第23話 ラッキースケべ序章(←おい!)

 死にものぐるいで誤解を解き、管理人室で身の潔白を果たした。


 そして一緒に住むことになった二人をつれて来て、間取りを説明することにする。まずは二人の部屋からだ。


「この部屋が空いてるから使ってね」


「はい。では、こちらのお部屋をシオンと二人でお借りしますね」


 玄関を入ってすぐの、共用スペースにする予定だったリビングから続く四つの扉。その一つが二人の部屋だ。


「お姉ちゃんと一緒の部屋なのです! お布団並べて毎晩パジャマパーティー開くですよ!」


 全部の部屋がフローリングだから、ベッドを買った方がいいかもしれないな。


 敷き布団を敷いても固くて、朝起きると体がいたい時があるから、早めに買いにいこうと決めて、次の場所を案内する。


「はい。それからお風呂とトイレが――」


「お姉ちゃんここお風呂! 洗面所がある! 大きい鏡付きで、シャワーができる蛇口なのです! そして隣がトイレだよ! 別トイレだよ! あっ、次はこっち! ……レイのお部屋でした。何もないのです」


「シオン! 勝手にあちこち開けるんじゃありません! それにイレさんのお部屋まで! ってまたレイさんと名前を間違えていますよ! こっち来なさい!」


「はは……。まあこれから住むんだから自分の家だと思ってくれて大丈夫ですから」


「本当にごめんなさい。よく言い聞かせておきますので」


「はい。あと、俺の部屋も何も物が置いてないので、別に出入りしてもらっても良いですよ。もし、お姉さんたちの部屋に置ききれない物があれば、置いてもらってもオッケーです」


 俺の部屋は布団と、少しの服なんかが置いてあるだけで、まるで生活感がない部屋だ。


 ここ最近はだいぶ稼げるようになってきたけど、贅沢するくらいなら三久の病院代上乗せと、意識が戻り、退院できたあとのためにと、これまでできなかった貯金をしている。


 でも今日はお姉さんの退院祝で少し贅沢なお肉パーティーをするんだけどな。


「いえ。私たちもほぼ荷物がないので」


「そうなのです。前のおうちから何も持ってこれなかったから、病室に置いていた物だけなのですよ」


 二人の荷物は大きめのボストンバッグが二つ、それにシオンの探索用バックパックに、駄菓子がパンパンに入ってるエコバッグが五袋。


『駄菓子多すぎだろ!』と、病室で小さくない声でつっこんだほどだ。


 なので引っ越しはあっという間に終わり、お姉さんを残して俺とシオンは買い物に出掛けることにした。


 最初は『私もいきます』と言ってたけど、退院初日にスーパーへ買い物は無理しすぎだよな。


 それに、このアパートまでタクシーを使ったんだけど、それでも歩きすぎだと、なんとか説得してお留守番を納得させた。




「お肉~、お肉~、お~に~く~。レイ、牛肉で焼肉、しゃぶしゃぶ、すき焼き、ステーキにハンバーグ」


「そうだな。退院祝いだし、良い肉にしよう。だけどその前に食器とかお箸なんかも必要だろ?」


「お箸とお茶碗はわたしの分はありますよ? 病院で使ってたものが」


「じゃあお姉さんの分を買わなきゃね」


「そうでした! お肉が嬉しすぎてお姉ちゃんのこと忘れてました!」


 おい……。それで良いのか妹よ。お姉さんに心から同情するよ。



 ☆sideシオリ


 少し思ったものとの違いもありましたが、住む場所が決まりました。


 同い年の男性と婚前に同棲と言うのでしょうね。シオンに内緒で読んでるTL小説の少しえっちな同棲物に同じようなパターンの物がありました。


 違うところは小説だと男女ひとりずつですが今回は男性ひとりで女性側は双子の姉妹。


 シオンが読んでいた現代を舞台としたファンタジーの方に似ていると分析ができます。


 ハーレムを無自覚で形成する主人公がハーレムメンバーと協力しあい、危機を乗り越え活躍していく成り上がりもの。


 ……もしかしてアパートの管理人さんがおっしゃっていたように、私もハーレムメンバーに加わる流れなのかしら。


 リハビリのため、柔軟をしているせいではない。そう私今、胸がドキドキしています。そして顔に手を持っていくと、熱があるのかというくらいですから赤くなっているでしょう。


 そうですね……、イレさんは女顔で、実は男性が苦手な私でもあまり緊張せずに接することができているのも関係があるのかもしれません。


 シオンはまったく気にしてなさそうに見えて、あの様子だとほぼ確定でしょうね。


 ……姉としては応援しなきゃいけないのですが、私はパーティーメンバーの姉というほぼまったくの他人。


 そんな私のために、手に入れた高額になる魔法のスキルオーブを使用もせずに売れる人なんてまずいません。


 それも妹さん。長年寝たまま起きず、ずっと入院しているのにです。


 シオンと結ばれる未来は素直に応援できます。イレさんほどの方は中々いらっしゃらないでしょうから。


 応援できる。それも本心なのですが、この胸のあたりがモヤモヤするのはどうすれば良いのでしょうか。


 二人が買い物に出ていった玄関の扉に目がいきます。今にも扉が開き、イレさんがこう言うのです。


『ただいま。どうしたんだ? 玄関で待ってるなんて。もしかして待たせてしまったかな』


 そして私は――


『はい。お待ちしておりました旦那様』


 と。


「っ! なんてことを考えてるの私は! 違う違う! そんなに簡単にほ、ほ、惚れちゃう安い女じゃないんだからね!」


 よたよたと足を引きずりながら洗面所に顔を洗いにいく。


「嘘……私、こんな顔知らない」


 いつもの見なれた顔なのですが、赤くなり、目がとろんとした私の顔が映っていました。


「本当に……駄目。イレは妹のシオンの――ですわ……。私まで……。とりあえず二人が戻ってくるまでにこの顔をなんとかしないとチョロイン確定ですわ」


 顔を洗っても引かない赤み。ならばとお風呂に入り温まれば誤魔化せるのではと、二人が帰ってきたことにも気づかずシャワーを浴び続けた。




「お姉ちゃーん。私も入るよー」


「うん。これ、なら、大、丈、夫。出、な、きゃ……」


 のぼせてしまうほど温まった私は、洗面所の気配に気づくことなく扉を開けてしまった。


「はへ?」


「お姉ちゃん? あわわわ! お姉ちゃん大丈夫です! アチアチですよ! お姉ちゃんがゆでダコなのです! レイ! お姉ちゃんが!」


 駄目、ボーッとしてもう……。シオンと――


「どうした! 何か――」


 レイ様、の、声が、聞こ、え――た気がしました。

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