第9話 偽りの真実

暗闇に閉ざされた部屋で、リサは思案を続けていた。彼らは自分の証言を利用して、新たな秩序の正当性を世界に知らしめようとしている。彼女を"裏切り者のジャーナリスト"として仕立て上げることで、陰謀の全貌を隠蔽しつつ、計画を実行する意図は明白だった。しかし、彼らの企みに完全に従うつもりはなかった。リサは彼らの狡猾さを利用して、逆に真実を暴露する手段を模索することに決めた。


しばらくして、部屋の扉が再び開き、黒いスーツを着た男たちが入ってきた。彼らはリサを椅子から立たせ、無言のまま彼女を部屋から連れ出した。リサの心臓は高鳴り、彼らが自分をどこへ連れて行こうとしているのか、わからないまま歩みを進めた。


長い廊下を抜け、リサは広い部屋に連れて行かれた。そこにはカメラが設置され、記者会見のようなセットが用意されていた。中央にはマイクとテーブルが置かれ、彼女が座るための椅子が一つ用意されていた。リサは一瞬、その光景に息を飲んだ。


部屋の片隅には、先ほどの男が立っていた。彼はリサに目を向け、静かに語りかけた。「ここで君の役割を果たしてもらう。我々の計画がいかに世界にとって必要であるか、君自身の言葉で語るのだ。」


リサは彼を見据え、心の中で怒りと恐怖を必死に抑えた。彼女は彼らの意図を理解しながらも、自分の信念を貫くための一瞬のチャンスを探していた。彼女がここでどのような言葉を発するかによって、彼らの計画を揺るがすことができるかもしれない。


リサは無言のままテーブルの前に歩み寄り、椅子に座った。カメラの赤いランプが点灯し、彼女が話し始めるのを待っていた。リサは深く息を吸い、彼女に与えられたスクリプトの紙を一瞥した。それは彼らの計画を正当化し、彼女自身の行動を「誤解」として収束させる内容が記されていた。


「君がこのスクリプトを読めば、すべてが元に戻る。君の安全も保証される。」男は冷たく告げた。


リサはスクリプトを握りしめ、心の中で葛藤していた。彼女はゆっくりと顔を上げ、カメラのレンズを直視した。世界中の人々が彼女の言葉を待っている。彼女の一言が、未来を左右するのだ。


そして、リサはゆっくりと口を開いた。「私は……」彼女は一瞬、スクリプトに目を落とし、次の言葉を選んだ。「……真実を伝えます。」


男の表情が一瞬こわばり、カメラの前で静まり返った。その一瞬の間を利用して、リサはスクリプトを机に叩きつけ、語り始めた。


「私がこれまで暴こうとしてきた真実は、彼らの計画に隠された恐ろしい現実です。『プロジェクト・レッドシールド』は、全ての人々の自由を奪い、彼らが望む秩序のために世界を操作するものです。彼らは私を利用しようとしました。私の証言を捏造し、彼らの計画を正当化しようとしているのです。」


部屋にいた男たちは一斉に動き出し、リサの口を封じようとした。しかし、リサは続けた。「この映像が届く全ての人々に告げます。私が言うことを信じてください。彼らは嘘を広めようとしています。彼らが掲げる未来は、私たちの自由と平等を奪うものです!」


男たちがリサに近づき、彼女の口を塞ごうとした。カメラはその瞬間、遮断され、部屋は暗転した。リサは激しくもがき、最後の叫びを上げたが、彼女の声は届かなかった。


彼女は床に押さえつけられ、拘束されている間、彼女の心の中には確かな満足感があった。彼女は最後の瞬間に、真実を叫んだのだ。彼らがそれを完全に封じることはできないだろう。彼女の叫びはどこかに届き、誰かがそれを聞くだろうと信じていた。


男たちはリサを引きずり、再び暗い部屋へと戻していった。彼女の運命がどうなるかは分からない。しかし、彼女の言葉は一度発せられ、闇の中で響き続けている。

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