第六章 爆発魔
第27話 爆発する男①
そいつは爆発魔であった。
爆弾魔ではない。爆破するのではない。爆発するのである。
「さあて、次はおまえだ」
飛び散った血肉の横で、爆発魔たる無精ひげの中年の男が女性を抱きしめ、その耳元で
「や、やめて、お願い、やっ、やあっ、いやぁああああああ!」
大気を震わせる爆音とともに、熱風が血飛沫を運ぶ。
男に抱きしめられた女性が木っ端微塵に散ってしまった。
煙が引いたとき、そこには一人の男が立っていた。
爆発魔は爆発後、即時その場に再生する。
再生後は新品の人形みたいに完全な状態になる。怪我をしていたら再生後には治っているし、風邪をひいていても再生後は治っている。
健康になりたかったら爆発すればいいし、邪魔なものを排除したければ爆発すればいい。無意味に爆発してもいいくらいに便利である。
爆発は全身でも部分でも可能で、爆発する瞬間から再生完了までの間はいっさいの痛みを感じない。
だから自分が爆発しても痛くない。
服も再生する。服は迷彩柄のTシャツと迷彩柄のハーフパンツ。軍服ではなく迷彩柄の私服であり、筋肉質で巨体の彼にはパッツンパッツンである。
服だけは環斗君にお願いして再生するようにしてもらった。代償は人を脅迫して払ってもらった。
代償を払った人物は、爆発魔が爆発するたびに服が消し飛ぶという、実に不幸な呪いを受けてしまった。
しかし爆発魔の爆発能力自体は環斗君由来のものではなく、彼のオリジナル能力である。
環斗君に頼んでそんな能力を得ようとしても、おそらく誰にもそんな代償は払いきれない。
彼がなぜそのような能力を持っているか、その辺りの詳細は不明である。
爆発魔は枕木町を徘徊している。
以前、獲物が死に際にこう言い放った。
「おまえなんか、将ちゃんに報復を受けて死ねばいいんだ!」
爆発魔はそれ以来、将ちゃんを探している。
あの言葉、まるで将ちゃんとやらが自分より強いかのような言い草、それが気に入らなかった。
決してそんなことがあろうはずがない。爆発魔は自分こそが最強だと思っている。それを証明してやるまでは腹の虫が治まらない。
「痛っ!」
爆発魔は何かにつまずいた。
痛いと言ったのは爆発魔ではなかった。
少年だった。
「あん!?」
爆発魔は邪魔な少年を爆発で吹き飛ばそうと思ったが、先に少年が攻撃してきた。
報復だとか言って、爆発魔のスネを蹴り飛ばした。
「いってーなぁ、おい!」
爆発しようとした。
しかし、気がついた。この少年こそが将ちゃんなのだと。
あれから将ちゃんを探すにあたり、将ちゃんがとにかく報復にこだわっているという情報を早い段階で手に入れていた。
そして、報復に対して復讐したら、次の報復は極刑だという情報もいまでは知っている。
「おまえが将ちゃんか。この枕木町の危険人物たちは格上には手を出さないと聞いているが、おまえは俺に手を出した。それは俺がおまえより格下だと思っているからか? それともおまえはほかと違って格上にも手を出すほどの報復への執念を持っているのか?」
「両方」
「噴かすぜ、この野郎! そんなんでよく生きてこられたな、オメーはよぉ。だがその幸運もここまでだ」
爆発魔は将ちゃんの頭をバシーンと思いっきり叩いた。当然ながら将ちゃんが怒りの反撃を繰り出してくる。
それはまだ弱い一手だが、標的が死ぬまでは決して逃さないための第一歩である。
将ちゃんは近くに落ちていた尖った石を爆発魔の
「いってぇ!」
爆発魔は即座に太腿を爆発させた。
体の一部を爆発させた場合、その爆発の影響を爆発させてない部位が受けることはない。
爆発魔の太腿が爆発すると将ちゃんは激しく吹き飛び、爆発魔の太腿は瞬時に再生回復した。
「どうだ。おまえ、俺には手も足も出んだろう?」
将ちゃんは顔のススを拭って怒りの足踏みで爆発魔に近づいていく。
肩には報復に使った石が爆発で飛んで刺さっていた。
「ほほう、まだやろうってのかい。懲りないねぇ。ほんっと、すごい執念だ」
爆発魔は身構えた。いつでも爆発で返り討ちにしてやろうと意気込んで。
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