第5話 部活!!

「と、届かない……」


 黒瀬さんが入部して部員が3人となったお悩み相談部。

 それでもべつ僕は変わらず放課後に部室で読書をしていた。

 のだがしおりを物置ラックの下に落としてしまって床に這いつくばっている。


「どうしたんですか? 横須賀先輩」

「いや、ちょっとな」

「あの……よかったら、踏んでもいいですか?」

「いい訳ないだろ。どんな流れでそうなるんだよ……」

「なんか、床にみっともなく這いつくばって苦しそうな表情を浮かべる横須賀先輩を見ていると、なんだか興奮します」

「うん、とりあえず女王様出すのやめようか」


 かろうじて届いた指先で必死に栞を引き戻す。

 そうでなければ黒瀬様の有難い躾をされてしまいそうで非常に怖い。


 神井は今日の部活に少し遅れると連絡があったのでこの女王様を止めてくれる人はいないのだ。


「やっと取れた」

「あの、上履きが嫌なのでしたら、靴下なら……」

「いやそういう話じゃないからね? 上履きが汚れてるとか裸足ならいいとかじゃないから」

「一部界隈では靴下越しが1番良いとされていると聞いていますが……」

「それはその一部界隈の人達だけの話だ」


 そりゃ確かに世の中にはそういう人もいるんだろうさ。だが僕はそうじゃない。


「あ、なるほど。横須賀先輩は頭を踏まれるのが嫌なだけで、他の場所ならいいんですね?」

「うん、人の話をちゃんと聞いてくれるかな? 一般常識の範疇でしか僕は話してないんだ。わかるかな?」


 なんなのこの娘?!

 ほんとに人間なのか?!

 会話が成立してないんだけど?!


 え、あれか? もしかして僕の日本語がおかしいとかそういう事?

 せめて神井がいたら判断してくれてだろうに……


「では試しに靴下越しで踏まれてみましょう、横須賀先輩」

「どんなお試しだよ! やめろ!」

「大丈夫です。横須賀先輩もきっと目覚めてくれると私は信じてます」

「そんな間柄でもないだろ!」


 這いつくばっていた状態から膝立ちと正座の中間みたいな状態だった故か、女王様は僕の太ももを踏んできた。

 どこかしっとりとしたメスの香りがわずかに香り、布越しの熱が太ももから伝わってくる。

 黒瀬さんの顔を見るといやらしい笑みを浮かべて少し息を荒らげていた。


 ……やばい。色んな意味でヤバい。

 僕の人としての尊厳と、漢としての尊厳と、そして何より社会性が失われてしまう気がする。


「すみませ〜ん。ちょっと遅れ…………」


 部室に入ってきた神井は踏まれている僕を見て固まった。

 その顔には「部室で何してんだあんたら」って書いてあった。至極真っ当な感想だし、実際そうだとも思う。


「神井、いや神井様、助けて下さい……」

「そういうプレイはちょっと」

「いや、女王様を止めてくれて」


 ジト目で僕を見てるだけとかほんとやめて……

 ちゃんと止めてくれよ。

 あんた部長だろ……


「そんなことより、お話があります」

「……助けてくれないのかよ……」


 仕方なく僕は太ももを踏んでいる黒瀬さんの足を持って退けた。

 まさか女の子の身体に初めて触った部位が足になるとは思っていなかった。


 いやまあ小学生の頃のフォークダンスとかでは手を繋がされたりはあるけど、それとは違うじゃないですか。


「それで、話って?」

「こほん。黒瀬ちゃんの入部でわたしたちの所属するお悩み相談部は正式に部として活動する事ができます!」

「え……相談部って名乗ってたのに部じゃなかったの?」

「たしか、文系の部活動は今年から3名以上でも部として正式に受理されると入学式でお話はお聞きしましたね」

「そうなんです。去年までは運動系・文系に限らず最低5名は必要だったのですが、今年就任した校長先生の意向で文系は3名からになったのです。まあ生徒会とは少し揉めたようですが……」


 2年である僕はこれまで部活に参加していなかったからその辺りの規定とか決まりはよく知らなかったが、部として認めないといけなくなる幅が広くなってしまうと予算を管理する側の生徒会としては何かしら言いたい事もあるのだろう。


 まあ僕個人としては、部として正式に予算をくれるなら放課後に小説片手にティータイムなので都合がいい。

 他所は他所、うちはうち。

 予算だとかで頭を悩ませるのは生徒会様方の仕事の範疇だ。こっちは知らん。


「ですがひとつ、問題があります」

「というと?」

「顧問、でしょうか?」

「そうです。新規に立ち上げた部活なので新しく顧問を捕まえ……担当してくれる先生を探さないといけません」


 神井さん、ちょっと本音漏れてますよ……


「ですが、そう簡単に顧問になってくれる先生を見つける事はできるのでしょうか?」

「そこなんですよね〜」

「まあでもどうにかなるんじゃないのか? 運動部と違ってそんなに忙しいわけじゃないし、名義だけくれればそれでほとんど済む話だろう」

「なんかせんぱいがそれ言うと詐欺師っぽく聞こえます」

「いやなんでだよ、普通の話をしていただけだぞ?」

「でしたら横須賀先輩、私のぼ……奴隷になりませんか? 名称が変わるだけですし」

「おい、今そんな話してなかっただろ。あと下僕も奴隷ももはや対して変わらんからな?」

「わたし的にはせんぱいが下僕でも奴隷でも従僕でもどっちでも良いんですけど、とりま他所でやって下さいね」

「この部長、僕にだけ酷過ぎないか?」


 雑な扱いをする後輩部長と女王様後輩とかなんなんだこの部活……

 辞めた方がいい?

 せっかくそこそこ居心地良く過ごせそうな部活になるかもと思っていたが、平穏から程遠い気がする。


「というわけで、今日は相談は受け付けず顧問獲得向けて動きたいと思います!」

「横須賀先輩、顧問になってくれそうな先生に心当たりはありますか? 先輩ですし、私たちよりは先生方の動向はわかっていたりしますか?」

「いや全く。てかそもそもほとんど先生の名前なんて知らん」

「せんぱいが唯一先輩なのにアテにならないとは」

「神井、僕に人脈の類いを期待すること自体間違っていることに気付いた方がいい」

「あ、ですよね〜せんぱいにはお友達とかいませんもんね〜」

「大丈夫ですよ横須賀先輩、私もあんまり友だちいませんから。だからわたしが横須賀先輩の飼い主になってあげます」

「……僕は独りでいい。自由がいい……」


 隙あらば僕を従えようとするのなんなの……

 僕はパケモンか何かなのか?

 そのうちパケモンボールとか投げられたりする? なにそれもういじめじゃん。怖いなぁ。


 そうして紆余曲折うよきょくせつありつつも、僕らは顧問を探しに部室を出た。

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