第6話 闇の会合

夜の闇を切り裂いてジェームズの車は走り続け、リサの中で緊張が高まり続けた。彼らは『コンサルタント』の会合から逃げ出したが、これからどうすべきか、リサは考えを巡らせていた。ジェームズの言葉によれば、彼らが企んでいる「プロジェクト・レッドシールド」は、単なる金融操作を超えた、世界の秩序を一から作り替えるための壮大な陰謀だという。


リサはジェームズの横顔を見つめ、彼がどこに向かおうとしているのか尋ねた。「これからどこに行くの?」


ジェームズは前方に目を向けたまま答えた。「安全な場所だ。彼らの計画を止めるには、まだ時間が必要だ。それまで君を守らなければならない。」


彼の言葉に一抹の不安を覚えながらも、リサは車の窓から外を見つめた。外の風景は次第に変わり、都会の喧騒から離れ、周囲は閑静な住宅街へと移り変わっていった。車がしばらく走ると、古いマンションの前で停車した。ジェームズはエンジンを切り、リサに目を向けた。


「ここならしばらくは安全だ。彼らは一度にすべてを支配するわけではない。だが、時間は限られている。」


リサは車から降り、古びたマンションを見上げた。外見は時代遅れで、人目を引くような場所ではなかった。ジェームズに続いてエントランスに入り、エレベーターで上階へと向かった。彼らが着いたのはマンションの最上階だった。ジェームズが扉を開けると、内部には広いリビングとオフィススペースが広がっていた。


リサは部屋に足を踏み入れ、デスクに置かれたコンピュータや資料の山に目を走らせた。ここがジェームズの拠点であり、彼が集めた情報の保管場所であることは一目瞭然だった。彼女は部屋の奥に設置された巨大なホワイトボードに目を向けた。そこには、ブラックロックとバンガードの関連図や、各国の政府高官、企業の名前が網の目のように繋がれていた。


「これが……『コンサルタント』の全貌?」リサはホワイトボードに近づき、書かれている情報を読み取ろうとした。


「一部だ」ジェームズは重苦しい声で答えた。「彼らのネットワークは広大で、全てを把握するのは不可能に近い。しかし、ここに示されているのは、彼らが次に何を狙っているかを示す手がかりだ。」


リサはホワイトボードに記された「プロジェクト・レッドシールド」の文字に目を留めた。「彼らの目的は何?本当に、世界をリセットするつもりなの?」


ジェームズは少しの沈黙の後、答えた。「ああ。彼らは既存の経済と社会のシステムを崩壊させ、新たな秩序を築くことを目論んでいる。現代の金融システムに存在するすべての欠陥を利用し、意図的な経済崩壊を引き起こすことで、彼らが望む新しい世界を作り上げるつもりだ。」


リサはその言葉に戦慄した。彼らの目的は、ただの権力欲や金銭的な利益のためではなく、全世界の人々の生活そのものを根本から作り替えることにあった。彼らが考える「理想の世界」は、果たしてどのようなものなのか。そして、そのためにどれほどの犠牲が強いられるのか。


「私たちはどうやってそれを止めるの?」リサは必死にジェームズに尋ねた。


ジェームズはデスクの引き出しから、小型のUSBメモリを取り出した。「これがその鍵だ。『プロジェクト・レッドシールド』の核心部分にアクセスするためのコードがここに含まれている。だが、問題は彼らのセキュリティを突破することだ。彼らは自分たちの計画を守るために、あらゆる手段を講じている。」


リサはそのUSBメモリを見つめた。彼女の手がそれに触れようとした瞬間、部屋の窓ガラスが突然割れる音が響いた。二人は瞬時に反応し、床に伏せた。リサが顔を上げると、窓の外にスナイパーのレーザーが一瞬だけ見えた。


「伏せろ!」ジェームズが叫び、彼女をデスクの陰に押し込んだ。銃声が響き、窓ガラスがさらに砕け散った。リサの心臓は激しく鼓動し、彼らが再び追われる立場にあることを痛感した。


「彼らがここを見つけた……」ジェームズは息を整えながら、デスクから何かを取り出していた。それは小型の武器だった。「ここを離れなければならない。だが、あのUSBを持ち出すことが最優先だ。」


リサは窓の外を見つめ、スナイパーの存在を確認しようとしたが、見えなかった。彼らはこの部屋を監視しており、脱出を阻止しようとしているのは明らかだった。


ジェームズはリサの手にUSBメモリを握らせた。「これを守れ。君が外に出て彼らの計画を暴露しなければ、全てが無駄になる。」


リサは頷き、心の中で覚悟を固めた。彼女は部屋の裏口に向かって駆け出し、ジェームズがスナイパーの注意を引くために反対側の窓に向かうのを感じた。部屋の外に出ると、マンションの非常階段へと飛び出し、足音を殺しながら下へ降りていった。


マンションの外に出た瞬間、彼女は息を呑んだ。周囲は暗闇に包まれており、どこに潜んでいるか分からない追手の存在を感じていた。リサは慎重に影の中を移動し、近くの車に身を寄せた。


そのとき、彼女のスマートフォンが震え、画面にジェームズからのメッセージが表示された。「計画を遂行するために、地下の通信ハブに向かえ。詳細はUSBにある。」


リサはメッセージを読み、通信ハブの場所が書かれた地図を確認した。彼女はUSBメモリを握りしめ、これが『プロジェクト・レッドシールド』の全貌を暴くための最後の手段であることを理解した。


彼女の背後で銃声が響き、マンションの窓から火花が散った。ジェームズが追手を引きつけている間に、彼女は必死にその場を離れ、指定された地下の通信ハブへと向かった。


夜の闇の中、リサは逃走を続けた。彼女はただの記者ではなくなった。今や、彼女は世界の未来を左右する情報を握る者として、この巨大な陰謀に立ち向かう者となったのだ。


だが、彼女の心には、ジェームズを置き去りにしたことへの痛みと、これから直面する闇の巨大さへの恐れがあった。それでも、リサは前へ進むしかなかった。彼女は『コンサルタント』の目をかいくぐり、真実を世界に届けるために。

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