第10話 会いたくないものたちとの遭遇
三久に朝の挨拶をしに行った後、まだ誰もいない総合受付の一角で、病院に寝泊まりしている大和さんと待ち合わせをしてる。
エレベーターが開き、大和さんが降りてきた。
大和さんは俺を見つけたようで、ビクと小さくその場で飛び上がる。……その後、くちの端が少し上り、ちょこちょこと走りよってくる。
笑顔になったな。それと、なんでいつもビクって小動物みたいになるのか聞いてみたいなと思っていると、目の前で両手を広げて見せてきた。
「どうですか? 似合ってます? このグレーのフルジップパーカに黒のカーゴパンツ。引きこもってたわたしのメイン装備と同じですよ」
全日本技能研究所のロゴ入りパーカを初め、カーゴパンツもインナーも俺と色違いなだけの装備だ。
機能も同じで、『身体凶化』持ちも凄く珍しく、数も少ない。世界を見ても千人に満たない。日本では歴代で四人目の発見だと言うことで、当然研究もすると言ってた。
ちなみに補助金も出せるそうだけど、申請してまだ数日かかるそう。
それは置いておいて、大和さん。引きこもりのメイン装備って上下スウェットだと思っていたけど、下がカーゴパンツにのは大和さんなりの洒落ポイントだろうか。
「う、ん。似合ってるよ、サイズも良さそうだし」
言い様の無い疑問もあるけど、『似合ってる』と言ったらパーカのポケットに手をつっこみ、膨らませるようにして、にへらと笑った。
「へへへ。ですです。それにカーゴパンツはいっぱいポケットが付いてるから……ほら、グミにマーブルチョコ。こっちはPSPにこっちは柿の種とカシューナッツで――」
次々と出しては戻されるお菓子やゲーム機。そのためどのポケットもパンパンだ。
いや、大和さん。これからダンジョン行くのにお菓子はまだ持っていてもおかしくはないけど、ゲーム機は違うと思うんだ。
でも、どうやってお菓子とかゲーム機なんての手に入れたんだろう? お金にそんな余裕がなかったはずなんだけど。
「昨日の夕方に岡間室長さんからと、看護師さんが持ってきてくれたのです」
隠れている目は見えないけど、白い歯がチラリと見え、笑っていると分かった。
「へぇ。そうなんだ。良かったね」
「はい。カップラーメンとか、チーンして食べられるご飯とかレトルトのカレーなんかもあったんですよ。嬉しすぎて昨日の夜はカレーライスにしたんですが病室の皆さんには凄く怒られたのです」
そう言ってシュンとうつ向いてしまった。
病院食って食べさせてもらったことあるけど、味が薄いんだよね。そんな時にカレーの匂いがしてきたら……。
「あはは……、そりゃ同室の方たちには酷なことを」
「はい。なのでしばらくカレーは封印することになりました」
すっかり猫背になって凹んでしまった大和さんの背中を押して病院を出ることにしました。
探索者ギルドが開くと同時に入り、一番乗りで申請を済ませてダンジョン行きのシャトルバスに乗り込む。
「荷物って二人で分けて持つと、小さいバックパックですからゆっくり座れます! ほら、広々なのですよ!」
窓際に座った大和さんはバックパックを抱っこするようにして座り、お尻で少しぴょんぴょんと座席のクッションで弾んでいる。
それを見て笑いそうになるのをグッと押さえ、自分のバックパックを足元に下ろして座った。
「うん。それに一番乗りだから席も選び放題だしな」
「はいです」
コクリと頷くのを見て、ふと思い出した。そう言えば――
『明日も今日と同じ時間だ! 遅れるなよ残りカス!』
――って言われてたよな。
「なあ大和さん。荷物持ち辞めるって連絡はした?」
「あっ……してませんです。やっぱりしないと駄目、です、かね? ……しなきゃ駄目ですよね。じゃあちょっと電話してきます」
そう言ってゴソゴソとカーゴパンツのポケットから小さなメモ帳を取り出し席を立った。
次に取り出したピンク色の財布。ビリビリと財布のマジックテープ開き、小銭を数えている。
「あっ、十円は三枚だけしかないのですよ……足りるかな? 大丈夫だよね、今日から行けませんって言うだけだし」
ブツブツ言いながら財布を閉めてパーカのポケットにねじ込んだ。
「イレさん、この近くに電話ボックスってありましたっけ?」
「え? スマホ持ってないの?」
「はいです。引きこもってましたから解約して、その後は……」
「じゃあ俺の――」
駄目だ。俺のスマホじゃかけられない。前のままのスマホで電話をかけたりしたら一発で俺のスマホだと分かってしまう。
「貸してもらえるのです?」
「あー、貸してあげたいけど、……あ、そうだ探索者ギルドに伝言を頼めないかな」
「電話の方が早……あ、そうでした通話料金かかりますし、ギルドなら無料で連絡できるのですよ!」
いや、そうじゃないんだけどな。
「じゃあまだ出発まで時間もあるからさっさと行こう」
バックパックを手に取り立ち上がる。
揃ってバスを降りると、こちらに向かってくる探索者がちらほらバス停に向かってきている。
「あー。一番乗りだったのに、抜かされちゃいますね」
「そうだね。まあ、どうせ明日もダンジョンに行く予定だし、一番乗りは明日に持ち越しかな」
残念そうに背中を丸める大和さんの歩くスピードが今にも止まりそうなくらい格段に落ちたので、背を押して探索者たちとすれ違った。
少し前に出たギルドに入り、依頼申請の窓口に向かう。
たぶんこっちだよね。受け付けは並ぶ探索者たちが増えてるから、できれば並びたくはない。
「おはようございます。すいません。少し頼みたいことがあるのですが」
横目で増え続ける列を感じながら、落ち込んでいる大和さんの代わりに声をかける。
「おはようございます。ご依頼ですか? でしたら後ろのテーブルにある依頼書に内容をお書きいただいた後、こちらに提出してください」
「そうだったんですね。ちょっと伝言を頼もうと思っただけなんですが」
「伝言、ですか?」
「はい。荷物持ちをしていたのですが、正式にパーティーを組みまして、依頼の終了を伝えたいのですけど……駄目、でしょうかね?」
「それでしたら探索者カードの提出と、今回お断りするパーティー名をこちらの用紙に記入していただければ、承りますよ」
まだ落ち込んでいる大和さんに、なんとか探索者カードを出してもらえたんだけど、記入はまだ無理っぽい。
どんだけ一番乗りできなかったことがショックなんだよ、と言いたいけど、カウンターに差し出された用紙の『大和 四音』の名前と、パーティー名『パワフル☆ボンバー』と書いた。
先輩が決めたパーティー名だけど、俺は一度もこの名前を出したことはない。
だって『俺はパワフル☆ボンバーの長門 零だ!』とかマジで恥ずかしすぎると思ってたからな。
ちなみに俺たちのパーティー名は保留中だ。
「はい。では探索者カードのお返しと、伝言承りました。他に何かご用はありますか?」
俺は『以上です。よろしくお願いします』とカウンターを離れ、ギルドをさっさと出ることにした。
のに――
ヤバっ!
大和さんのフードを掴み、一気に被せた。
「ほへっ!?」
「しっ。喋らないで。奴らが来たから」
ビクっして顔を奴らに向けようとしたのでグイっと頭を引き寄せた。
引き寄せてから思った。
コレ、恋人同士がやりそうだよな……。
大和さんの頭を胸に抱いたまま、奴らの横を無事――
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