第20話 K先生とN
Nは中学時代は平凡というか、少し地味な子だったみたいです。
学校説明会で僕が担当した子なんで覚えてるんですよ。受験生対象の説明会でお母さんと一緒に来て、どうしてもうちに入りたいと言ってきた子です。
近所に卒業生が住んでるらしくて、それで憧れたって言ってましたね。その卒業生の子がね、中学の頃は普通だったらしいんですが、うちに来てすごく伸びたんですよ。僕もその学年だったから覚えていますけど、W大学に合格して、お母さんも非常に喜んでくれて。
で、Nもうちに進学して先輩みたいになりたいって思ったそうなんです。
でも成績があんまり良くなくて、このままだとちょっと難しいからしっかり勉強して、このくらいの成績を目指してほしいって話をしました。Nは頷きながら聞いてましたよ。
成績は良くはないんですが、そういう態度は良い子だったので頑張ってほしかったんですよ。
それから何度も説明会のたびに足を運んでくれて、年内の最後の説明会にはお父さんと三人で来てましたね。すごく熱心だった。中三の二学期の成績も伸びていて、頑張ったねなんて話しましたよ。表情もすごくよかった。こういう子は合格させたいと思いましたよ。
一般受験して合格して、入学式でまた親子三人でわざわざ僕を探して挨拶してくれましたよ。初めて会った時はちょっと自信なさげな雰囲気だったけど、背も少し伸びてぐっと高校生らしくなってましたね。
一年の頃はS先生のクラスで、二年でK先生のクラスになったんですよ。高校入ってからも僕の予想通り、しっかり頑張ってくれましてね。勉強はもちろん、部活動もやって、ボランティアなんかも参加していたそうですよ。制服なんかの着こなしもしっかりしていたし、派手な子たちとつるんでも悪い方向には流されないタイプでしたね。K先生もあの子は本当に良い子だって言ってましたよ。勉強も、器用さはないけどコツコツ努力しているから難関大学も狙えるって言ってましたね。
ああいう子は伸びるんですよ。目を見たらわかります。ちゃんと学校に目的意識を持って通えているんです、親御さんもしっかりしているから生活習慣も整ってて、遅刻欠席もしない。本人も学校楽しいって言ってましたよ。今でも僕を見つけると遠くからでも挨拶してくれるんですよ。そういう人としての愛嬌みたいなのも持ってるから、ああいう子がクラスにいると良いんですよ。K先生はクラス委員もやらせてたでしょ、わかりますわかります。僕のクラスだとしてもそうする。
K先生がやめたのはショックだったんじゃないかなぁ。でも、Nは変わらず元気に学校に来てますよ。三年でもクラス委員やって、部活では副部長だったかな。ああいう子はブレないですね。精神的にも芯が通っていて強いんです。
え、K先生と付き合ってる? それねえ、嘘だと思いますけど、本当ならK先生にはちょっとがっかりだなぁ。そういうタイプには見えないと思うけどね。もし本当ならNは騙されているというか、そういうことを言ってくる大人は信用しちゃダメですから。生徒は被害者ですよ、完全に。
K先生がやめた理由は違いますよ。そんな噂くらいでクビになんてできるわけないじゃないですか。若い先生ならそういう噂の一つや二つ出ますよ、気を付けなさいって注意して終わりですよ。僕だって若い頃はありましたから。
K先生のやめた理由は、全然別の話です。ここだけの話ですけど、引き抜きですよ。前にうちにいた数学の先生で、今は別の学校で教頭やってる先生がいるんですけどね。その人がうちの若い先生たちを引き抜いてるんです。K先生もそれです。この十年で四人くらい行ってますよ。結構良い条件出されたんじゃないかなぁ。そっちの学校は系列で何校もあって、規模が大きいから安定してますよ。K先生、そっちでのんびりやってるんじゃないですかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます