第5話 秘密組織『コンサルタント』

リサは、ワシントンD.C.での危険な逃走劇から一日が経ち、ある地下のカフェに身を潜めていた。カフェの薄暗い店内には、秘密の取引や会合が行われる雰囲気が漂い、周囲の人々も静かに自分たちの会話に没頭している。リサは、ここでジェームズ・オコナーとの再会を待っていた。


昨日の出来事のせいで、ジェームズに対する疑念は拭いきれなかった。しかし、彼がリサに託したメッセージには、さらなる情報を提供するという約束が記されていた。彼女は、ジェームズが自分を裏切っている可能性を考えつつも、真実を知るために彼に会わざるを得なかった。


約束の時間を少し過ぎた頃、ジェームズがカフェの扉を押し開けて入ってきた。彼はリサの姿を見つけると、周囲を警戒しながら席に着いた。彼の顔には疲労の色が見え、目の下には濃いクマが刻まれていた。リサは彼を見つめ、冷静に問いかけた。


「昨日、何があったの?」彼女の声には疑念が含まれていた。


ジェームズはため息をつき、ポケットから一枚の紙片を取り出してリサの前に差し出した。それは、政府高官たちとブラックロック、バンガードの幹部が出席する会合の招待状だった。リサはその紙に目を通し、赤いバッジの紋章が印刷されていることに気づいた。


「これは……?」


「『コンサルタント』の会合だ」ジェームズは低い声で答えた。「彼らは、金融市場を支配し、世界経済の未来を決定するために集まる。通常、外部の者がこの会合に参加することは許されない。しかし、私は内部の人間としての立場を利用して、君をこの会合に連れて行く。」


リサの心臓が一瞬止まりそうになった。「あなたは『コンサルタント』の一員だったの?」


ジェームズは険しい表情で彼女を見つめた。「そうだ。だが、それが何を意味するか、君はまだ知らない。『コンサルタント』は単なる組織ではない。それは、この世界の現実を再構築し、人々の運命を操るための機関だ。」


リサはジェームズの言葉に戦慄を覚えた。彼の説明は、ブラックロックとバンガードが単なる金融企業以上の存在であることを示していた。「では、あなたはなぜ私に協力しているの?」


ジェームズは視線を落とし、苦しそうに口を開いた。「彼らのやり方に疑念を抱いたからだ。『コンサルタント』が掲げるビジョンは、世界の平和と繁栄を謳っている。しかし、その裏で行われていることは、数え切れないほどの犠牲を強いるものだ。私もその一端を担ってきた。だが、もう黙っていることはできない。」


リサはジェームズの言葉に耳を傾けながらも、完全に彼を信じることができなかった。しかし、彼が持ってきた情報は、彼女にとって重要な手がかりだった。リサは意を決して尋ねた。「会合はいつ?」


「今夜だ。場所は極秘だが、君を連れて行くことができる。ただし、そこで君が目にすることは、決して外部に漏らしてはならない。そうしなければ、君も私も消される。」


リサは一瞬、ためらいの表情を見せたが、すぐに覚悟を決めた。「わかった。私は行く。」


その夜、ジェームズはリサを連れ、ワシントンD.C.の中心から離れた場所へと車を走らせた。彼らが向かっているのは、街から少し離れた森林地帯にある古びた館だった。館の周囲には厳重な警備が施され、リサはこれが単なるビジネスの会合ではないことを理解した。


館の前に車を停めると、ジェームズはリサに赤いバッジを渡した。「これをつけていれば、君はゲストとして扱われる。だが、気を抜くな。彼らは常に疑いの目を光らせている。」


リサは赤いバッジを胸に装着し、ジェームズに続いて館の中に入った。内部は豪華な装飾が施され、世界中から集まったエリートたちが談笑しながら会場に集まっていた。彼らの中には、リサが以前に取材したことのある政府高官や企業の幹部も含まれていた。


ジェームズに導かれるまま、リサは広間の中心へと進んだ。会場の中央には、大きな円卓が設置されており、その周りに赤いバッジをつけた男たちが座っていた。彼らの中には、先日ホテルで会話を盗み聞きしたリチャード・グレイの姿もあった。


「始めよう」グレイが口を開き、広間に静寂が訪れた。「我々『コンサルタント』は、次なるステージへと移行する時が来た。『プロジェクト・レッドシールド』の最終段階に入る。」


リサは息を飲んだ。『プロジェクト・レッドシールド』——それが、この陰謀の核心であり、彼らの最終目的だったのか。彼女は耳を澄ませ、彼らの会話に集中した。


「世界経済のリセットだ」グレイは続けた。「我々は、市場の完全な支配を達成し、新たな経済秩序を確立する。そのためには、一時的な混乱が必要となる。しかし、その混乱を制御することで、我々は真の平和をもたらすことができる。」


リサの心臓が激しく鼓動した。彼らは、意図的に世界経済を混乱させ、それを利用して新たな秩序を築こうとしているのだ。彼らの計画は、単なる金融操作を超えた、全人類の運命を握る壮大なものであった。


ジェームズはリサの耳元でささやいた。「これが『コンサルタント』の正体だ。彼らは、現実を再構築し、人々の未来を支配することを目指している。」


リサは彼の言葉に戦慄を覚えたが、次の瞬間、彼女の存在が露見した。円卓の一人がリサを指差し、険しい表情で叫んだ。「そこにいるのは誰だ?彼女は何者だ?」


広間の視線が一斉にリサに注がれ、彼女は身動きが取れなくなった。ジェームズは即座にリサの腕を掴み、低い声で「逃げるぞ」と言い、広間の出口へと走り出した。


セキュリティがすぐに彼らを追い始めた。リサとジェームズは廊下を駆け抜け、館の裏口へと急いだ。彼らの背後で足音と怒号が響き渡り、緊張が一気に高まった。


裏口から外に飛び出した瞬間、リサは冷たい夜風に包まれた。ジェームズの車が見えた。二人は急いで車に乗り込み、エンジンをかけた。タイヤが砂利を蹴り上げ、車は闇の中へと疾走した。


リサはバックミラー越しに、館の前に集まる男たちの姿を見た。彼らは立ち尽くし、静かに車を見送っていた。その視線には、彼女たちが逃げたことを許しているかのような冷たい余裕があった。


車内でリサは荒い息を整えながら、ジェームズに問いかけた。「彼らは何を企んでいるの?『プロジェクト・レッドシールド』って、一体……」


ジェームズはハンドルを握りしめ、前方を見つめた。「彼らの目的は、世界を一度破壊し、彼らの理想に基づいた新たな秩序を築くことだ。それは、経済のリセットだけでなく、すべての人々の生活を根本から変えるものになる。」


リサはその言葉に愕然とした。『コンサルタント』は、世界そのものを作り替える権利を自らに課しているのだ。この巨大な陰謀の前で、彼女は自分の使命を再確認した。彼らの計画を暴露し、世界に真実を伝える。それが、彼女のすべきことだった。


車は夜の闇を切り裂いて走り続け、リサの心の中には新たな決意が生まれていた。しかし、彼女の背後には、さらなる闇と危険が待ち構えているのを感じ取らずにはいられなかった。

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