◆第13.5話 裏切り者たち(聖一視点)

「お前たち。謹慎を言い渡し、探索者カードも今朝ギルドで預かったと記憶しているが、ダンジョンから出てくるとはな……なにを考えている」


 ヤバい、なんでこんなところに来てるんだよ……。まさかあとをつけていた? なんのためだ? 


 ……まさか高橋のクソ野郎がなにか言いやがったのか? てかこのまま資格取り消しにならねえだろうな。


 そんなことになればもうすぐ学生の個人Bランクに上がり、大学の卒業までにプロのA級、いやS級探索者になる。


 その功績を手土産に成瀬家の当主の座をぶんどり、ゆくゆくは総理大臣になって日本を牛耳る俺様の計画に泥がつく。


 探索者ギルドの所長ごときに俺様の輝かしい未来は、けがさせて良いことじゃねえ。


 ……こうなったら所長と取り巻きのヤツらをまとめて始末するしかねえか……。


 まわりに視線を移すと幸いなことにシャトルバスは走り去ったあと。ダンジョン前はガランとして俺たちと所長たち以外はすでにダンジョンの中だ。


 所長は元AランクともSランク間近だったとも聞いたことがあるが、それも過去のことだ。


 あとの職員は見たことあるが、全員事務をしているところしか見たことねえヤツばかりだからあわせて四人……問題ねえな。


 殺ったあとは親父に任せれば問題ない。よし!


 腰の双剣に手をそえて魔力を纏わせ、一歩前に――


「うるせ――」


「あら。知り合いを見送っていただけですよ。少し入口は入ってしまいましたが」


 ――山本先輩が飛び出そうとしていた俺の前に出て所長の相手をし始める。


 なっ! 邪魔しやがった! なに考えてやがる!


 前をふさがれ、抜く直前の柄頭を押さえられている。横にズレて行けないことはないが、右を佐藤先輩、左を二葉が道をふさいでいた。


 三人ともなんでだ……今殺らないと俺様の計画が……。


 俺の腕に抱きつき、耳元で『聖一落ち着いて。山本先輩に任せておけば上手くいくから、ね?』と耳打ちしてきた。


 そんな簡単なことは……いや、待てよ。……あ、そうか、ここで暴れても分が悪くなるだけか。


 残りカスが荷物持ちを辞めたことから始まり、高橋ともめ、その後にレイのことを持ち出した所長。モンスターハウスが使えなかったことも、今、所長にくだらねえ説教を受けていることも……。


 連続で振りかかってムカつくし、テンションの下がる出来事があまりにも気に入らねえから頭に血がのぼり攻撃的になってたようだ。


「ほう。知り合いか。だが入口から少し入っただけとはいえ、謹慎中もだが、入場許可証不携帯による罰則は追加だな」


「そうなのですか? 仕方ありませんね。罰金でしょうか? それとも謹慎期間の延長と言ったところかしら」


「は? 罰金は別にどうでも良いが延長は止めてくれ! でないと――」


「でないとなんだ? 抜いてはいないがその魔力を込め終えた双剣を抜いて暴れるのかね? それとも成瀬家の当主に泣きついて探索者ギルドに圧力でもかけようと言うのか」


「あ、いや、だが延長はマズいんだって。所長も佐藤、山本、成瀬家の三家から申し立てされたら縦に首を振るしかねえんだろ? だからさ、な?」


「馬鹿馬鹿しい。いくら御三家と言えど、探索者ギルドは国営の団体だ。そう簡単には好きにはできまいよ」


「聖一くん。あなたは黙っていてくれないかしら。話がややこしくなるでしょ?」


「いや、でも延期は困るんだ」


「それはあとからでもなんとかなるわよ。安心して、大人しく、後ろで、待っていて、くれないかしら?」


「ひっ!」


 振り向き俺に向けられた目は何度か使ったことのある暗殺者の目と同じだった。光の無い底が見えない冷たさを感じ、これ以上なにか言えば喉元をナイフで切り裂かれ殺されるだろう。


 そう。本気で俺を殺そうとしている目だった。


「大人しくしてくれるわよね?」


 俺は縦に何度も首を振り、双剣に纏わせた魔力が無理やり霧散させられたのを感じた。


「良い子ね。二葉ちゃん。聖一をつれて少し離れていてくれるかしら? 話は私がしておくから」


「は、はい! 離れておきます! ほ、ほら聖一、あっちに行っておこう、ね?」


「あ、ああ」


 俺は上手く動かない口で、そう返事することしかできなかった。


「では、話の続きをしましょうか所長様」


「そうだな。謹慎を一ヶ月延長とし、違反の罰金として――」







 なんなんだアレ……山本先輩ってひとつ上なだけだよな? それなのになんて目をしてるんだよ。アレは暗殺者たちを束ねる親父が部下に罰を与える時の目と同じだった。


 その考えに行きついてハッとした。


 山本先輩……まさかあの歳で暗部を任されてる? 嘘だろ? それが真実ならヤバい。普段見ている計算高いだけの女じゃないってことか……。


「聖一。その、今のうちにトイレで着替えよ? 着替え持ってるよね?」


「なんで着替え――あ……。着替えてくる」


 歩くとズボンが張り付くなと、ほんの少し思っていたが……漏らしていたようだ。


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