パーティー

第9話 スケベでエッチです!

「で、連れ込んだと」


 一人がけのソファーに深く座って電子煙草を吸い込みジトっと俺を見てくる管理人さん。


「連れ込んだって人聞き悪いこと言わないでくださいよ! あくまで探索者パーティーを組んだ報告と顔合わせです!」


 ダンジョン前でパーティーに誘い、探索者ギルドに帰還報告とパーティーの申請をした。


 俺は研究所から援助してもらってる立場だし、仲間ができたなら紹介だけはと自称職員兼管理人のお婆さんの部屋にやって来たのだが……。


「まあいいわ。それでえっと――」


 ふぅーと俺に向けて煙を吐くと苺の匂いがほんのりとした。


「はい! 大和 四音しおんと言います! この度はイレさんとお友だちから始めることになりました!」


 向かってくる煙に息を吹き掛け散らす。


 ここ一週間ほど、研究所の職員さんたちにもやられ続けていたから問題なく煙を散らせている。


 そんな攻防の最中、ソファーからシュバッと立ち上がり、自己紹介する大和さん。


 ……その言い方だとちょっと違う意味に聞こえるんだけど。


「スキルは身体凶化、えっと、カタカナの『メ』がつく方の凶化だけです! 力はあります! 荷物持ち得意です! 武器はメイスです! 不束者ですがよろしくお願いいたします!」


 空中に『凶』の字を書き、自分のアピールポイントを付け加えた。


 そして今度はブオンと風を切る勢いで、腰を90度に曲げて頭を下げる。


「大和さん。その言い方だと意味がね」


 俺の言ったことの意味が分かってないのか、腰を曲げたまま、ソファーに座る俺の方を見て首をかしげている。


 あっ、前髪が垂れ下がってるから顔が見えた。やっぱり目が大きい。


「くくくっ。面白い娘ね、四音ちゃんは。イレ、責任取るか、ちゃんと避妊するんだよ」


 そんな時に管理人さんがとんでもないことをぶちこんできた。


「なに言ってるんですか! 顔合わせって言ってるでしょ!」


 文句を言ってる間に、管理人さんが言った意味が分かったようだ。


「……はわっ! そんなこと早過ぎましゅ! そ、それに友達になったところです! そりゃ、ちょっとカッコいいなってより、美人の方がしっくりきてるし、本当の女として負けてるとかちょっと思ったりして悔しくもあるのですが、でも『俺の側に居てくれって』言われたし。……もしかしてやっぱりそのつもりで連れてきたとか! イレさん不潔です! 変態です! スケベでエッチです!」


 ボッと火がついたように真っ赤になった大和さん。凄い勢いで言いたい放題のあと、ソファーの端まで離れられた。


 そんなつもりは欠片もなかったから、なにげにショックなんだけど……。


「くくくっ。あなたたち本当に面白いね」


「管理人さんのせいでしょっ! からかわないでくださいよ! あーもう説明させてください! あのですね! 今日あった――」


 俺が見て聞いたことを説明し、大和さんも荷物持ちで雇われた十日間のことを少しずつ話し出した。


 あと、別にいいけど座った位置は離れたままだった。


 それと現状住む場所がない。なんと住んでいた賃貸マンションは荷物持ちで外に出ている間に、親が引き払ったようで、住めなくなっているらしい。


 聞けば聞くほどとんでもない親だと怒りが込み上げてくる。


 住むところも無いので病院に無理を言い、お姉さんの病室で寝泊まりしているとのこと。


「ふ~ん。学生のくせにとんでもない奴らだとは聞いてたけど、その子の親も相当なものね。どうする? 親の方は調べてからになるだろうけど、奴らのことは、この前不問にしたの取り消しもできるわよ?」


「あれ? 岡間おかま室長さんいつの間に?」


 後ろから声が聞こえ、振り向いてみると、最初会った時、白衣を着たおじさんと言ったら『二十五じゃボケッ!』と怒られたお兄さんがいた。


 いつから洗ってないのかわからないボサボサ髪と、不精ひげまみれのちょっと言葉遣いがアレな方がいた。


 名誉のために言っておくと、同じ研究所に学生結婚した美人な奥さんがちゃんといます。


「何日も風呂に入ってないわね室長。ちょっと臭いわよ。で、今日は来る予定もなかったはずだけど何しに来たのよ」


 俺のあと管理人さんが話しかけたんだけど、岡間室長さんはしれっとポットからマグカップにお茶をそそぎ、床に腰を下ろした。


 一口飲んで、ローテーブルにマグカップを置くと俺の方を見て話し出した。


「ああ、今日のデータを検証して分かったことがあってね、教えてあげようと思って来たのよ」


「何か分かったのですか?」


「イレは強化スキルの各倍率って分かる? 強化だと1.5倍になるんだけど」


「はい。確か……」


 身体強化 1.5倍

 身体超化 2.0倍

 身体凶化 3.0倍

 身体神化 5.0倍


「で、俺のは……」


 Lv1 1.0倍

 Lv2 1.0倍

 Lv3 1.0倍

 Lv4 1.0倍

 Lv5 確認中


「でしたよね?」


「正解。で、前回レベルが5になったわよね?」


「はい。それで身体回復のスキルも覚醒しましたね。あっ、レベルが5だと倍率は分からないけど、強くなってるのはこの前教えてくれたので知ってますよ?」


「その倍率が分かったわ。まあ昨日の時点でも神化以上って分かっていたんだけどね」


「神化以上!? 5倍以上っていったい何倍なんですか!」


 マグカップに手をのばし、コクリと喉を動かしたあと、とんでもないことをポツリと呟いた。


「10倍よ」


「「「は?」」」


 俺だけじゃなく、管理人さんも大和さんも同じ声が出た。


「付け加えておくけど、凶化や神化と同じように素の強化もされてるから、もし気にくわないヤツがいても、思いっきり殴っちゃ駄目、そっとつつくくらいにしておきなさいね」


 管理人さんが少し離れ、大和さんもさらに離れてしまった。


「ええ~」


 強くなったと思っていたけど、そこまでとは……。


 そりゃ鉄のかたまりを振り回しても、重さを感じないはずだよ。



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