第4話 旅立ち
「でも、じいちゃん。一つだけ聞いていい?」
「ん?なんじゃ?」
「魔力もちが騎士学科に通ってもいいの?」
「バレんかったら問題ないじゃろ」
「そっか、なら問題ないか」
「うん。問題ない。バレるなよ」
うん、本当にワシの孫馬鹿だな、と白い目でフェンネルはマリアを見る。
「うん。任せて。私、魔力制御得意だし。バレない自信あるよ」
そう言うとマリアはグッと親指を突き出す。
「そうじゃな。ヘマさえしなければ大丈夫じゃろ。とりあえず、入学願書書いとこうか」
気が変わることはないと思うが、念のために今すぐ書かせることにする。
「うん。わかった」
マリアはフェンネルから入学願書を受け取ると空欄箇所を記入していく。
「書き終わったよ。これで大丈夫?」
初めて入学願書を書くため正しくかけてるかわからず確認してもらう。
「ああ。問題ないな。じゃあ、出してくるから夕飯でも食べて待っとけ」
「自分で出しに行けるけど?」
「ちょっと用があるからついでに出してくるだけじゃ」
用などないが、出す直前で心変わりでもされたら困る。
そのためフェンネルは自分の手でこの入学願書を出さなければならなかった。
マリアに怪しまれようが仕方ない。
「そう?なら、お願い。私は先に食べてるよ」
屋台のいい匂いをずっと嗅いでいたせいでお腹が空いている。
早く何か食べたくてしかたなかったので、だしてくれるというならお願いすることにした。
「ああ。ゆっくり食べるんじゃぞ」
全く怪しんでないマリアにホッとすると同時に、本当にこの馬鹿がワシの孫かと疑いたくなる。
フェンネルは自分の演技が上手いから怪しまれなかっただけだと自分に言い聞かせ、入学願書を配達屋にもっていく。
※※※
入学願書はそれから2週間後に夏休みが終わる3日前にリューミリア学校に届いた。
女子戦士を集って初めての志願者に戦士学科の先生たちは大いに喜び誰が指導するかで盛り上がった。
※※※
「じゃあ、じいちゃん。行ってくるね」
入学願書を出してからあっという間に時が過ぎた。
冬に入試試験があった。
筆記と実技があるため一週間ほどリューミリア学校がある町に泊まった。
初めての一人旅で不安だったが、住んでいる町と違い、人が多く文化が発展していて、どこをみても初めて見るもので溢れ好奇心の方が勝ち、いつの間にか不安は消えていた。
試験が終わるとその1ヶ月後に合格通知がきた。
順位は書かれていなかったが、合格したことには変わりなかったので嬉しさのあまりフェンネルの首に思いっきり抱きつき殺しかけてしまった。
それからの2ヶ月は特にあっという間に時が過ぎた。
フェンネルと離れるのは寂しかったが、世界中の人に認められるためにも行かないという選択肢はマリアの中にはなかった。
「ああ。体に気をつけて頑張るんじゃぞ。決して無理だけはするなよ」
「うん。無理せず頑張るよ」
マリアはそう言ったが心の中では「無理してでも頑張らないと認めてもらえないから、人一倍頑張らないとな」と思っていた。
ポッポー!
汽車が駅に着いた音が響く。
並んでいた人たちが順番に乗っていく。
マリアはまだフェンネルと離れたくなかったのでギリギリまで入らずにいた。
だが、暫くすると駅員が扉を閉める合図の笛を鳴らしたのでしかたなく汽車に乗る。
プシュー。
扉が閉まる。
「いってきます。じいちゃん」
扉が閉まる直前にフェンネルの声が聞こえた。
「いってらっしゃい」と言う声が。
マリアは頑張るよ、の意味を込めて笑顔で言う。
ゆっくりと汽車が動き始める。
マリアはフェンネルが見えなくなるまで扉の前から動こうとしなかった。
「えっと、私の席は……ん?」
切符に書かれた席を見つけ座ろうとするも女性が既に座っていて座れそうにない。
困ったな、と思いながら座っている女性に話しかける。
「あの……」
驚かせないよう小さい声で話しかけたが、聞こえなかったのか反応がない。
今度はさっきより少し大きな声でもう一度話しかけるが同じように反応がない。
周りの迷惑にならない声でもう一度話しかけるが無視される。
それでマリアは気づいた。
聞こえてないのではなくわざと無視されているのだと。
そっちがその気なら、そう思ったマリアは丁度切符の確認にきた駅員に事情を説明して移動させるよう頼む。
駅員は一瞬、嫌な顔をするもすぐに元の顔になり女性に席を移動するよう声をかけた。
だが、結果はマリアのときと同じで無視。
駅員はめげずに何度か話しかけるも女性は無視し続け移動しようとしない。
マリアが汽車に乗ってから30分は経過している。
お金を払って席を取ったのにこれでは一番安い自由席と変わらない。
自由席にも席はあるが座れるかは運次第。
ほとんどのものは立っている。
さすがに女性の図々しさに腹が立ってきたマリアは無理矢理にでもどかしてやろうと近づいたそのとき「うっせーな。クソッ」と暴言を吐かれた。
何も悪いことなどしてないのに急に暴言を吐かれ、驚きのあまり何も言えなくなる。
だが、すぐに我に返り負けじと言い返す。
「クソはあんたの方でしょう。お金も払ってないくせに図々し過ぎるわ。そこは私の席なの。さっさと退いてくれる」
指定席も満席なため女性に退いてもらわなければ、マリアは目的地まで7時間もの間、立っていなくてはならない。
荷物もあるのにそれは嫌だ。
そもそもお金を払ったのに座れないなどあってはならない。
そんな想いが口からでてキツイ口調になる。
「はぁ?何言ってんの?あんた?ここは自由席よ。早いもん勝ちでしょ!」
女性の言い分を聞いた瞬間、話を聞いていた者たちはぽかんとする。
勘違いしているのに堂々と言ってのける姿にある意味感心する。
「あの、ここは指定席でございます。自由席は2つ後ろの車両からになります」
駅員は吹き出しそうになるのを耐えながら間違いを指摘する。
「え……?」
女性は駅員に何を言われたのか一瞬理解できなかったが、少しして自分が勘違いして席を奪っていたことに気づき、顔だけでなく耳や首も真っ赤に染めて恥ずかしそうに下を向く。
「あの、早く退いてくれませんか?」
駅員に間違いを指摘されてすぐ退いてくれればいいのに、恥ずかしいからかその場からなかなか立ち上がろうとしない女性に声をかける。
「す、すみません」
女性は言い逃げするように後ろへと逃げていく。
マリアは大の大人がきちんと謝罪もできないのか、と苛立つもわざわざ追いかけて注意することでないと思い、駅員にお礼を言ってから席を座る。
'ようやく座れた'
席にドカッと座る。
さっきまで女性が座っていたため、少し生温かくて気持ち悪い。
こればっかりは文句を言っても仕方ないと諦める。
せっかくの門出が最悪な形になったせいで、これからの学校生活が不安になった。
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