所に駆け寄り勢いよく開けた。
「お姉ちゃんが倒れたです! ど、どうしたら! お姉ちゃん死んじゃう! レイお願い! お姉ちゃんを助けて!」
「シオン! そんなに揺すっちゃ駄目だ! 頭を打ってるかもしれない!」
二人は裸で、お姉さんがシオンにもたれ掛かるようにぐったりして、息も荒く、半開きの口からは『はぁ、はぁ』と呼吸音が短く早く連続している。
「頭は打ってないです! ちゃんと受け止めたです!」
「よくやった! だったら――」
まずは寝かせないと駄目だろう。スーパーの横にあるホームセンターで購入したシオンたちの布団はまだ届いていない。夕方に届く予定だ。
なら俺の部屋だ。
「――シオン、場所を交代だ。俺の部屋の布団に寝かせよう」
「はいです! お願いなのです!」
シオンとお姉さんの間に体を入れ、背中側からと、ひざの裏に手を伸ばし、一気に立ち上がる。
柔らかい――っ! 今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ俺! しっかりしろ!
「行くぞ、シオンは一応俺が落とさないように補助と部屋のドアを開けてくれ」
「わかったのです。お姉ちゃんを守るです」
脱衣所を出て、ほんの数メートル。シオンが部屋のドアを開け、押し入れに畳んで入れてあった布団を出して広げてくれる。
「あ、掛布団どけなきゃ」
「よし、そっと下ろすから、枕の位置を頼む」
コクリと頷くシオンを見てからそっとしゃがみ、ひざをついて、敷き布団の上にお姉さんを寝かせた。
「よし。シオン。俺はすぐにお医者さんを――」
掛布団を掛けたその時お姉さんが目を開けた。
「……あれ、私、いったい何が?」
「お姉さんはお風呂から出たところで倒れたようです」
「そうなのです。アチアチになってたのですよお姉ちゃん。大丈夫?」
「のぼせたのかも知れませんわね。少し長湯をしてしまったようですから」
「そっか。今から病院に連絡しようと思っていたんだけど、のぼせただけなら大丈夫かな?」
「ええ。少し喉が渇いており、ボーッといたしますが大丈夫なようです」
「わかった。じゃあ水、よりスポーツドリンクの方がいいか。シオンはお姉さんを見ててくれるか? 俺はすぐに飲み物持ってくらから」
「はいです! 任せてください! 穴が空くほど見ておくのです!」
いやいや穴は空けちゃ駄目だろ……。
「あの、ところでシオンはなぜ裸なのでしょうか?」
落ち着いて気がついたが、そういえば――
「お姉ちゃん? 裸? ………………っ! んきゃあぁぁぁああ! 私も裸だったのです! 忘れてましたぁぁぁあ!」
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