◆第2.5話 裏切り者たち(聖一視点)
「よし! これでやっと『親友ごっこ』ともお別れだ!」
モンスターハウスを飛び出し、最初に思ったことが口に出た。それくらい長くツラい日々だった。
保育園から親父の言いつけで、『長門 零に近づきスキルの謎を探れ』で、いじめの対象の一人だったヤツと友達のフリを続けていた。
はじめは疑っていたようだが俺の演技に騙され、『親友』と思われるまでになった。
吐き気がする。いや、何度も何度も吐いた。それがやっとだ。やっとレイの死で解放されたんだ。
長かったな。ムカついたことはレイにバレないように別のヤツにぶつけていたが、スッキリするどころかたまる一方だった。
ああ、中学の終わりに親父が痺れを切らせて派遣してきた二葉には感謝してる。
『レイの彼女役として成瀬家の当主様より派遣された橘 二葉と申します』
親父から話は聞いていたが、橘家。成瀬家の土地を守護してきた家の者だった二葉。
『ご当主様からはレイの彼女となって近づけと。そして将来、聖一様の妻の候補として支えよと』
それを聞いてすぐにストレスが限界だった俺は二葉を抱いてしまおうと思った。が、思いとどまる。
そうだ。レイが二葉に惚れてからが良い。惚れて付き合うことになってからだ。
くくくっ。思い出しても笑えてくる。レイと二葉が初めてデートした日、俺は二葉の初めてを奪ったからだ。
次の日、嬉しそうにデートであったことを話すレイにどうやって教えてやろうか、教えたらどんな顔をするか、考えるだけでスッキリしたもんだ。
「おい、聖一、これでいいんだよな?」
いい気分になってるところへ佐藤先輩が話しかけてきた。
もう少し浸らせてくれよと文句も言いたいが、佐藤先輩と山本先輩は家の成瀬家と同格であり、学園でも先輩で、探索者ランクも上だ。
仕方ないな。
「はい。我々御三家の密偵たちが全日本技術研究所に潜り込み調べた結果、レイのスキルレベルが上がっても、まったく強くもならないと判断し、これ以上の調査は不要となりましたから」
「ホント、足手まといで私たちの邪魔ばかりで嫌になったわよね。私と
本当にこの二人の先輩は同年代で群を抜き強い。全日本U18ならトップ100に入っている。
悔しいが俺はなんとか四桁に入ったところだ。それもこれもレイに付き合ってたせいだ。
俺だってレイの相手などせずにダンジョンに潜り続けていたら高一でAランクになっていたはずだからな。
「そう言うな
その通りだ。御三家は古くは
今現在も国の中枢であろうと滅多なことでは逆らえない。だから多少ヤバい犯罪行為をしても揉み消して無かったことにできる。
そうそう『お前、なんで
「でも二億よね。二葉ちゃんも入れて一人五千万よ。うふふ、夏休みに海外旅行でも行こうかしら」
「俺はミスリルソードをオーダーメイド予定だ」
「私は聖一との結婚式でパーっと使うつもり」
「新婚旅行は俺の五千万で豪華客船で世界一周なんだよな」
これ以上調査の必要なしと判断され、事あるごとに楯突いてくる全日本技術研究所に意趣返しでレイの抹殺依頼が俺たち四人が実行者に選ばれたわけだ。
左腕に抱き付いてくる二葉。はじめはただの観察仲間だったが、何度も身体を重ねているうちにいつの間にか俺は
そして二葉は婚約者候補から正式に婚約者となった。まあはじめて顔合わせした時からお互いに好みの顔だったがな。
「あら、それも良いわね。豪? 私たちは次期当主だから結ばれることは無いけど、一緒に旅行行っちゃう?」
「あー、別に良いが、分家の婚約者はどうした?」
「ん? 今頃お魚と仲良くしているはずよ」
「凛……何人目だよまったく。山本の爺さんが気苦労で倒れないか心配になるぞ」
確か三人は消えてると佐藤先輩から聞いた。この中で一番敵に回したくないと思っている。もちろん婚約者にはぜったいなりたくはない。
「失礼ね。そうだ、あなたたち、次の身代わり候補で荷物持ち兼雑用係の予定者っている?」
誰も言葉が出なかった。考えもしてなかったな。
「はぁ。
「あっ、俺知ってる。クラスは違うが、確か大怪我して入院したんだよな?」
「私もそれ聞きました。顔とかぐちゃぐちゃになったって」
「凛。まさかその大和ってやつを荷物持ちにするのか?」
「まさか。四織って子の妹がいるのよ。引きこもりのね。その子を引っ張り出せたらお安くこき使えるんじゃないかなってね」
「ほほう。凛、お前またなんか仕込んだだろ。ならその方向で進めたいんだろ?」
「あら、バレちゃった? ちょ~っとだけつついたくらいね。年下の出る目を潰してやっただけ。荷物持ちはついでかな」
「くくっ、良いね。ってかそろそろ走るぞ。ちょっとでも急いでいた感じを出したいからな」
佐藤先輩の提案を聞き、俺たちは走り出す。それも本気でだ。
途中ゴブリンに何度か遭遇するが、切り捨てながら走る。魔石も拾わずにだ。
三階層から二階層、一階層と何組ものパーティーとすれ違いながらだ。これも急いでいたと目撃証言をもらうためだ。
一階層の出口に近づく頃には二葉はもう言葉も出ないくらい息があがり、遅れぎみだ。俺も息があがり止まって歩きたいほど苦しいがなんとかついていく。
ギルドのダンジョン前詰所に佐藤先輩と山本先輩が走り込み、少し遅れて俺。先輩たちがいかにも焦っている風で大きな声を出し、救助依頼を叫んでいる頃にやっと二葉が詰所に到着した。
数分で救助隊が編成され、ダンジョンに消えていくのを見送った。
数時間後、救助隊が戻り告げられた『救助者不明。ダンジョンに飲まれたと判断して良いだろう』の言葉で俺たちは心の中で歓喜したのは言うまでもない。
足枷がなくなった解放感は爽快で、最高の快感と感じた。
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