第29話 爆発する男③

 爆発魔は全身を爆発させた。


 丘南杉家は完全に崩壊した。

 周辺の家にも被害が及ぶ。


 しかし、厳兄さんはビクともしなかった。かすり傷一つない。


 再生した爆発魔は正面に厳兄さんが立っていて驚き、危うく腰を抜かしそうになった。


「いやいやいや、なぜおまえはそこにいるんだ? 爆発が効かない性質なのか? それとも全身を透過させられるのか? まあ、さっきおかしいとは思ったんだ。掴まれた腕を爆発させたときに何か違和感がある気がしたが、いま思えばそう、おまえが無傷だったことだ」


「捕まえた。今度は逃がさない」


 厳兄さんが再び爆発魔の腕を掴んだ。右腕を掴んでいる。さらに左肩も掴んだ。


「へっ、俺の爆発がおまえにダメージを与えられないってことにはかなり驚いたが、まあべつにいいさ。おまえの報復も叶わねーからな。おまえは俺を殺せない。傷をつけたり拘束したりしても、俺に爆発と再生がある以上無意味だ。そら!」


 爆発魔が再び全身爆発を起こした。

 そして再生する。


「ぐふぅっ!」


 再生直後のこと。爆発魔は大量の血を豪快に噴き出した。


 とてつもない痛み。

 かすむ視界を下に移すと、自分の腹を一本の腕が貫いていた。

 それは厳兄さんの腕である。爆発魔が再生する位置に、厳兄さんが腕を伸ばしていたのだ。


 爆発魔はもう一度爆発した。

 痛みから逃れるために、ほとんど何も考えず咄嗟とっさに爆発していた。


「ごほぉっ!」


 再びの激痛。

 さっきから厳兄さんが微動だにしていない。爆発魔は完全に捕らえられていた。それも滅茶苦茶痛い方法で。

 爆発魔は腹が痛い。だが爆発すれば再度新鮮な痛みを味わうことになる。だが新鮮でなくても鮮烈に痛い。


「こん、な、こと、が……」


 こんなこと、予想できなかった。

 爆発すればすべてが吹き飛ぶ。そこに何か物があるはずがなかった。それなのに、いまは違う。


「おまえ、死んだほうがいいね。でも死なせない。俺が殺すから」


「爆発魔の俺をどうやって殺すってんだ?」


 実は簡単なこと。

 爆発しようと考える頭を潰せばいい。

 あるいはもっと痛むように腕二本で貫いておいて、爆発魔本人に爆発再生せず死を選ばせるという方法。


 だが、厳兄さんの選んだ方法は違った。


   ***


「環斗、いるか?」


「いるけど、何?」


 厳兄さんは痛みにあえぐ爆発魔を引きずり倒して環斗君の家まで来ていた。


「願いを叶えろ。俺の願いは将の蘇生。代償はこいつが死んで払う」


「おっさん。代償はあんたの死だけどいいの?」


「ああ、払う。早くしてくれ……」


 将はよみがえった。


 爆発魔は死んだ。


 死因は不明。あえて言うなら呪詛による死。真面目に処理するなら心臓麻痺。

 しかし、そういう考察はすべて無意味である。


 爆発魔の死体は環斗君の庭にうち捨てられ、環斗君は厳兄さんにムッとしながらも、穏便に爆発魔の死体を消滅させた。


「報復完了。でも、家が無くなった」


 厳兄さんは将ちゃんを環斗君の前に立たせた。


 さすがの将ちゃんでも、この二人にだけは決して手を出さない。


「環斗、俺の家を元に戻せ。代償は将が払う」


「将ちゃん、死ぬ?」


「それ、釣り合ってない。報復を三ヶ月禁止なら許す」


 将ちゃんが珍しく環斗君に駄々をこねた。

 賭け値が命となれば、人としては当然だろう。


「じゃあ報復一年禁止で手を打つ。将ちゃん、僕はだいぶ譲歩したよ。あんまり手間を取らせると怒るよ、将ちゃん」


「分かった。それでいい」


 報復禁止は将ちゃんにとっては拷問である。

 しかもかつての代償で他人に絡まれやすい体質になっている。


 将ちゃんは一年間、家に引きこもることにした。

 逆に厳兄さんの外出頻度は少しだけ多くなった。

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