第13話 元パーティーメンバーとの再会

「なんだ? 先客か」


 そう言ったのは佐藤先輩だ。人がいると思ってなかったのか、一瞬だけ驚いた顔をした。


 そしてすぐに眉間にシワを入れて睨み付けてくる。


「え~。ねえ聖一、ここって私たち専用じゃなかったの? もしかして私たちがやってる経験値稼ぎが広まっちゃった?」


「俺たちと同じように経験値稼ぎがいても不思議じゃない。元々ここはギルドでもモンスターハウスと教えてもらえるからな」


 二葉が聖一の腕に絡み付いているのが見えた。シクシクとまだ痛みが胸に走る。


 そんな時に俺のとなりで『けぷっ』と可愛いゲップを披露してくれた大和さん。


 そう言えば三久も小さい時はジュースを飲んだあと、たまにやってたな。


「あっ……。い、いつもはこんなこと無いんですよ? 美味しかったので思わずいっぱい飲んじゃったからで――」


 一つ目の水筒を全部飲みきったみたいだしね。思わず頬が緩んでしまった。


 それに……胸の痛みが笑ったお陰で楽になった。


「あっ、笑ってます! そんなイレさんにはもうお菓子あげませんからね!」


「ごめん、謝るから許して、ね。あ――」


 ってか注意してたのに喋ってしまってる!


「あっ、そうでした! むぐっ」


 フードを引っ張り顔を隠して口も塞いだ。


 通路の角、十メートルほど先の四人を見ると、気づいたような感じではなさそうだ。


 聖一の腕に絡み付くように寄り添っている。


 だけどダンジョン内なのになに考えているんだ? あれじゃゴブリンと遭遇してもすぐには反応できないぞ。


 それより……なんで俺たちが見えているのにこっちにくるんだ?


 四人は迷うような素振りも見せずに近づいてくる。


「おい、お前ら二人か? それとも中に誰か入ってるのか?」


 その距離三メートル。薄暗がりでも顔がハッキリ見える距離だ。


 そこでようやく止まり、佐藤先輩が睨み付けながら聞いてくる。


「……いや、中には誰も居ないぞ」


 大丈夫だ。絶対分からない。覚醒して黒髪黒目も両方灰色になっているし、髪型も変えている。俺自身が鏡で見て別人と思ったほどだ。


「見張りってわけでもないのか。お前ら、このモンスターハウスは俺たちに譲ってもらえないか?」


「佐藤先輩、譲れとか言わなくても俺がコイツらをぶっ飛ばしてやればすぐにしっぽ巻いて逃げ出しますよ。オラ! 聞いてただろ! さっさと荷物まとめやがれ!」


 聖一は二葉の手を振りほどき、俺との間合いを詰めた瞬間、顔めがけて蹴りを放ってきた――


 ガシッ――


 ――が、足首を掴んで止めた。


「なっ!」


 なんだ? 衝撃もほぼ感じないほど軽いぞ? 手加減したのか?


 いや、手加減したかどうか分からないけど、いきなり顔に蹴りを入れようとするなんて、こんなヤツだったのか聖一は……。


 そう言えば、『友達』になろうって言ってくる前まではいじめっ子だった。


 他の子はもちろん保育園の先生にもイタズラしたり、当然俺も殴る蹴るの苛めを受けていた……他の人にもだけど……。なんで忘れてたんだろ。


 そうだ。あれから急に優しくなって、最初は俺も疑ってたけど一緒に喋ったり、たまに遊んだりして勘違いしてたのかも。


 そっか、聖一が『友達』と何度も言うから、いつの間にかそうなのかなって思い込んでたのか。


「何をする。それにここへは俺たちが先に来てたんだぞ」


「クソッ! 離せ!」


 離せと言われ、突き放すように押し気味に離してやると尻餅をついた。


「うおっ、クソッが! なめた真似しやがって! ぶっ殺してやる!」


「イレさん!」


 聖一は立ち上がり、双剣を抜き、振り上げたのを見て大和さんが叫ぶ。


 大丈夫。身体強化をするまでもなく、集中していたので動きはまる見えだ。


 壁に立て掛けていた剣を手に取り、鞘付きのまま迎え撃とうとしたんだが――


「止めろ聖一! そこまでやったら問題になるだろ!」


 佐藤先輩が聖一の肩を掴み止めた。


「っ! さ、佐藤先輩! なんで止めるんです! こんなヤツ一人や二人、ボコボコにして殺したってダンジョンの中ならバレないでしょ!」


「止めろと俺は言ったぞ聖一。ただでさえレイのことでギルドに目を付けられてる最中なんだ。それにさっきのこと忘れたのか?」


「いや、でも、いっ!」


 ギシッと掴んだ手に力を入れたのか、聖一の顔が歪む。


 え? 今レイって言ったよな? 俺の件でギルドに? もしかして岡間室長さん、無かったことにしたことを報告したのかな……。


「くっ……。い、いや、すいません」


「下がってろ」


 睨んだまま後ろ向きに下がっていく聖一。一歩近づいてくる佐藤先輩。


「お前、名前は」


 ゆっくりと立ち上がり、睨み返す。ほんの少し前までこんなことできるなんて欠片も思わなかった。


 学園の先輩で探索者ランクもBでパーティーのリーダー。本当に比べようもないくらい俺より強かったから――


「名前? そう言うのは自分から名乗ってから聞くものだよね」


 ――こんな返しができるなんてな。


「Bランクの佐藤だ。舐めた口ききやがって」


 名乗らないと思ったけど、意外と素直に名乗った。眉間のシワはさらに深くなったけど。


「イレだ。ランクは聞きたいか?」


「チッ。まあいい、お前らのことは覚えておく。今日は譲ってやるが次は無いと思え。行くぞお前ら!」


 そう言うと四人は離れて行き、角を曲がって見えなくなった。


「行っちゃいましたね」


「ふう。ああ。絡まれはしたけど、被害もなくて助かったな」


 緊張してたのか、大きなため息が出てしまった。


「はいです。ちょっとドキハラしたのでキャ○ツ太郎かもろこし○太郎食べないとですね。イレさんはどっち食べます? それともベビース○ーラーメンかおにぎり○んべいにしますか?」


 次々とカーゴパンツのポケットやバックパックから出てくる駄菓子の数々。


 緊張感が駄菓子で押し流されていってるよ。てか岡間室長さんも……どんだけ駄菓子好きなの。


 大和さんが抱えている中で、一番手前のものに手を伸ばす。


「じゃあベビース○ーラーメンにしようかな」


 これは食べたこと無いから味見したい。


「おお! 私の駄菓子ベスト3に入るものを選ぶとは! 私のキャ○ツ太郎とはんぶんこしましょう!」


 モンスターハウスのクールタイムが終わるまで、駄菓子パーティーが続いた。


 こんなにたくさんのお菓子もだけど、誰かと一緒に食べるのって、楽しくて凄くいいな。


 聖一と二葉を見て胸が締め付けられたことも無かったことのように笑顔が自然に溢れてくるし。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あー! ムカつく! 今思い出したがアイツらギルドですれ違ったカップルじゃねえか! 佐藤先輩もう帰るんすか! 俺は暴れたいんすよ!」


 三階層から二階層へ続く階段で前を行く先輩にムカつく気持ちをぶつけるように聞く。


「うるさい黙れ! ……聖一。わかってるか? アイツはそこそこ強いぞ。あのままお前が切りかかっていればやられてたかもな」


「っ! そんなことねえ! さっきは油断しただけだ! なんなら戻って――」


「聖一止めなさい。わかってる? 今私たちは謹慎中で、入場の許可証もなく無断でダンジョンに入ってるの。そんな大騒ぎして通報されたら最悪探索者資格の剥奪もありえるのよ」


「そうだぞ。無断で入るくらいはなんとでもなるが、傷害事件なんてものを起こした日には親父たちでも握りつぶすのも難しい。だから今日はもう引き上げだ。レベル上げはやりたかったがな」


 クソが。だったらアイツらを殺してしまえば終わりじゃねえか。





 その後も何度か突っかかりながらダンジョンを出たんだが、そこにはギルドの所長が待っていた。

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