◆第16.5話 裏切り者たち(聖一視点)

 終わったか、腹減ったな……。


 チャイムが鳴りやむと同時に遊んでいたR18のソシャゲを閉じた。


 開いてもない教科書とノートを机にしまいながら弁当を持っている二葉にチラと目を向けた。


 二葉は鞄から弁当を取り出そうとしている。がその手は止まり、手元のスマホを見ている。


 何見てんだ? それより飯だろ、腹減ってんだからよ。まったく。


 はぁ、と息を吐き、背もたれに体重をかけ固まっていた背筋を伸ばしていると、いきなり――


 ガタン!


 ――と椅子を倒しそうな勢いで、さらに机もガタガタ鳴らし、邪魔だと言わんばかりに体を当てながら立ち上がった。


 なんだ? 窓際で一番後ろにある俺の席まで慌てた様子で駆けよって来る。


 忘れず手にしていた弁当を広げるのかと思ったが、駆け寄ってきた勢いのまま抱きつくように耳に顔をよせ、とんでもないことを囁いた。


「――生き、てる?」


 体を離した二葉はスマホを見せてくる。


 スマホのディスプレイに映し出されている画像に指をあて、トントンとつつき、『見て』とせかす。


 なんだよと思いながらも目線を開かれた画面に落とすと、あの残りカスが写っている。


 指をずらしてカスと一緒に映る灰色の男に持っていった。


 コイツがなんなんだ? マンバンヘアだが、女みたいな顔しやがって。


 そういや確かにレイも女みたいな顔だったな。


「で、なんなんだよ。それで誰だこれ」


「次はこっち」


 二枚目の画像はさっきの灰色の男の髪の毛と目の色を黒くしたものだった。


「は? レイ? 嘘だろ? でもコイツ、モンスターハウスにいた、ヤツ、だよ、な?」


「うん。これ、いつになったらレイの死亡を発表するのか気になって、最近、私が研究所に潜り込ませた者が撮った写真。ソイツが似ていると判断したそうで、加工したものなんだけど、どう見てもレイだよ、ね……」


「あ、ああ。間違いない。だがどうして生きてるんだあの最弱が。あの状態から生き残ったってのか? ありえない」


 ありえないが映っている容姿の色はもちろん髪型も違うが確かにレイだ。


 ならなぜ俺たちは捕まってないんだ? レイのヤツ、もしかして殺そうとしたことに気付いてない?


 いや、それならモンスターハウスから生還してすぐに俺たちのところに来るだろう。それに学校に来るはずだし、彼女役の二葉に連絡は絶対するはずだ。


 そして……、身代わりとして置いていったことを聞いてこなけりゃおかしい。どう言うことだ。


「ね、ねえ、聖一。どうしよう。すごくまずいよね。こんなことならギルドに時々でも様子を見に行ってれば良かった」


「ああ。謹慎になった日に無断でダンジョンに入ったきりだからな、ギルドにも顔を出してねえし……まずは先輩たちに知らせるぞ」







 ギイと鉄製の扉がきしむ音をたて、二人分の走る足音が聞こえた後、バタンと屋上に出る扉がしまった。


「どこだ聖一!」


「こっちです佐藤先輩」


 乱れた息を整えながら小声で叫ぶように俺を呼ぶ先輩たち。人目を避け、給水塔の陰から先輩たちを呼ぶ。


 気付いた二人は止めていた足を動かし駆け寄ってきたとたんに小声で叫ぶ。


「おい! レイが生きてるってどう言うことだ!」


「声が大きいです。落ち着いてください先輩。まずは問題の画像を見てください」


 目で二葉に合図をすると、俺にしたようにスマホのディスプレイに写し出された灰色の方を見せ、『残りカス!』と山本先輩が反応したが、すぐに次の加工したものを見せる。


「レ、イだと、嘘だろ……じゃ、じゃあなんで俺たち……」

「嘘……レイだわ。なぜ生きているのよ、それになぜ残りカスと……」


 二枚目を見た後、二人の顔色はどんどん青くなっていく。この状況を把握して、かなりマズい状況だと気付いたようだ。


「それに、あの資格停止中に無許可でダンジョンへ入った時、モンスターハウスで会ったの覚えてますか?」


 あの後は無断で入ったことがバレ、問題になったが親父がギルドに圧力をかけ、無かったことにしてもらった。皆も同じだったようで、その件のことはお咎め無しに落ち着いた。


 が、資格停止は高橋のおっさんを殴ったことだから解除されなかった。クソったれが、いつかぶっ殺してやる。


 その事は今は置いておこう。今はレイが生きていたって事実の方がヤバい。そこで俺様はひとつの可能性を考え付いた。


 青ざめた先輩たちを見てニヤリと笑いゆっくりと話しかける。


 こくりと慎重に頷く先輩たち。


「あの時、俺たちはレイと会ってます。それなのに何も言ってこなかったのはなぜかわかりますか?」


「……いや、わからん。っ! おい! 聖一! アイツもしかして俺たちをハメるために何か思惑があって――」


「声を押さえてください先輩。屋上とはいっても昼休みでまわりに人がいるんですよ。落ち着いてください」


 掴みかかってきた佐藤先輩を押し止め、焦りと怒りが混ざった顔を離すようにグイっと押し離す。


 こんな時だし、気持ちもわからないではないが、男が迫ってきたみたいでキモいんだよこの先輩は……。


 山本先輩なら美人だし、まあ一晩くらいはヒイヒイ言わせるのもやぶさかじゃねえが男はごめんだ。


「違いますって、考えてもみてください。俺や二葉はもちろん、先輩たちもレイとは仮にも幼馴染みの親友であり、彼女であり、パーティー仲間だったわけでしょ?」


 結構遠慮なく乱暴に押し戻したが、話が気になるのか佐藤先輩は文句も言わず、催促するように俺を見てくる。


「レイのヤツは記憶喪失だと思ってます。二葉とも話していたんですが、そうじゃなきゃ説明がつかないんですよ」


「はい。あの時、私は聖一と腕を組んでました。それなのにあのレイは何も言ってきませんでした。仮にも彼氏彼女の関係だった私が他の男、レイが親友と思っていた聖一と腕を組んでたのにです」


「そう、ね。そう言われると……もし、記憶があるなら何かしらアクションを起こしてくる場面よね」


「そうだよな……。そういえば俺が睨んでもひるみもしなかった。レイなら確実に目、どころか顔をそらしてヘラヘラ笑ってただろうしな」


「と、言うことで、面倒ですけどもう一度レイを殺さないと駄目だってことになりますよね?」


「だな」

 

「そうね。面倒なことになったわ」


「一応ですが、このことは報告してきた者に、上への報告をレイが生きていると確定するまで止めるように命じておきましたが、そんなに時間は稼げないと思います」


「それで考えていたのですが、何か良い案はありませんか?」


 俺はこういったことが得意な山本先輩を見る。


「そうね……」


 腕を組み、左手を顎の先に当てて考え始める山本先輩。組まれた腕でムニュりと盛り上がる豊満でけしからん胸元をガン見していると、何か思い付いたようだ。


「なぜかわからないけど、残りカスとパーティーを組んだみたいだし、一緒にいるのよね……そっちもからめて攻めてみるのもありかもね」


「なにかいい方法思い付いたのか?」


「ふふ。あなたたちが下民の女たちを抱き潰す時に使ってる『かくりよ』を使うのも面白そうよね」


「ん? 残りカスを抱けってことか? あの薬は三家が裏で作ってる麻薬の失敗作。使えば女はイキ狂い、数時間で死んじまう劇薬だが、残りカスを殺してどうなるってんだ?」


「わかってないみたいだから説明するけど……。アレって女にも効くんだけど、男にはそれ以上。それはもうすっご~く効くのよね。私の元婚約者たちで実証済みよ。それはもう手当たり次第に男だろうと女だろうと襲いかかり、派手に撒き散らして死んでくれるわ」


「うへ……。『かくりよ』で殺ってたのかあれ……。同じ男と考えるとゾッとしねえな。だがどうやるんだ? 俺たちは今ダンジョンには入場できないぞ」


 佐藤先輩が顔を歪めそういう。俺は思わず股間に手が伸びてしまった。


「ふふ。そんな些細なことは気にしなくても良いでしょ? ダンジョン外で二人を拐う計画なんてどうかしら」


 なるほどな。だが、残りカスは腐っても『身体凶化』だ。それだけしかスキルが無かったとしても、モンスターハウスでレベルを上げているとしたら身体能力はあなどれねえ。


「私たちが直接手をかけなくても、ね? その手の者の数を集めれば……」


「それ、俺がやる。次期当主の顔あわせで暗部とコンタクトを取ったところだから手はある。そいつらはAランクだろうと相手取れる猛者揃いだからな」


 佐藤先輩はもうそんなことを始めているのか……。流石だな、長男がいるにもかかわらず現当主の期待度合いがわかるな。


 俺様も二葉を使い、色仕掛けかなにかで手を出そうと考えていたが、ここは静観を決め込むか。たとえ失敗しても、俺は関係ないしな。


 せいぜい頑張ってくれよ佐藤先輩。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る