第28話 爆発する男②

 将ちゃんが近づいてくる。

 いよいよ大爆発をかますときがきた。


 そう思ったとき、爆発魔の頭の中でスコンと何かが抜け落ちた気がした。

 それは爆発魔の認識から将ちゃんが外れたことが原因だが、爆発魔には何が起こったか分からない。

 将ちゃんが単なる通行人みたく背景に溶け込んで近づいてくるが、爆発魔がその将ちゃんに意識を向けることはない。


 しかし、爆発魔は爆発した。


 爆発魔は将ちゃんに認識解脱能力があるという情報を、ちゃんと予習して知っていたのだ。

 だから、もし自分の意識に妙な違和感を覚えたとき、即座に爆発しようと決めていた。


 狙いは当たった。

 仮に将ちゃんの報復を受けたとしても、回復のために爆発して将ちゃんは吹き飛んでいただろう。

 爆発魔が再び将ちゃんを認識することができたとき、将ちゃんは焦げて地面に転がっていた。


「危なかったねぇ。さすがは危険と噂に名高い将ちゃん。だが、よーく分かったろ? 俺のほうが断然格上で、手を出そうにもとうてい届かない存在なんだってなぁ」


 将ちゃんにはまだ息がある。


 爆発魔は将ちゃんを抱き起こし、そして抱きしめた。


「お仕置きだ。名前で呼べる体の部位一つすら残さねぇ。粉々の肉片になりな」


 大爆発。爆発魔が全身を爆発させる。

 それはもう大爆発。将ちゃんは死んだ。爆発魔の言うとおり、いや、それ以上の有様で。

 将ちゃんは跡形もなく消えた。


 ただ、爆発魔の気は晴れなかった。

 なぜなら、将ちゃんが死の間際に言ったのだ。爆発魔が将ちゃんを抱きしめたときに、絶え絶えな息遣いで。


ごん兄さんに殺されろ」


 最強は自分。疑いようのない事実。自分自身が爆発して再生できるのだから、これ以上に強い存在なんてあるわけがない。

 それなのに、将ちゃんは最期まで爆発魔を最強と認めなかった。

 腹立たしい。虫唾むしずが走る。許せない。

 爆発魔は将ちゃんの兄、厳兄さんもほうむろうと思うに至った。


 厳兄さんは丘南杉家おかなすぎけの自宅にいた。

 探すまでもない。住所くらい将ちゃんを探す間に突きとめていた。


「こんにちは」


「何?」


 弟を殺されたとも知らず、その殺した人間を目の前にして、厳兄さんはモノトーンな調子で出てきた。


「おまえの弟を殺したぜ。俺がな」


 厳兄さんは沈黙した。

 しばらく間を置いて、ようやく口を開いた。


「で?」


「でって? いや、感想は?」


 厳兄さんに怒った様子はなかった。まるでどうでもいい話を長々と聞かされ、結局オチがなくてガッカリした人のような態度であった。


 薄情にも程があるぞ、と爆発魔でさえ近ごろの若者の心根を嘆く有様である。


「俺に用はないの? だったら帰れ」


 扉を閉める厳兄さん。

 爆発魔は扉を引きとめようとしたが、挟まれると直感して手を引いた。


 厳兄さんのことは詳しくは知らないが、少しだけ分かった。

 兄弟仲については不明だったが、仲はよくも悪くもなく、互いに無関心のようだ。

 特に兄から弟に関しては赤の他人という意識しか持っていないようである。


 爆発魔は爆発して扉を吹き飛ばした。

 扉が厳兄さんの頭に当たって上に跳ね上がり、天井に突き刺さった。


「いまの、おまえだよな?」


「ほかに誰がいる?」


 一瞬の光景で驚き損ねたが、爆発魔は扉の動きが物理的におかしいと思った。

 しかしいまは目的を果たすことで頭がいっぱいで、自分が吹き飛ばした扉など、自分の意識からも吹き飛ばしてしまった。


「報復する!」


 厳兄さんが爆発魔の腕を掴んだ。厳兄さんがガッシリ掴んだ以上、それを解くことは不可能。


 だが、爆発魔には爆発という手段があった。

 掴まれた部分を爆発させ、即時再生する。


 厳兄さんの拘束から逃れた爆発魔だが、逃げはしない。むしろ攻める。

 逃げる理由がない。最強の能力を持っているのだ。攻めないわけがない。


「味わうといい。おまえの弟を吹き飛ばした大爆発をな!」

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