第5話 入学
次の日。
汽車の旅、7時間を終え一週間前に予約した宿に泊まり体を休めてからリューミリア学校へと向かった。
知らない土地で行ったこともない場所に行くのだから何回も人に聞かないと駄目だよなと覚悟していたのに、宿の人に一回聞いただけでそれからは聞かずともたどり着けた。
リューミリア学校は物凄く土地が広く校舎は大きい。
昨日、町に来た時は夜で見えなかったが、空が明るい今なら宿から見えるため迷わず行けた。
「お待ちしておりました。戦士学科に入学のマリアで間違いありませんか」
マリアにはルドベキアという姓があるが、平民で入学するため書いていない。
「はい。ありません」
学校に着くと目の前の大きな建物に驚き、固まっていると後ろから爽やかな好青年といった人に話しかけられる。
最初は何故名前を知っているのかと怪しんだが、胸元の銀のバッチが目に入り学校関係者の人かと気づき警戒をとく。
「ようこそ。我がリューミリアへ。寮までご案内します」
「はい。ありがとうございます」
'それにしても何でこの人こんなに笑ってるんだ?'
よく笑う人間はいるが、目の前の男は自分を見て笑っているため理由がわからず困惑する。
何かおかしいところでもあるのかと服装や髪型をチェックするもいつも通りだ。
理由は何か考えていると他の関係者とすれ違ったとき、男と同じように生温かい目を向けられ何とも言えない気持ちになる。
一体何なんだと思い、早くその視線から逃げたくなり寮へ早く着いてくれと心の中で祈る。
幸か不幸か、マリアはなぜ学校にいる大人たちに笑顔を向けられるのか全く気づいていなかった。
※※※
「あの、本当に私がこの部屋を1人でつかっていいんですか?」
一回も使われたことのない綺麗な部屋に案内された。
パンフレットには寮で住むなら部屋は2人から5人で住むことになると記載されていた。
1人部屋はないとガッカリしたのを今でも覚えている。
だから今のは聞き間違いかと思い尋ねるも「はい」と食い気味に返事され、聞き間違いではないとわかる。
「あの、パンフレットには1人部屋はないと書かれてましたが……どうして私は1人部屋なんですか?」
気になることは聞く。
フェンネルからも言われているが、わからないことはその場で聞け、と。
「それは、戦士学科の女子生徒が1人しかいないからです。部屋割りは学科ごとなので」
「……?」
マリアは男の言っている言葉が理解できず首を傾げる。
今のは知らない外国語かと現実逃避したくなる。
'今この人、戦士学科の女子生徒が私だけって言わなかったか?いやいや、そんなはずはない。きっと他にもいるはずよ。そうじゃなきゃ困る。だって、もし1人なら……私……私1人で男子の中に入るってことでしょ!いやーー!無理!無理矢理!絶対いやーー!'
マリアは声にも顔にも出さなかったが、脳内では発狂しまくった。
「それじゃあ、私はこの辺で失礼します」
男は案内が終わるとさっさと部屋から出ていく。
マリアはあまりにも衝撃的な発言のせいで思考停止していたため、男の声は耳に届かず出ていったことにも気づかなかった。
次の日に起きたときには昨日男に言われたことなどすっかり忘れ、早く同じ学科の生徒が来ないかと楽しみにしていた。
※※※
寮生活をして3日。
未だに誰とも会わない。
先輩たちは長期休みから帰ってないから会わないだろうと思うも、同学年の生徒たちとも一切会わないことが不思議で仕方ない。
寮の周りを散歩したりするも虫や動物に会うくらいで人には誰も会わない。
唯一会うのはご飯を作ってくれる60歳前後の優しそうな老婆のリンだけ。
どうして誰もいないのかリンに聞いたが歳のせいで耳が遠いのか会話ができなかった。
彼女から聞くのは無理かと諦めた。
他の人を探して聞くかと一瞬考えるも、すぐに面倒くさくなった。
明後日は入学式。
どうせ明日には全員揃うだろうと思い深く考えずに1日過ごした。
だが、マリアの推測は外れ入学式当日になっても誰も寮にこなかった。
※※※
「ハハッ。なるほどね。本当に私しか戦士学科に女はいないのね……ハハッ。終わった。私の4年間ぼっち生活確定じゃん、これ。私の夢の学校生活が……」
寮に入った日に男に言われた言葉を思い出し、マリアは乾いた笑みを浮かべる。
どうしてこんなことになったかというと、少し時を遡る。
「新入生はこっちに集まってください」
寮から出て少しすると声が聞こえてきた。
新入生は集まる指示なので声が聞こえた方へと向かう。
どこからだ、と声を頼りに歩いていると建物の向こう側からだと気づく。
角を曲がると大勢の生徒がそこにいて驚いた。
寮にはマリア以外誰もいないのに、今ここには大勢の人がいる。
なんでだ、と不思議に思いながら大人の指示に従い列へと並ぶ。
とりあえず、同じ学科の人から話を聞こうと周囲を見渡す。
この学校は学科ごとに制服が違うので服で判断できる。
この学校の学科は全部で5つ。
魔法、薬学、聖職、魔導製造、そして戦士。
魔法学科は制服の上にローブを羽織る。
薬学学科は制服の上に白衣を羽織る。
聖職学科はそもそも他の4つの学科と制服が違う。
聖職者の格好をする。
見習いのため白を強調とした服に銀の刺繍が施されている。
卒業すると見習いではなくなるため銀から金に変わった服を貰える。
魔導製造学科は制服だけ。
戦士学科も同様に制服だけで上に羽織ったりはしないが、学科ごとの区別を図るため制服は同じだが、ネクタイの色やスカート、ズボンの色が微妙に違う。
魔法学科は青、薬学学科は緑、魔導製造学科は紫、戦士は赤。
マリアは自分と同じ赤のネクタイをつけた生徒を探すが周りにいるのは紫と青ばかりで赤が見当たらない。
列がちがうのか、と思い探しに行こうとしたら「新入生入場」という声が聞こえてきて諦めて指示に従う。
マリアは結構遅くにきたので入場は一番最後になった。
「今年も新入生は初々しいな」
「お前も2年前はああだったろ」
「ねぇ、あの子かっこよくない?」
「今年は誰が総合1位になったのかな?新入生代表挨拶が楽しみだな」
「ねぇ、あの子スカートの色赤くない?」
「え、本当だ。戦士学科に女子が入るなんて初めてじゃない」
「ああ。それでか。ここ数日、先生たちが浮かれてたのか」
先輩たちは新入生が入場してそれぞれ感想を述べていたが、一番最後に入ってきたマリアのスカートの色を見て目の色を変える。
ほとんどの者は興味もなく無関心だったが、なかには男子の中に1人だけ入る女子というのが気に食わず睨んでいるものもいた。
生徒たちの反応はそれぞれだったが、先生たちも同じような反応だった。
だが、校長、教頭、戦士学科の教員は温かい目でマリアを見ていた。
そして同時に同じことを思っていた。
よく合格してくれた!と。
先生たちは戦士学科に女子を入学させたかったが、だからといって不正をするわけにはいかなかった。
ここはリューミリア学校。
お金や権力に屈しない誇りある者たちが集う場所。
だから彼女自身にその座を勝ち取ってもらう必要があった。
最初の実技試験は最悪でビリだった。
頑張っているのはわかるが、今年の生徒たちは特に優秀で彼女は手も足も出なかった。
初めて戦士学科に入学したいという女子が現れたのに、今回は縁がなかったなと次の試験が行われる前に既に殆どの先生が駄目だと見限っていた。
だが、次の筆記試験ではまさかの結果がでた。
実技がビリだったためここでは真ん中より上、できれば上位に入ってくれなければ不合格にしなければいけない。
今回は校長自ら受験者の採点をした。
校長は採点していくにつれ、彼女の優秀さに驚きを隠せなかった。
創立以来初の満点合格に腰を抜かしそうになる。
正直期待していなかった。
戦士は馬鹿が多いと有名で、どの学校でも戦士が勉強で上位に入るのは難しいと有名だった。
理由は簡単だ。
戦士の授業は殆どが鍛錬で勉強は他の学科に比べてそんなにしない。
義務教科以外の勉強はしないため、魔法、薬学、神力、魔法石等の授業は週一でしか行われないため、どうしてもテストではいい点が取れない。
それなのに戦士学科に入学希望の子がまさかの筆記試験一位。
校長はこの結果に人々の価値観が変わるのはそう遠くないかもしれないと思い始める。
まぁ、でも実技試験がビリなので新入生代表挨拶はできないた、と校長はヒゲをさすりながら退屈そうに座るマリアを見て目を細める。
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