第3話 戻れない過去
「……っ! ヤバ! …………あれ?」
飛び起きるとそこはモンスターハウスの扉前。気を失った場所で目を覚ましたようだ。
「あっ、良かった、バックパックもダガーも無事か」
ダンジョンでは一時間ほど放置しておくとダンジョンに取り込まれて消えてしまう。だから荷物は絶対に身に付けておかないと駄目なんだけど……。
「触れていなかったのに消えてないところを見ると、一時間も経ってないってことだな。はぁ、助かった」
バックパックを引き寄せ、ダガーを手に取り腰の鞘へ戻す。
「よく逃げられたよな。死ぬかと思ったよ。……そうだ、俺、身代わりにされたんだ」
最悪の一日だったな。もう笑うしかないよこんなの。放課後まではいつも通りだったのにな。
彼女と親友の裏切り。気づかなかったことにしようとしたのに今度はパーティー全員から身代わりとして捨てられた。
確かにあの状況だと誰か一人を犠牲にして、残りの仲間を助けるのはよくあると聞くから分からないでもない。
だけどそれはモンスターハウスを引いてすぐのアクシデントか、相手が強力な場合だ。でも残っていたゴブリンは最弱に近いモンスターだ。メイジは確かに強敵だけど、四人なら余裕をもって倒せるし、残りも十数匹だった。
引くにしても、足手まといな俺を放っておくほどではない。……と思う。
佐藤先輩と山本先輩はBランク。例え二人でも回復薬さえあれば倒しきれる数だ。そこにBランク間近の聖一と、Dランクの二葉がいた。
それに回復薬を求められたのは、ギリギリだったからじゃない。いつも余裕をもって五分の二減ったと感じた時に回復していたからだ。
考えると、ゴブリンが
まるで意図して後ろに抜けさせていたように思えてきた。
あれ? じゃあもしかして計画的に俺を……。いや、いくらなんでもそんなことあるはずがない。それに俺を殺したって誰にもメリットなんて無い。
デメリットって言っていいのか、俺だけがスキルに【Lv】があり、それを調べて解明しようとしてる人たちがいるってだけだ。
その人たちのお陰で補助金をもらえて生活もできていると言って過言ではない。
両親を事故で早くに亡くし、事故の後遺症か意識の戻らない入院中の妹がいるのに、最低のFランクだから稼ぎもほぼ無い俺が学生を続けていられているくらいだ。
これからどうすればいいんだろうか。帰ってギルドに報告して……、たぶん俺は死んだことになっているだろうな。先に帰っているだろうし、俺がモンスターハウスに飲まれて死んだと報告されてないとおかしい。
生きて帰ってきたと分かったらパーティーに戻れるだろうか。戻れたとしてもこれまで通りとはいかないか。
二葉はもう……。
聖一だって……。
こんなんじゃ、もう元になんて戻れないよ。
涙が溢れてくる。
「うっ、くっ」
袖で目を拭う。何度も。濃いグレーの袖が黒に近くなっても止まらない涙を拭い続けた。
どれだけの時間、泣いていたのか。少し落ち着けた気がする。
「帰ろう」
重い腰を上げ、バックパックをかついで思い出した。
肩、……が痛くない?
バックパックを下ろし、腕を回してみても痛みがない。それに焼け焦げ破れてしまい見えていた、左脇腹にあった火傷も消えている。
「どうなってるんだ? 心配したダブルの痺れも無いぞ?」
いや、今は怪我が治って、痺れも無いんだ。あの回服薬がここまで効くか? 謎だけど今はダンジョン内だし、気にしても仕方がない。
でもこれなら道順も記憶してるから迷うことも無いし、体も動くから逃げて出ることもできる。
「……今はもう考えるのもしんどいしな。考えることがありすぎるし。……帰ってから考えよう」
二時間ほどかけてダンジョンから出ることができた。入口の扉も閉まっていたし、もう真っ暗だ。
時間は……。
ウエストポーチからスマホを取り出し画面を……バッテリー切れだ。
「はぁ? 入る前まだ80%はあったのに何でだ? 壊れたか? でもこれだけ人もいないなら結構遅い時間だよな」
ギルドの職員までいないとなると日が変わるくらいかな。
ウエストポーチに役立たずなスマホを戻し、ダガー用の鍵を取り出す。
魔石とスキルオーブの提出は危険物じゃないし明日でいいか。
ダガーが抜けないように鍵をかけ、自転車置場に向かう。空は雲が出ているから星は見えない。
小高い山の頂上だから晴れた夜は星が降ってきそうなほどキレイなのにな。
荷台にバックパックとダガーをくくりつけ、自転車で山を下る。ヴゥゥゥと前輪からダイナモを回す音と風を切る音。油切れか、後輪のブレーキが軋む音を聴いていた。
薄暗いライトを頼りに暗闇を走り抜けて。
家に着き、時計を見ると午前二時を回っていた。
休むと稼ぎも無くなるし、寝坊しないようにしなきゃな。
明日はスキルLvを上げるために俺でもほぼ危険もなく倒せるスライムや、スイーパースネイル狙いでダンジョンに行く予定だ。
冷蔵庫から買い置きのミニクリームパンを出して二つだけ食べ、残り二つは明日の朝用に袋の口を閉めて戻しておく。
お腹が落ち着いたら今度は眠くて仕方がない。
お風呂に入る気力もなく、服を脱ぎ捨ててベッドに体を投げ出すと、もう睡魔に抵抗もできなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「誰! ……その顔はレイ君? 嘘っ! 死んだと聞いたのに! 化けて出たの!」
ダンジョンに行く用意をして部屋から出ると、扉の目の前にいた管理人さん。
隣に住むお婆さんが俺のことを幽霊でも見たかのように腰を抜かし、通路に座り込んでしまった。
「死んだ?」
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