レベルアップ
第16話 入口の向こうへ
「大和さん! スキルオーブが出たよ!」
「イレさんマジですか!」
ちょこちょこと魔石を集め回る大和さんを呼び、スキルオーブを突き出す。
「マジだ! 今日はもう引き上げよう! 帰って鑑定してもらってダブりならお姉さんの薬代だ!」
「ひゃっはー! 行きましょう! 帰りましょう! ……あ、でも今日はまだモンスターハウスの周回二回目ですよ? いつも通り夕方までやった方が……」
「うん? 稼ぎも大事だけど、大和さんのお姉さんの方が大事だろ? それにたまには妹の三久とゆっくりしたいと思っていたしな。だから気にしないで片付けて早く帰ろうよ」
「はい! やっぱりイレさん良い人認定S級です!」
良い人認定S級ってなんだよ。
自然に出た笑いが石造りのモンスターハウスに響く。
俺はウエストポーチにスキルオーブをしまい、魔石拾いを再開した。
スキルオーブを大和さんが誤って使用して、炎を覚えたあとにドロップしたスキルオーブはこれがはじめてだ。
集めていてすぐに分かったことは、当然だけどすべてのメイジがドロップするわけではない。
二葉や聖一たちと周回していた時もほとんど出なかったからな。
だけどあまりにも出ないから、もう出ないんじゃないかと思いかけていた。
「ぬふふふ。後何個かで一本目の上級回復薬代が払えます! イレさん。本当にありがとうです! あわわっ! お、落とすところでした!」
片手に数個の魔石を握りしめたまま、ちょこちょこと走りよってくる大和さん。
手が小さいから今にもこぼれ落ちそうになり、お手玉をするようになんとか落とさずに俺のところまで来れた。
「そうだね。全然スキルオーブ出ないし、十日ぶりだもんな」
「はいです! あと、あとレベルも10に上がりましたよ!」
「おお! おめでとう! あー、ついに追い付かれたか」
そう。この十日でスキルオーブはドロップしなかったけど、順調にレベルが上がり、俺たちは二人ともにレベル10になった。
レベル10。一月前の二葉のレベルと同じ、学生ランクだとDクラスだ。
やはり二人で戦っているからか、お互いに入る経験値も多くなり、効率は言いようだ。単純計算で二倍以上の経験値が入るからな。
そしてプロの探索者の初心者として認められるレベル。仮免許から卒業ってことになる。
「ぬふふふ。追いつけ追い越せですぜイレの旦那」
いつの間に出したのか、かりんとうをヒゲに見立てて鼻と上唇で挟んでいる。
「イレの旦那て……。それにそれ……」
「はぐっ。んぐんぐ……。これは打ち上げしないと駄目な流れですよね! 封印していたカレーが食べたいです! でも、お姉ちゃんのお薬が先です!」
思ったより可愛かったヒゲにしていたかりんとうを手も使わずに一瞬で口に咥え、ボリボリと食べたあと、そんなことを言い出す。
「そうだな、スキルオーブの納品ができそうだし、早く治してあげようね」
「はいです! 薬も届いたって言ってましたし! そしてその後はCoC○壱番屋に殴り込みです!」
回復薬はすでに研究所に届いている。頼んでから一週間で最初の一本。続いて昨日二本目が届いたそうだ。
お医者さんの見立てでは、三本あれば完治できるらしい。とりあえず二本あれば、日常生活ができると診断されるはずとのこと。
散らばった魔石を急ぎ拾い集め、足早にモンスターハウスを後にし――
ガコン!
――ようとした時だ。大きく低い、足元からお腹に響くような音のした方を見た……なんだこれ。
モンスターハウスの出入口の反対側の壁だったところに、奥が見えない真っ黒で、人が通れそうな大きさの入口が開いていた。
「な、んでしょうか……?」
「わからない。こんなこと初めてだし……」
チラチラと突然開いた入口と俺の顔をワタワタしながら交互に見比べている。そして何かひらめいたのか、ポンとてを打ち、考えもつかなかった事を話し出した。
「あ、これって! イレさん、もしかしてワンチャンお宝の部屋だったりしませんかね?」
「宝、の部屋か……。あり得るのか? そんな情報はギルドで見たことも聞いたことも無いし」
「そんなのですか? あと、あと異世界物の小説なんかだと、ボスがいて、戦う事になったりならなかったりもパターンなのです。ならなかったパターンだと、何か封印されていて、助けると仲間になるんですけど、それがわたしのイチオシなのですよ」
「そ、そうなんだ。このまま無視して帰るって選択肢はな……いっ――」
そう思い、後ろを振り返ると扉があったところは完全にふさがり、ただの壁になっていた。
「おいおい! なんでだよ! 出口無い! ……てことはだ、先に進めってことか……」
「はわわ! マジですか! 無くなってますし……こうなったら選択肢はひとつですよね? 行っちゃいます?」
「それしか手がない、よな。あとはこのままここで救助を待つ……は、完全に壁になってるから期待するだけ無駄か」
食料や水も予備を含めて二日分くらいは余裕で持ってきている。
考えて見るが、ギルドも二日で帰らない探索者を探し始める事は無いだろう。
ダンジョン内は電波が届かずスマホも使えない。ウエストポーチからスマホを出してみるが圏外となっている。
装備のデータもダンジョンを出て、電波を受信したところで研究所に自動送信していると聞いたしな。
「大和さんの話の通りボスがいるんだとして。少し休憩して体力も万全にしてから進もう」
「はいです。おやつ出しますか?」
「いや、一応何日閉じ込められるかわからないから、食料や水はなるべく節約しておこう」
少し残念そうな顔をして、カーゴパンツのポケットに突っ込んでいた手を止め、そっと何も持たず引き出した。
閉じ込められてから三十分ほどか。
数口の水と、糖分を取りたいと悲しそうな顔をした大和さんと休憩十五分過ぎに大きな飴をひとつずつ口の中でゆっくり溶かして無くなった。
「無くなりました」
「俺も。よし。行こうか」
「はいです。フル装備でスキルの発動は入った状況でですね」
「うん。大和さんは俺のうしろからついてきてね。…………行くよ!」
真っ黒な壁に手を伸ばす。休憩前に通り抜けられる事は物を投げ入れて確認してある。
壁に触れた感触もなく、沈み込むように見えなくなる左手。
「ううっ、怖いので手を握ってもいいですか? いえ握りますね」
バックパックを掴んでいた大和さんが俺の右手、剣を握る手を握ってきた。
「ならこっちの手にしてくれるか? そっちだと咄嗟の時に剣が使えないからさああああっ!」
「にょわぁぁあああ!」
伸ばしていた左手を引こうとした瞬間、俺たちは抵抗するまもなく一瞬で引きずり込まれてしまった。
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