第11話 絶対にありえないです

 私はその噂を流した人を探して、はっきり聞きたいです。なんでそんな噂を流すのか、何が目的なのか。K先生がやめたのは生徒と付き合ってたとかそういう理由じゃないと思います。絶対にそうです。

 まず、K先生はすごく良い先生です。私はK先生が担任じゃなかったら学校やめてました。ていうか、自殺していたかもしれません。K先生が私の話を聞いて私を守ってくれたから私は生きようと思えたし、学校にも来れるようになれました。

 私は一年生の頃からバレー部の顧問のG先生からセクハラをされていました。G先生は体育の先生で、バレーでは全国でも有名な選手だったらしいです。入学したばかりの頃はそんなすごい先生に教わるなんて嬉しいと思っていました。でも、G先生は指導者としては最低な先生でした。

 バレーのユニフォームは短くて、太ももが見えるデザインになっています。私は中学でもバレーをしていたのであんまり気にしていませんでしたが、高校の部活で先輩たちから「G先生は足フェチだから気を付けた方がいい。」と聞かされて、そこで初めてユニフォームの丈を気にするようになりました。

 私たちの学年のバレー部は先輩の助言もあってみんな長めのユニフォームを買っていたのですが、一年生の秋頃になってG先生がユニフォームを買い直せと言ってきました。理由は、ダボダボで見苦しいからという理由です。私も他の部員も、お金がないとかまだ背が伸びているのでとか言って適当に誤魔化していました。でも何人かはG先生に嫌われて試合に出られないかもと思ったらしくて(実際、先輩の中にはすごく上手いのに先生に嫌われて試合に出られない人がいました。)新しくユニフォームを買い直していました。

 その頃からG先生はユニフォームを買い直していない部員に当たりがきつくなって、試合でも外されたり、少しのことで怒鳴られるようになりました。

 私は怒られるのは平気だったのですが、我慢できなかったのは、私がユニフォームを買い直さないのは足が太いからだと言われたことです。最初は冗談ぽくミーティング中に言われて、それから合宿の時や練習中も言われるようになりました。おまえは足が太いもんなとか、太い足してるくせに走れないのかとか、色々言われました。私は黙って耐えていましたが、周りの部員もだんだんその空気に慣れてきたのか、「G先生は足フェチだからY(私)の足が見れなくてイライラしてる。」と言うようになっていました。周りが勝手に言っているだけだと思おうとしましたが、実際いつもG先生は私の足のことを言ってきますし、五十代のおじさんに自分の足が性的に見られているかもしれないと思うと気持ちが悪くて涙が出るようになりました。

 一年生が終わる頃、私は本当に苦しくて食事もあまり食べられなくなり、七キロも痩せました。親に心配をかけたくないし、顧問にセクハラされているなんていう話もすごくしづらくて、誰にも相談できないまま二年生になりました。

 二年生になって私は学校を休みがちになりました。最初に休んだのは四月の健康診断の日で、健康診断の時にG先生に会いたくなかったからです。部活以外では関わりのないG先生ですが、健康診断の時は色々な先生たちがいます。もしG先生が体重の記録をする係になっていたらと思うと怖くて、仮病を使って休みました。その日は本当に仮病だったのですが、それから学校を休みたいと思うと本当に少し熱が出て、親も休ませてくれるので私は頻繁に学校を休むようになりました。

 三日以上連続して休むと親が心配すると思ったので上手く間を空けて休んでいましたが、だんだん学校の授業についていけなくなって、部活の公式戦も近付いているのに休むので他の部員からも少し嫌味を言われたりして、私は鬱病のようになっていました。

 親も何か気付いていそうな感じがして、もう逃げられないと思って自殺を考えるようになりました。G先生のセクハラのことを誰かに言いたい気持ちと、言って私が恥ずかしい思いをするのが嫌な気持ちとでおかしくなっていたんだと思います。

 六月に入って初めて担任のK先生から二者面談をしようと言われました。私はそれもすごく嫌でした。K先生のことは好きでも嫌いでもありませんでしたが、私はもう誰も信じられない気持ちになっていたので先生に頼る気もなかったし、自分のことを何か話すのも嫌でした。

 K先生との面談は保健室で、しかも保健の先生のいる前でやりました。K先生は最初どうでもいい話をして、しかも私の話の途中で保健の先生とゴルフの話をしたり、保健室にあるお菓子を食べたりしていて、私は少しがっかりしました。何も言いたくないと思っていたのに、相手が真面目に聞く気がないと思うとイライラしていました。それでもう適当に終わらせようと思っていたら、唐突にK先生から「G先生に変なこと言われてない?」と真面目な顔で言われました。私は驚いて、でも急に本当のことを知られた気がして怖くなって泣いてしまいました。K先生にはすごく謝られましたが、私はそこで思い切り泣いて初めて自分の本当の話ができました。

 K先生と保健の先生は私の嫌な気持ちを全部肯定してくれました。キモイとか死んでほしいとか汚い言葉も使いましたが、それも全部「そうだよね。」と言って、一緒になって怒ってくれました。私はずっと涙が出ていましたが、K先生も保健の先生も泣いてくれました。私は自分は悪くないし、怒っていいんだと思えて本当に気分が軽くなりました。

 K先生は、私の一番仲の良い友達から私のことを相談されていたそうです。私が休む原因も、部活、それもG先生が一番の原因だということも知っていたみたいでした。私は全部を友達に話していたわけではありませんが、先生は「予測はできたから。」と言っていました。それからK先生は、私に部活を続けたいのか、G先生をどうしたいのか、私の希望を叶える作戦会議をしてくれました。

 私はG先生を殺したいと言いましたが、それは却下されて(当たり前ですよね。)急にG先生に仕事をやめさせることは難しいという話と、私の卒業までの時間の話をしました。それはすごく現実的な話でした。例えば裁判で訴えた場合も、実際に結果が出るのは三年生になる頃で、私の進路のことなどもあるからあまり時間がかかると心配だと言われました。もしかしたらK先生には面倒を起こしたくない気持ちがあったかもしれませんが、実際にネットで調べながら色々なパターンの話、例えば先生をクビにするにはどれくらい時間がかかって、どんな証拠が必要かという話もしてくれたので、私は自分が子ども扱いされていると思わなかったし納得できました。

 私はもちろんG先生を許せないし気持ち悪い、せめて学校をやめてほしいと思っていましたが、自分の受験も大事でした。私は一年生の頃から行きたい大学が決まっていたので、G先生のせいでそれを諦めるのも本当に嫌でした。

 結局、私はまずバレー部をやめることにして、G先生には保健の先生を通して学校の他の偉い先生に報告してセクハラ発言を注意してもらうことにしました。部活をやめる話も、K先生と相談をして「他の部活に入りたいから退部する。」という理由にしました。復讐したい気持ちもありましたが、K先生は親への連絡もしないでいてくれました。私は自分がそういう目で見られているという話を親にするのが嫌だと言ったら、その気持ちもわかってくれました。そして、G先生からの直接の謝罪がもらえない分、学校を代表して謝りますと言って謝ってくれました。私は自分がセクハラされたと言うのは嫌なくせに、でも復讐はしたくて、我儘だったと思います。そういう私の気持ちをK先生はちゃんとわかってくれたと思いました。

 G先生に退部することを言う時はすごく怖かったですが、言いに行く前にK先生と保健の先生がここで待ってるからと言って保健室に待機していてくれました。K先生は、先生から話すこともできると言ってくれましたが、自分で言わないと余計に面倒なことになる気がして自分で言いました。すごく怖かったし声も震えましたが、G先生に何か言われる前に保健室に逃げました。

 合唱部にはそんなに興味がなかったけど、制服のままでいられるので体型のことは誰も気にしないし、音楽室は体育館と離れているのでG先生に会う心配もないのでそれは良かったと思います。バレー部をやめてから学校もあまり休まなくなりました。G先生に会ったりバレー部の子に何か言われた時はK先生や保健の先生に愚痴を聞いてもらって、それで上手くストレス発散もできるようになりました。

 私はあの時、K先生がG先生のことを本気で怒ってくれたのを知っているので、K先生が生徒に手を出したりすることはないと思っています。ここでは省きましたが、K先生は生徒を性的な対象にすることについてかなりしっかりした意見を持って否定していました。

 そういう人が生徒と付き合ったりするんでしょうか。

 それでもK先生も人間だから、もしかしたら生徒を好きになったりするかもしれません。すごく良い先生なので、生徒の方が好きになることはあると思います。でも、先生ならきっと卒業するまで待つと思います。K先生は本当に生徒思いなので、その相手の生徒の将来のことも考えて行動すると思います。

 それから、噂になっている相手も私は同じクラスだったので知っていますが、私と同じようにK先生を信頼している生徒の一人だと思います。私はあまり仲良くはありませんが、クラス委員をしていて先生の手助けもしていたので、そういう真面目な人が気に入らない誰かが嫌な噂を流したんじゃないでしょうか。

 私はK先生に卒業まで担任をしてもらいたかったので、先生が学校をやめてしまったのはすごく残念です。でも先生が決めたことなら尊重したいし、先生は悪いことをしてやめたのではないと信じています。こういう変な噂を流す人はきっと自分が何か問題を起こしたんじゃないでしょうか。例えば、生徒にセクハラをしてそれをK先生に指摘されたとか。私はK先生を信じています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る