第11話 俺(わたし)たち、強くない?

「イチャイチャしてんじゃねえ! オラッ!」


「くっ――」


 横を通り過ぎる瞬間に、聖一が蹴りを入れてきた。


 あれ? まったく痛くないぞ?


 その一撃のあと、『ペッ』と唾を吐き捨てギルドへ入っていった。


 マジか……、痛くはなかったが、聖一、おまえ誰とも知れないものをいきなり蹴るのかよ……。


 だけど――


「ふう」


 なんとか気づかれなかったな。ウィーンと自動ドアが背後で閉まり、緊張を解く。


「あ、大和さんごめんなさい、アイツらがいたから咄嗟に動いちゃって。痛くしてないよね?」


 パッと抱え込んでいた手をはなし、一歩半ほど離れておく。


「そ、そうだったのですね! わたしは大丈夫です。イレさんは大丈夫だったです? 蹴られてたのです」


「うん。まったく痛くなかったから大丈夫」


 笑いかけると大和さんの顔が赤いことに気づいた。


 大和さんもやっぱり聖一たちに会って緊張したんだな。


 そのまま見つめてると――


「……良か、った、のです。あ、……こ、こんなこと初めてなので、ちょっとビックリしただけですから! あ、まだバス出発してませんよ! イレさん急ぎましょー!」


 ――フードを引っ張り、さらに顔を隠してバスに向けて走り出した。


「あ、ちょっと、待ってよ」


 良かった。痛くなかったみたいだ。とてとて走る大和さんを追いかけ、出発直前だったけど間に合った。


 運転手さんにペコリと会釈して、通路を奥へ進む。座席を見ると、思ったよりまばらにしか乗っておらず、二人並びで席にも座れた。


「色々ギリギリだったけど、一番目のバスに乗れたね」


「はい。席にも座れました。そう言えば今日はどのような探索予定です?」


 座った後、前を見ると一組のパーティーが乗り込んで、プシューと折りたたまれていた扉が閉まった。


「出発しそうですね。あの方たちが乗り合わせてこなくてひと安心です」


「そうだね。あのタイミングでギルドに入ってきたから、早くても次のバスだと思うよ」


 そのパーティーが席に座ったと同時にガクンと座席に少し体が沈み込んだ。


「そうそう探索予定は午前中は一、二階層かな。大和さんは荷物持ちをしていただけで、ほとんど戦ってないよね?」


 昨日のモンスターハウスでも戦うってより、メイスを振り回して牽制して逃げ回っていた。


 俺がやっていた事と同じで、四人の間を抜けてきたゴブリンの気を引き、つれ回す役割だった。


「はい。身体凶化を使えるので、戦うこともできますって言ってたのです……、でも荷物持ちと雑用しかやらせてもらえなかったのですよ。なのでまだ一匹も倒したこと無いのです」


「一匹も? だったらレベルも1のまま?」


 それは予想外の事だ。


 自分で倒さないと経験値はほんの少し分配されない。俺はレベル2になるのに一年以上荷物持ちとしてダンジョンに通った。


 三階層に入らず一、二階層だけでだ。


「レベルです? はい。1のままなのです。それが何か?」


 レベル1の大和さんを三階層のモンスターハウスに連れていったのかアイツら……。


「いや。予定変更かな。今日は一、二階層でレベル上げしよう。そうだな、せめてレベル3になるまで」


「はい。イレさんの作戦で行きましょう! 頑張りますよ! 目指せSランク!」


 Sランクになるなら最低でもレベル100にならないと駄目なんだけどね。でもいいなこんな感じで喋れるの。


「Sランクか。そうだよな、目標は高いほど良いよね。なら『いずれSランク』で二人だから『サムデイズ』とかパーティー名どうかな?」


「『サムデイズ』です? いずれがサムデイで、Sを付けた、レイさん中々やるのですよ。……私なら『不倶戴天ズ』です。確か見返すみたいな意味でしたよね?」


「……いや、そんな意味じゃなかったような」


 スマホで検索してみると――


『憎み合い恨み合って相手を殺してやりたいと思っているほど仲の悪い間柄』と出てきた。


「あ……無し! 無しです! 『サムデイズ』が良いです! 『不倶戴天ズ』駄目なのです!」


 スマホを覗き込んだ大和さんはあっさりと自分の案を捨て、俺の案に乗り換えた。


「ま、まあ、まだ登録もしてないし、良い名前が決まるまで保留にしておこうか」


「はい! 次はちゃんと調べて考えるのです!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ダンジョンに到着して、さっそく一階層を二階層に向けての最短経路を進み、何度かスライムを討伐してきたんだけど……。


「レベルは簡単に2へ上がりましたけれど……スライムさん手応えないのです」


「そうだな。二階層のスイーパースネイルもこんな感じなら三階層に入っても良いかもしれないね」


 他の探索者たちはスライムを倒さず無視して進むため、十メートル以内に一匹はいるスライムを全部大和さんが倒してきた。


 二階層までの一キロ弱の道のりで百匹を倒した時にレベルが上がってしまった。


 目の前の二階層へ下る階段。俺たちは頷き合い、二階層へ進んだけど、結局二階層も問題なく進み、三階層に入ることにした。


「カタツムリさんもスライムさんと一緒でした。こんなことなら最初から三階層目指しても良かったか、もっ!」


 ドコン――


 突っ込んできたゴブリンを、ちょこんと横に避けバッティングするようにメイスを横薙に振るう。


 メイスはお腹に食い込み、吹き飛ぶゴブリン。


 横目で大和さんの戦いぶりを見ながら剣を振るう。


「そうだな。モンスターハウスでも余裕をもって行けそうなくらい、だっ!」


 ズシュッ――


 ゴブリンの首が飛ぶ。


 大和さんのぶっ飛ばしたものとほぼ同時に黒い煙りに変わり、魔石を残し、俺たちも残心を解く。


「おかわりは……来ませんね。そうです! このあとモンスターハウスを二人でやりませんか? 思ったより私たちツヨツヨですし」


「確かに俺たち三階層だと余裕過ぎるもんな。まだ身体強化も使ってないし、モンスターハウスはここからすぐのところだけど……」


 レベルがあっという間に3に上がった大和さんがそんな提案をしてきた。すでに二人で数十匹のゴブリンを倒してきているけど無傷で、体力的にもまったく疲れた感じもない。


 大和さんも身体凶化を使ってない状態でこれだ。でもモンスターハウスだと……。


「あー、あの方たちと会っちゃうかも知れませんね。じゃあ無しで、四階層行きますか?」


 アイツらが絶対来るだろうモンスターハウスでバッタリと出会って正体がバレる。それが一番の懸念なんだけど、四階層からは弓持ちのゴブリンが追加される。


 ゴブリンとはいえ、メイジの次に厄介なアーチャーゴブリン。強さは普通のゴブリンと変わらないけど、遠距離の攻撃は正直危険だ。


 できれば二人とも現状のレベル3から最低8くらいまで上げておきたい。


 このままレベル3で行くなら、こん棒持ちが五匹増えてくれた方が今の俺たちにとって断然マシなくらいに。


「時間的には……。うん。一回くらい挑戦しても大丈夫かな」


 スマホで時間を確認すると、思ったより全然時間が進んでいなかった。


「すぐ近くだし、挑戦しに行こうか。気を付けるのはメイジが出現した時くらいだしね」


「はいです! さあ行きましょう! すぐ行きましょう!」


 ちょこちょこと小走りで魔石を拾い集め出す大和さんに続き、俺も拾い始める。


 三匹のグループから始まり、戦闘音に引き寄せられたのか、次々に集まってきたゴブリンたち、計24匹を倒したから床のあちこちに散らばっていた。


 拾い集めた後、バックパックに放り込み、俺たちはモンスターハウスがある通路に進路変更する。


 ものの数分で到着。『準備は良い?』と一応聞いてみると、『バッチリどんと来いですよ!』と良い返事。


 扉を一気に引き開け、まだ何も居ないモンスターハウスに足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る