第8話 K先生の問題発言
若い先生にはよくあることなんで、私もそんなに大事にはしたくなかったんですけどねぇ。
若くて元気な先生だと、ちょっと乱暴なことを言ったりするじゃないですか。子どもたちの前でかっこつけるじゃないけど、そんなところだと思いますよ。
K先生が高校一年生の担任だった時に、クラスに少し難しい生徒がいたんですよ。難しいと言っても少し成績に波があるのと、生活態度が少し、改善が必要なくらいでね。不良とかそんなんじゃありませんよ、髪も染めていませんしピアスも、陸上部でしたからね。ああ、陸上部っていうのはうちの部活の中では唯一全国大会に連続出場しておりましてね、指導している体育科のB先生が厳しいものですから、身だしなみなんかもきちんとさせているんです。
それで、その陸上部の生徒がK先生に病院に行けって言われたらしいんです。その生徒は生活態度が、まあ要するに宿題とか、忘れ物なんかが多かったんですよ。でも男の子ですからね、そういう子はいるじゃないですか。私くらいの歳になると平気なんですよ、ああそう、じゃあ明日また持っておいで、なんて言って上手くいなせる。それをK先生は、わからなかったんですかねぇ、学校のことがきちんとできないなら病院に行って頭を見てもらえって、そういうことを言ったらしいんです。
クラスの他の子どもに聞いた話だと、冗談というかそんな空気だったらしいんですが、もちろん教員がそんなことを言ってはいけないわけです。それでその話が徐々に広まって、教頭の耳に入った。聞き取り調査をしようということになって、私はクラスの生徒に、教頭はK先生からの聞き取りを行いました。
K先生は認めませんでしたよ、そんなことは言っていないって言ったそうです。ただ、そういう検査がどうのこうのという話はしたそうです。まあつまり、言い訳ですよね。検査というのは発達障害の検査の話だそうですよ。ではつまり生徒に対して発達障害だから病院に行けと言ったのかと聞くと、そうじゃないと言うんですけど、同じことですよね。私の方の聞き取りでは生徒が何人も、K先生がその生徒に病院に行った方がいいと言ったというのを証言しているんですから。そこにどんな意図があったにせよ、生徒たちがそう受け取って広まってしまったんですから問題は問題なんですよ。
それでまあ、そんなことをしているうちにそれが他のクラスの保護者の耳に入ったらしく、学校に問い合わせがありまして。もちろんはっきり謝ってしまえばまた別の問題が出てきてしまいますから、そこは穏便に、誤解の生まれる表現をしてしまったとお伝えしましたよ。該当の生徒には教員から直接謝罪をさせるということでご納得いただいて、被害者の生徒には私と教頭と同席のもとでK先生から謝罪しました。K先生もしばらくは落ち込んでいましたね。私のところにもその後すぐにお時間いただき申し訳ありませんという謝罪と、ご指導いただきありがとうございましたと。まあ若いから失敗はあると思うけど、という話で私の方は終わりました。
今回のK先生の退職の件は私もよく知りませんでしたけど、まあそういうこともあって学校に居づらいところはあったんじゃないですか。教頭はかなり怒ってましたからねぇ。私立ですからそういう評判が悪くなるようなことが起きるのは一番困るんですよ。
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