第12話 モンスターハウス前駄菓子屋
入った途端に背後でバタンと扉が閉まった。大和さんはいつも通りビクッと震えたけど、俺と同じで部屋の中央に視線を向けている。
「来るよ」
数秒後に黒い煙りが床から立ち上ぼる。その煙がゴブリンの形にまとまり三十匹のゴブリンたちが現れた。
その中にこん棒じゃない細長い
「メイジがいるぞ! 大和さん気をつけて!」
「はいです! おりゃ! とう!」
最初、六匹がこちらに向かってくるが、三匹ずつを相手に、余裕をもって対応できた。
「次が来るよ! あまり離れないでね!」
「てぃっ! そい! ほりゃ! 任せるのです、よ!」
三回六匹ずつ送り出してきたが、小出しでは敵わないと分かったのか、残りの十一匹とメイジが一斉に向かってきた。
「火の玉がくる!」
ゲギャギャ! と呪文を唱えたのか、棒を横並びの俺たちに向ける。
棒の先にソフトボールくらいの火の玉が現れ、大和さんの方に飛ばしてきた。
「待ってたのですよ! パワプ○は得意なんです! ほぉーむらん!」
「は?」
ブオンと唸りを上げたメイス。
ドゴンと後ろの壁にぶつかり弾ける火の玉。
「空振りしちゃいました! もういっちょこいです!」
バッターボックスに立つようにメイスを構え直した大和さんに向けて二発目の火の玉が来ることはなかった。
「あー! イレさんがメイジさんを!」
俺はさっさと六匹を倒し、一番後ろにいたメイジも倒してしまったからだけど……。
「ごめん! じゃなくて――」
「次こそは打ちます! ほい! たりゃ!」
接近していた五匹を一振で三匹、続いて二匹と撲殺した大和さん。
「お疲れ様? 余裕だったね」
「むー、メイジとの対決を邪魔されました」
そう言ってほっぺたをリスのように膨らませた大和さん。
いや、俺が悪いのか?
「あー、なんかゴメン?」
「謝ってくれたので許します。さあイレさん、魔石を拾って休憩しましょう!」
二人で魔石を三十個拾い集めながら、ちょこちょこと走り回る大和さんを見て思ってしまった。
続けてやるつもりかな? 一回だけって言ったよね?
「忘れ物は……ないね。出ようか」
手元の魔石を数えながらバックパックに入れていく。よし、ちょうど三十個だな。
「はい。イレさん小腹が空きましたし、喉も乾いてますよね?」
「ん? そうだな」
「そんなイレさんには亀○製菓の柿の種を!」
「あ、りがとう」
扉を押し開けたところでカーゴパンツのポケットから、小袋に入ったピーナッツ入りの柿の種を渡された。
「コレ好きなんですよね~。柿の種で辛くなった口の中をピーナッツが癒してくれるんです。あっ、辛いのは大好きですよ? それと、飲み物は松○製菓のパックジュースがありますので、水筒の水に溶かしてくださいね」
「う、うん。ありがとう」
ちなみに俺が手渡されたのはオレンジで、大和さんはメロンとイチゴを悩んだ末、イチゴにしたようだ。
モンスターハウスを出てすぐのところに腰を下ろして水筒に直接パックジュースを三袋入れたあと、シャカシャカと振り回す大和さん。
いや、ここから早めに離れたいんだけど……。まあ良いか。
俺も腰を下ろし、バックパックから水筒を出して直接は入れずに蓋のところにパックジュースの粉を入れて水を注ぐ。
「あっ……。そうでした。そうすれば色んな味を楽しめたのに……」
「そ、うだね。……もし良かったら、少しずつ交換して飲みくらべる?」
足を伸ばし、ももの上の水筒に視線を落としてうつむいていた顔をガバッと上げた。
深く被っていたフードと、鼻の先まで隠している前髪も持ち上がり、大きな黒目が見えるほどの勢いで。
ほんと、ずっと顔見せれば可愛いと思うんだけどな。絶対モテると思うし。
でも引きこもってたって言ってたよな、何か嫌なことがあったと思うけど、それは教えてくれなかった。
嫌なことを無理矢理聞き出すのは違うよな、俺だって裏切られたことを全部は話してないし。
そんな考えを吹き飛ばす元気な声が聞こえた。
「イレ様は神か仏か! ぜひ! トレードお願いします!」
「いや、様は止めてね。それに元々は大和さんが持ち込んだ物だし。ほら、水筒の蓋に半分入れ――」
水筒はももで挟んで倒れないようにして、横に置いてあった蓋をシュバッと拾い上げると俺に向かって捧げ持って差し出した。
「――るから……」
動きがブレたよね今……。凶化無しでこれか、俺の強化Lv5だとさらに動けるってことだよな……。
四階層以降のモンスターハウスの動画でやれそうか調べてみるのもいいかも知れない。
あっ、待たせちゃ可哀想だな。
こぼさないように、大和さんの手を左手で固定してゆっくりと注ぐ。
たぶん今、見えないけど大和さんの目はキラキラしてるんだろうな。
そんなことをしながら柿の種、カシューナッツ、チ○ルチョコと駄菓子食べながら休憩していると、足音と聞いたことのある声が聞こえてきた。
「大和さん。アイツらが来たみたい。フードは深く被っててね」
「はいです。でも、お断りも伝言ですけどしてありますし」
「うん。それでも一応ね。せっかくパーティー組んだのに荷物持ちしろとか言われるかもでしょ?」
大和さんは『なるほろです』とうんうんと頷き、ブラックサ○ダーにかぶりついたまま返事が返ってきた。
俺もブラックサ○ダーをかじりながら、さすがに別のパーティーがモンスターハウス周回しているところを奪うなんてしないよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます