第15話 これからのこと
「イレさんステータスですよ! ステータス見ましょう! きっとお揃いの火属性ですよ!」
「……そう、だね」
スキルオーブを使うぞ! と、決心しかけてたのに、魔力を流したのは大和さんで、赤く光ったのも大和さん……。
スキルオーブは魔力を流した人にスキルが付く仕様だったみたいだ。
……大和さん……わかってないみたいだけど、あなたがスキルを覚えたんだよ……。
はぁ。今回はスキルオーブに触れていても、覚えるのは魔力を流した人が覚えると分かったことが収穫か。とりあえずこのことも研究所に報告しなきゃだね。
「大和さん。期待しているところ、凄く言いにくいんだけど……」
胸の前で握りこぶしをつくり、『わくわく』とリピート再生している期待に答えることはできない。
「ん? どうしたのです?」
こてっと首をかしげる大和さん。本当に言いにくいんだけど!
「あー、スキルオーブってさ、魔力を流した人が覚えるみたいなんだ。だから俺はスキルを覚えていない」
「……へ?」
「だからね、大和さんが新しいスキルを覚えたんじゃないかな」
「マジですか?」
口を半開きにしたまま近距離で目が合う。
「ス、ステータス。……ん? おかしいですね。スキル、二つのままです」
「そうなの? もしかして同じスキルは覚えられないとか?」
「ううっ。イレさんごめんなさい。わたしなんてもったいないことを……。あれ? 炎?」
「炎?」
「はい。炎属性魔法になってます」
「そ、うなのか? 聴いたこと無いんだけど、ってあれ? 大和さんの火属性だったんだよね?」
「はい。わたしのは火でした……。でも今は炎属性で、ふぁいあーぼーるだったのに、ふれいむぼーると言う魔法が増えて撃てるようになってます、ね? えと、撃ってみましょうか?」
「炎? マジか……」
炎属性なんて聞いたことない。新種のスキルか? それが三階層のモンスターハウスで、それもメイジゴブリンからドロップした?
これまで何度かスキルオーブはドロップしたの見たことあったけど、いつも売っていたから何のスキルが出たのか
今回は火を覚えて、たぶん上位の炎を覚えて上書きされたと言うことだろう。
と言うことは……メイジがドロップするスキルオーブは固定のスキルではないってことか?
わからない。でも、もし今後もメイジがスキルオーブを落としてくれるなら。このモンスターハウスに通い続ければ、俺も魔法を覚えられるのか……。
「「
いつの間にか顔を上げていた大和さんと近距離で、たぶん見つめあってた。大和さんも同じ結論に行き着いたのか、同時に声を掛け合ったあと、頷き合い――
「「周回
結局夕方六時まで計十回の周回を済ませ、計三匹のメイジを倒し、スキルオーブは大和さんが使用した本日二匹目の火属性。そして三匹目のドロップであるスキルオーブを手に入れた。
運が良かったのか、思ったよりスキルオーブが出て驚いたくらいだ。
レアなメイジが出ることも滅多に無かったし、スキルオーブも数年で数えるほどしかドロップしていなかったからな。
「ねえねえイレさ~ん。使っちゃいましょうよ~」
拾い上げたスキルオーブをウエストポーチにしまい込むのをうらめしそうに、リアルに指をくわえて覗き込む大和さん。
「そうしたいのは同意見だけど、ダブってしまうともったいないだろ? だから持ち帰って研究所で鑑定してもらってからの方がいいと思うんだ」
周回していて考え付いたことがあったからだ。
「え~、そんなことありませんよ~。ガ○ダムですよガ○ダム」
それを言うならランダムな。ビー玉サイズの機動○士とか……ちょっと欲しいし、集めてコレクションしたいと思ってしまうけどな。
「駄目だ。調べてもらって、ダブっていたらもったいないだろ? それに、このスキルオーブは売ろうと思ってる」
「え~、全部つかいましょうよ~、もったいないですよ~」
俺のパーカを両手で掴み、くいくいっと引っ張る。
「まだ足りないだろうけど、売ったお金で上級の回復薬が分割払いで買えるだろ?」
「あっ、お姉ちゃんのお薬! そうです! そうしましょう! 帰りましょう! ……あ、でもそれじゃあイレさんの分がありませんですよ……」
回復薬のことを思い出し、またテンションが上がったけど、俺の取り分に気づき、しゅんとうなだれる。
「大丈夫だよ。大和さんのお姉さん優先で」
三久には悪いけど、意識がある大和さんのお姉さんの方が現在進行形でツラいだろうし。ごめんな三久。
「だから今日は引き上げよう」
「はいです。イレさんありがとうございます」
掴んでいて、少し伸びてしまったパーカを手で整え深く頭を下げた。
ダンジョンを出たあと、ギルドで魔石を買取りしてもらったんだけど、買取金額は七十万を越えていた。
一人三十五万強! 今までは休日フルでもここまでではなかった。よくて八回。それに五人で等分していたから、メイジ数匹も入れて多くて十万だった。それが三倍以上だ。
「な? な! な、ななななっ……」
「お、落ち着こうな。すいません、半分ずつ各口座に振り込んでもらって、一万ずつ現金で、お願いします」
「かしこまりました。すぐに手続きいたしますので、少々お待ちください」
心臓バクバクで、俺も大和さんと同じくらいテンパっていたけど、それ以上にテンパっている大和さんが横にいることでほんの少し落ち着くことができた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「鑑定! ……わかったわ。このスキルオーブの中身は『火属性魔法』よ」
管理人のお婆さんが鑑定スキルで調べてくれたんだけど、何気に凄いスキルを持っていたんだなと驚いた。
「え~、別の攻撃魔法じゃないんですかぁ」
「でもこれで心置きなく売れるし、良かったんじゃない?」
「でもですよ~。火属性が出て、イレさんが持ってたのは炎属性だったので、次はまた違う属性魔法だと思うじゃないですかぁ」
「ちょっと待ちなさい。炎属性? いったいなんとことを言ってるのかな?」
なぜかこめかみをヒクヒクさせて笑顔で聞いてくる管理人さん。
あの事件の時に手に入れたことから、今日あったことを順に話していった。
「……そう言うことだったのね。あなたたち、明日からもそのモンスターハウスに通いなさい。それと、このスキルオーブは上級回復薬と交換分ってことで良いのよね? イレ君は使わないってことで」
「はい。俺は後回しで、大和さんのお姉さんを優先で大丈夫です」
いつの間にか、今日のデータを報告に来ていた岡間室長も参加して、これからのことが決められていく。
俺たちはダブらないスキルは率先して覚えていくことになった。
なんでも、大和さんがスキルを覚えた瞬間のステータス急上昇が検出されたそうだ。あーだこーだと小難しく説明されたんだけど、ほぼ理解できなかった。
ダブったスキルオーブは研究所が買取りしたいとのことで、大和さんのお姉さんに使いたい上級回復薬を急ぎ手に入れてもらえるように約束してもらえた。
もちろんこの一個じゃ足りず、さらにスキルオーブを手に入れ、ダブりを研究所に引き渡さないと駄目なんだけど、これで回復薬代を手に入れられる目処もたったってことだ。
「よろしくお願いしますです! 頑張ってスキルオーブ集めてきます!」
シュバッとソファーから立ち上がり、頭を下げた大和さんにならい、俺も立ち上がって頭を下げた。
とりあえずモンスターハウスでメイジを倒しまくる日々が始まるようです。
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