◆第20.5話 裏切り者たち(聖一視点)

 なんなんだアレは……。


 商店街の入口から覗き見た光景は、目を疑う場面の連続だった。


 佐藤先輩が自信満々でレイの確保に向かったから面白半分で覗きに来たが、力の差は歴然過ぎて目の当たりにした今でも信じられない。


 なんなんだよレイのヤツ! アイツがなぜあそこまで強くなってんだよ! おかしいだろ!


 それにクソ高橋まで出てきやがった。佐藤先輩が殴られるのを止めたまではいい。いいんだが、あのスピードのレイより早く動いた?


 全然見えなかったぞ……。あんな動き、まさかクソ高橋がSランクだってのか?


 Aランクの探索者ならまだ理解の範疇だった。追い付き追い越せる自信もあった。


 だが……なんだこれは、悪い夢でも見てるってのか……。Sランクは想像していた強さじゃ計り知れないほど手の届かない存在だというのかよ!


 くそったれが! あんなの化物そのものじゃねえかよ!


「ね、ねえ聖一。佐藤先輩を助けなくていいの? ほら、パトカーのサイレンが聞こえてきたよ」


 背後からと、商店街の向こう側、大通り方面からもうるさくサイレンの音が耳に届く。


 もう時間は残されてない。二葉が聞いてくるが――


「どうやって助けるってんだよ! 佐藤先輩の連れてきた男たちはAランクを相手に勝てる奴らだぞ!」


「だ、だけど――」


「だけどじゃねえ! いいか、それを一撃で倒したレイもだが、あのクソ高橋も相当なもんだぞ。そんな二人がいるあの場からどうやって連れ出せってんだよ!」


「そ、そうだよね……。どうしよう、山本先輩に聞いてみるとか? 山本先輩ならなにかいい考えがあるかもしれないし」


「……そ、うだな、チッ、もうパトカーが来やがった」


 商店街の向こう側に赤色灯をハデに回したパトカーが見えた。それとほぼ同時に――


「それにギルドの所長もいっぱい引き連れて来たみたいだよ。聖一、とりあえずここを離れましょ? こんなところにいれば私たちも捕まってしまうよ」


「ああ、急ごう。山本先輩に連絡して合流だ、行くぞ」


「うん。この近くだと聖一、駅前のホテルに逃げ込まない? あそこなら安全だよね?」


「いい考えだ二葉。そうと決まれば最短距離で行くぞ」


「うん」









 俺たち側から来たパトカーをやり過ごし、なんとか見つからないようその場は逃れることができた。


「二葉、入るからいつもどおり客を装う」


 二葉はすっと慣れた手付きで俺の腕に絡み付いてくる。


 駅前のラブホテル。成瀬家の系列会社が運営しているからいつでも無料で利用でき、逃げ込む場所としては最適と言ってもいいだろう。


 部屋に入り、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを二葉が、俺はグレープフルーツの酎ハイを取り出し、喉を潤して山本先輩にスピーカーにして電話をかけた。


『もしもし。何かあったの? 今朝からちょっとしたトラブルでバタバタしているんだけど、豪のことよね。高橋様が動いたと暗部から速報が入ったから嫌な予感がしていたのよね』


「いえ、高橋が来たのは間違いない。間違いじゃないんだが……」


『どうかした?』


「……信じられないことに、佐藤先輩が集めたものたち共々レイにヤられて捕まりました」


『……そう。捕まったのね。……は? レイにやられた? 全員? 高橋様が連れてきた誰かではなく?』


「直接見た俺でもまだ信じられないが、佐藤先輩を含めた八人をレイが――」


 スマホの向こう側が騒がしくなり、何人もの人の、慌てた感じの声が聞こえてくる


『聖一くん。最悪の速報が入ったわ……、佐藤家は豪を切る方向で動いているようね』


「嘘だろ……じゃあ今から圧力かけて釈放されることは無いってことか? なあ、もう駄目ってことかよ」


「そんな……佐藤先輩……」


『豪には探索者としても頭脳も凡庸な兄と、探索者としても豪より才能があり、小学生低学年にもかかわらず、頭脳も大学生に負けず劣らずの弟がいるわ。それでも豪が嫡男として内定されていたのだけれど、もう無理でしょうね』


 マズいよな……、もし、佐藤家からの援助が無いと知った先輩はどうする? 俺なら全てをぶちまけて成瀬家どころか御三家まとめて道連れにするな。


 俺様だけを生け贄にするとか許せるわけはねえ。


 だから佐藤先輩がその選択肢を取らずに罪をひとりで負うなんてのはありえねえし考えられない。


「山本先輩。佐藤先輩の口を封じないと駄目ですよね?」


『……あなた、なにを考えているの? 先走ってくだらない行動はつつしんでもらいたいわね。でも安心して、その不安材料はすでに佐藤家が動き出しているからくれぐれも、ね』


「は、い。わかりました」


 甘い。中々の策士と思ってた山本先輩がそんな甘い考えかよ。


『次々と報告が入っているから後でまとめを送るから、変に動かないでよね。じゃあ切るわ』


 一方的にそう言うと、スピーカーから流れる『ツゥーツゥー』と通話が切れた音が部屋に響いた。


「そんな、……先輩が佐藤家に見捨てられるなんて……」


「ああ、あそこは上と下に兄弟がいるからな、わからないでもないが」


 少し温くなった酎ハイを喉に流し込み、ローテーブルに置く。


「二葉来い」


 二葉を抱き寄せベッドに押し倒す。


 探索者が犯罪を犯した場合、取り調べのあと探索者専用の刑務所に送られると聞いた。まずはそこがどこの刑務所か調べねえとな。


 いや、駄目だ、取り調べの前に何とかしねえと遅すぎる。


 どうすりゃいい。今回の件なら探索者ギルドが主体で動くはずだ。


 ならばギルドが取り調べなんてしてられねえくらいの騒ぎを起こして混乱しているうちに佐藤先輩を――

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