第8話 決裂の果てに

リサは意識を失っていたが、遠くから断続的に聞こえてくる金属音と人々の足音で徐々に意識が戻り始めた。目を開けると、彼女は暗いコンクリートの部屋に横たわっていた。手足は拘束され、痛みが彼女の肩から全身に広がっている。ここがどこなのか、なぜ生かされているのか、彼女には全くわからなかった。


薄暗い部屋の隅に、監視カメラの赤いランプが点滅している。リサはそれを見つめ、彼らが彼女の動向を監視していることを悟った。彼女の心には恐怖と絶望が渦巻くが、それでも諦めるわけにはいかないという思いが胸を突き動かした。USBメモリは奪われ、真実を暴露する唯一の手段を失った今、彼女にはどのように行動すべきかを模索しなければならなかった。


そのとき、重い鉄扉が音を立てて開き、黒いスーツを身にまとった男が部屋に入ってきた。リサは鋭い視線で彼を睨みつけたが、男は無表情のまま近づいてきた。彼の手には、小さなモニターが握られていた。


「リサ・カーターさん、あなたにはまだ果たすべき役割が残されている。」男は低い声で言った。彼の声には冷たさと不気味な落ち着きが感じられた。


リサは肩の痛みに顔を歪めながら答えた。「もう全ては終わったんでしょう?『プロジェクト・レッドシールド』を止める手段は奪われた。」


男は微かに口元を歪めた。「あなたの行動は、確かに計画の一部を狂わせた。しかし、我々はあなたの存在を再び利用することに決めた。真実は常に一つではない、何を真実とするか、それは我々の手の中にある。」


リサは男の言葉に戦慄を覚えた。「あなたたちは、一体何をしようとしているの?」


男はモニターをリサの前に差し出した。画面には、世界中の都市の映像が映し出されていた。どこかの広場、人々が行き交う街並み、そして金融市場の混乱した状況。映像はリアルタイムで、何かが進行していることを伝えていた。


「我々の計画は既に始まっている。あなたが暴こうとした真実は、私たちが新たに描く未来の一部に過ぎない。そして、そのためにあなたが必要なのだ。あなたの証言を、我々の新たな秩序を正当化するために利用する。」


リサは目を見開き、怒りが込み上げてきた。「私の証言を利用する?そんなことさせない……!」


男はリサの反応に無関心なまま続けた。「あなたが今までの行動をすべて告白し、我々の計画が世界のために必要であると認めるなら、あなたの命は保証される。それがあなたに与えられた最後の選択肢だ。」


リサは息を荒らし、男を睨みつけた。「私はあなたたちの道具にならない。たとえ命を失っても、あなたたちの偽りの真実に屈することはない。」


男は一瞬リサを見つめ、静かに立ち上がった。「では、あなたには別の役割を担ってもらうことにしよう。」


彼は部屋を出る前に振り返り、冷たい視線をリサに向けた。「あなたが望むと望まざるとに関わらず、あなたの存在そのものが我々の計画に組み込まれる。それが『コンサルタント』の力だ。」


男が部屋を出て行くと、重い扉が再び閉まり、リサは暗闇の中に取り残された。彼女の心は怒りと絶望で満たされていたが、どこかで微かな希望の灯を探そうとしていた。彼らが彼女を利用しようとするならば、それを逆手に取ることはできないだろうか?


リサは自らに問いかけた。彼女にはまだやるべきことがある。彼らが彼女の証言を利用しようとするなら、彼女はそれを通じて彼らの計画の真実を暴く道を模索するしかない。彼女は再び立ち上がる覚悟を決め、閉ざされた部屋の中で、静かに次なる行動を練り始めた。

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