第17話 タイムリミットまであと…

「何をぐずぐずしておったのじゃ。待ちくたびれてしもうたぞ」


 カランコロンと下駄を鳴らし、俺の手を引く小柄な女の子がそんなことを。


 まわりを見ると、……ダンジョンだったはずが外だ。木々と土の匂いが鼻に感じられる。そして目の前には朱色の鳥居がたくさん建ち並んでいた。


「外、か? どこだここ……それに誰? 待ちくたびれ……俺たちを待ってた?」


「……耳っ子だ。いっぱいの尻尾ちゃんだ」


 うん。俺もそう思っていた。コスプレとかいうやつかな? 喋り方も変わってるから何かのキャラになりきってる?


 長い白髪を真っ赤なリボンでひとつ束ねている少女。


 白い上着に真っ赤な袴。まるで巫女さんが着るような姿で、少ないが見える肌は透き通るような白さだ。


 小さな顔にある二つの真っ赤な大きな目を細め、笑っている可愛い笑顔。


「尻尾ちゃんとな? ふむ。まあ良い。よう参った。待っておったぞレイ。この前ぶりじゃな。息災のようで安心したのじゃ。して、食べ物はまた持っておるかの?」


 こてっと首をかしげて上目遣いで顔を覗き込んでくる。


「おお。そうじゃったな。ここのことは秘密じゃから記憶を封印してあったのう」


 記憶を? なに言って……、だけどこの場所にこの子、どこかで、ずっと昔に……。


「しからば封印を解こうかの。ほれっ」


 くるりと手は握ったまま背中を向けた女の子。その瞬間、もふんと顔がもふもふに包まれた。


 ああ、これ、気持ち、いい……。意識すると、霞がかった記憶が鮮明になっていく。


 ああ、そうだよ。タマちゃんだ。そうだった、小さい時、このもふもふが好きでよく抱きついて、強すぎると怒られたよな。


「思い出したかの?」


 思い出した。そしてふんわりと尻尾を抱き抱える。


「うん」


「よきかな。しかしレイよ。この前も思っておったが、大きゅうなってもそのクセは治らんのう」


「はは。そうかも」


「レイ? イレさんはレイさんなのです? それともふもふ尻尾ちゃんとはお知り合いなのです?」


 あ、そういえば本名で呼ばれてた……。良い機会か、仲間になった大和さんをだまし続けるのは駄目だと思っていたし。


「そうだよ。この人はタマちゃんといって、ちょっと普通の人とは違って変わっているけど、探索者だった父さんと母さんのパーティーメンバーだった人で、小さい頃はよくうちに来てたんだ」


「うむ。その通りじゃ」


 胸の前で腕を組み、ふんぞり返るタマちゃん。は、昔から思っていたけど可愛い。は、置いといて――


「そして俺は長門 れいが本名で、正真正銘日本人だ。少し事情があって言えなかった。ごめん」


 それから俺はなぜ名前を変えていたのか、なにがあったのかを大和さんに話し始めた。


 途中、手水屋で手を清め、大和さんが持ち出した駄菓子をタマちゃんに分け、三人でつまみながら話を続けた。


「そうだったのですね。辛かったですね、よしよしです」


 話を聞き、涙ぐむ大和さんが優しく頭を撫でてくれた。


「むぐむぐ」


「うん。ありがとう。だから大和さんがあのパーティーと一緒にいるのを見かけた時に、もしかしてって気になってさ」


「むぐむぐ」


「わたし、ずっと出がらしとか言われていじめられてたのですよ。あの皆さんも一緒だったけど、お姉ちゃんの入院費とお薬代が必要なので、それくらいって気にしてなかったのです。が、レイさん可哀想過ぎます」


「むぐむぐ」


「あ、ここではレイで大丈夫だけど、元に戻ったら気をつけてね」


「むぐむぐ」


 こくりとうなずく大和さんもやっぱり可愛い。んだけど、ずっと『むぐむぐ』駄菓子を頬張ってるタマちゃん……。


 ブラッ○サンダーのチョコで口のまわりが大変なことになっている。


 手水のひしゃくで水をすくい、ハンカチを濡らして口を拭いてやる。


「ぬぐっ、ぬぐぐ。ぷはっ、すまぬなレイ。しかしこのぶらっくさんだは美味じゃな」


「タマちゃんも駄菓子道に目覚めましたね! そうです! ひとつひとつは小さく満足できる量ではないのですが! 多種多様な駄菓子を食べれるのです! これは製菓企業の勝利確定戦略と言っても過言ではないのですよ! なので次もチョコを推薦するのです! チ○ルチョコのBISがおすすめなのです! さあさあさあさあ!」


「うむ! いただこうではないか!」


 バックパックから色んな種類のチ○ルチョコをひと掴み取り出して、その中からビスケットが中に入っているものを選び出し手渡す大和さん。


 シュバッ! と手を伸ばすタマちゃん。仲良くできそうで、良かった。


 それに、大和さんは本当に俺のことで悲しみを共有してくれているように表情が変わる。


 前髪で顔が隠れていてもわかるくらい少し大袈裟だよと言いたくなるくらいに。






 しばらく駄菓子と雑談を楽しんだ後、シオンのお姉さんに会いに行かないと駄目だと思い出した。


「なんじゃ。そのような大切なことを忘れておるとはな。時間は差し迫っておるが、……良かろう。レイにも素質ある仲間ができたのじゃから、まだ少しは猶予もあるじゃろうて。よし、修行はシオンの姉上に回復薬を届けてからでも遅くはないはずじゃ」


 タマちゃんの言うことには一つ問題はあるが、間に合うだろうとのこと。何があるんだろうか……、気になるけど早く用事を済ませて戻ってこよう。


「うん。明日の朝一番に来れるようにするよ」


「タマちゃんまた明日ね。沢山駄菓子とジュースも持ってくるのでたのしみにしててくださいですよ」


 仲間か、シオンが仲間になったから何か猶予があると言われてもピンと来ないけど、強くなれるように修行頑張ろう。でも今はシオンのお姉さんが優先だよね。


 そうそう。話の途中で名前呼びすることに決まった。俺は大和さんからシオンと呼ばせてもらうことに。


 シオンも俺のことを呼び捨てでイレか、誰も近くにいないか、研究所の職員だけならレイで大丈夫なことになった。


 最初はスゴく言いづらそうにしていたけど、お互いに名前を呼び捨てで呼び合えるの……良いね 。


 エレベーターで初めて会って、次は探索者ギルド。そしてシャトルバスで横に座り、元パーティーメンバーと一緒にいることに不安をおぼえ、後をつけた。


 ストーカーじみた行動はどうかと思ったけど、一部始終を見聞きし、自分に重ね合わせてしまったのかもしれないな。


 でも、最初はそんな始まりだったけど、たまたまエレベーターを共にしてからパーティーメンバーになり、こうして名前を呼び合える。


 顔を合わせるだけでお互いに自然に頬がゆるむのがわかるほど、本当に仲間になったんだなと実感できた。


「うむ。楽しみにしておくのじゃ」


 そう言うと、タマちゃんが何もない空間に向かって指を指し、四角く空を切るとモンスターハウスからここへ来た時の真っ黒な入口が現れた。


「待っておるぞ」


「うん」「はいです!」







 向こうの見えない入口をくぐるとそこはモンスターハウスの外だった。


 そういえば前もここに戻っていたんだよな。


「おお~。戻ってきましたね。じゃあこうしてはいられないのですよ! イレ、早く帰って病院行くです!」

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