第22話 ハーレム部屋
☆sideシオン
「怪我治ったです? 足、生えたですか?」
お姉ちゃんはAランクのファイアロックアリゲーターにひざの下からパクりと噛られて両足が無くなって歩けなくなっていたのです。
その他も色々と火傷とか傷だらけで、病院に運ばれた時は、レベルが上がって簡単には死なないくらい強いのに、数日持てば良い方と言われていた。
ちょっと前に飲んだ二本目の回復薬で、足首まで足も生え、火傷も炎症は治ったのですが、傷痕が残り、痛くないけど痒くて包帯をぐるぐるミイラさんになってました。
「――微かにだけど……感じるわ! 感覚があるのっ! ――っ! 生えたわ! 私の足がある!」
モゾモゾと布団の中で足を動かして、おそるおそる布団をめくると、真っ白で細い綺麗な足がありました。
「やったのです! お姉ちゃんっ!」
「ぐえっ――」
嬉しすぎて飛び付いたのですが、リクライニングで上げていたベッドと私で挟まれたお姉ちゃんは変な声を出してますが嬉しいので大目にみて欲しいです。
ゴン――
本日二回目のダメージを負ってしまったのです……。
「もうバカ。でもありがとうシオン。本当にありがとう」
「えへへ。すっごく頑張ったのです。レ――、イレもたくさん手伝ってくれてるからこの後お礼に行くですよ」
「イレさん。そうね、パーティーメンバーだもの、退院ができるか先生に診てもらってから伺いましょうか。この病院にいるのでしょう?」
「バッチリ病室の番号まで聞いてきたのです」
「えらいえらい。じゃあ早速先生を呼ばないとね」
「にゅふふぅ」
お姉ちゃんに頭を撫でられました。その手を逃がさないようにわたしは手を重ね、ナデナデをもっと堪能しようとしたのに――
「手を離しなさい。……先生を呼べないでしょうが!」
ゴン――
「あうっ!」
本日三回目を食らってしまった……解せぬのです。
☆sideレイ
三久の病室にお待ちかねの二人が来た。松葉杖は使っているけど自分の足で歩いてきたようだ。
『包帯でぐるぐる巻のミイラさんなのです』
と、シオンから聞いていたんだけど、包帯の『ほ』の字も見あたらない。それに、火傷の痕もだ。
「いらっしゃい。その様子だと退院できそうだね」
「ええ――」
「そうなのです! 先生さんがいいよーって言ってくれたのです! ありがとうなのですよー!」
お姉さんの方に聞いたんだが、その言葉を遮るようにシオンがお礼と共に飛び込んできた。
俺に――
「ぐえっ!」
――それも頭からお腹に……。おい……。
「本当にごめんなさい。このバカ妹は何度言っても治らないのよ。ほら、シオンも謝りなさい」
「あ、いや、大丈夫ですよ。これでも結構鍛えているので」
「うぅ。だって、嬉しかったんだもん。レイの顔見たらお姉ちゃんが治った時みたいに勝手に飛び込んじゃったのです」
あ、…………。
「レイ? イレ、さんよね? シオン。パーティーの大切なお仲間のお名前は間違えてはいけませんわ」
「あ! そうでした! イレ! イレなのです! あは、あは、あは、は、は……」
ほっ、良かった。……んだけど、シオンのお姉さんにこのまま本当のことを黙っていて良いのだろうか。
初対面なんだけど、さすがに双子なだけあって、ちょっと違うところもあるけれど、すごく似ている。身長も体型も。
覚醒者と一目でわかる白髪で赤目なところ、それから……を除いてだが、透き通るような色白の肌にルビーのような、ルビーは見たことないけど真っ赤な瞳。
確実に、お姉さんが黒く髪を染めて、服を取り替え前髪をおろしていたら間違える自信がある。
逆も一緒だな。シオンのレアな素顔とも、本当にそっくりだ。一部を除いて。
「ほら! あ や ま るっ!」
ゴン――
「あがっ! イレごめんなさいです! それとお姉ちゃん、さっきと同じところに当たりました! それからイレ! なにか変なこと考えてるのです!」
う、するどいな……。でもそうか、お姉さんが治ったことが嬉しくて今みたいに飛び込んで、お仕置きされたんだな。
そのやりとりを見て、ほっこりと胸のあたりがあたたかくなった。
じゃれてる二人から、こんな騒ぎでも目を覚まさない三久に目をやる。
三久。三久も早く目を覚まして昔のように一緒に騒ぎたいよ。ほら、楽しい仲間もできたんだよ。三久に早く紹介したいよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で、今度はシオンちゃんのお姉さんまで連れ込んだと。ハーレム主人公目指してるのかい?」
「だ か ら 人聞きの悪いことを言わないでください! ちゃんとパーティーメンバーと、そのお姉さんとして連れてきたと言ってるでしょ!」
管理人のお婆さんと、ローテーブルを挟んだ向かい側に並んでソファーに座る俺たち。
管理人さんの言葉に顔をひきつらせながら笑うお姉さん。
そんなことはまったく気にもせず、ローテーブルに用意されていた『茜○』と焼き印を押してあるどらやきを満足そうに頬張るシオン。
「どうだかねぇ。まあいいよ。あの部屋は個室に鍵がかけられるからね」
「俺ってそこまで信用無い?」
「そりゃね。あんたが男で、この子達は女だ。間違いが起こるフラグがこれでもかと満載じゃないか」
男と女……っ! それってエッチなことしちゃうってこと!? 三久と母さん以外、女の人と手も繋いだこと無いのに、そんな高レベルの違うことやるわけないじゃないか!
「そんなことしませんよ! 大切な仲間とそのお姉さんですよ! そりゃ、俺も彼女とか欲しいし、て、手を繋いだり、デートしたりは憧れるけどさ。何もかもすっ飛ばしてそんな関係になるとかできるわけないでしょ!」
ニヤニヤ笑う管理人さん。そこへ少し困惑したような顔でお姉さんが口を開いた。
「あの、少しお聞きしたいのですが、もしかして、『アパートの部屋を貸してもらえる』ではなく、『イレさんの部屋をシェアさせてもらえる』でしょうか?」
「えっと、俺の部屋さ、使ってない部屋があるんだ。部屋が余っているし、新たに借りる方が良かったかな?」
「先に言っておくが、今は全室契約済みだよ。だから連れ込んだと言ったんだがね」
「むぐむぐ……。なるほどです。イレさんのハーレム部屋と言うことですね……。ん? では! 私は探索者のパーティーメンバーに続き、お姉ちゃんと一緒にハーレムメンバーにもエントリーしちゃうのですか!」
「なんでそうなる! いいかシオン、ハーレムとか男として憧れないとは言わないけど、考えもしてなかったからな。……本当だぞ」
なぜかみんなは俺から離れ、ジト目で見てくる。
本当に考えてなかったのに……。
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