第26話 鷹香華亜佳と加華香嘉歌④
絶望がやってきたと思ったら、奇跡を置いていったのだ。
「あうー、見事です。見事にぶち壊していきましたね……」
「何をだ? 私の心をか?」
「え、違いますよぉ。展開です。Sクラス同士の頂上決戦、物語的には最高のクライマックスじゃないですか。そこをまるまるカットすることに成功したんだから、これはもうすっごいぶち壊しですよ。報復我慢券を六枚も消費しましたが、それほどの価値のあるぶち壊しだったと思います」
「これが漫画や映画なんかの物語世界だったらそうだろうさ。でも現実で世界を巻き込む戦闘なんてされちゃ、たまったものじゃないよ。ただでさえ危ない町だってのに。私は疲れたよ」
阿木館はようやく立ち上がった。
有沢が阿木館の腕を支える。
「ねえ、あんたらも早く帰ってよ」
帰路にて阿木館がフッと笑う。
「なるほどね」
「え?」
「頂上決戦は一見引き分けだったが、実際には勝負はついていた。
「えー? どういうことですか? その理屈ならぶち壊し大魔神が漁夫の利で勝利じゃないですか?」
「ぶち壊し大魔神。あんな人望の薄い奴が厳兄さんの報復我慢券を五枚も持っているわけがないだろう? 環斗君が願いの力で集めたんだよ。ぶち壊し大魔神の元に五枚。いや、私からかすめ取った一枚を含めたら、きっちり六枚だ。それをぶち壊し大魔神に与えて使わせた」
「あー、なるほど。でもじゃあ、なぜ阿木館さんに六枚を与えなかったんですか? ぶち壊し大魔神なんかに与えたら、へたしたら環斗君の思惑をぶち壊すかもしれないじゃないですか? あ、そう考えると、環斗君本人に報復我慢券を集めたら三枚で済むじゃないですか」
「環斗君本人が報復我慢券を使ったら、環斗君が厳兄さんに『あなたには敵わないから見逃して下さい』と言うようなものだ。それよりぶち壊し大魔神のあの横着な態度で厳君を引き下がらせることが確たる勝利と思えたんじゃないか? 厳君も実際、少し悔しそうだっただろう?」
「あ……そうか……。ほんとだ! 環斗君の勝ちですね!」
阿木館はもう少し考えてみた。
もし厳兄さんと環斗君がタイマンで勝負をしたらどうだろう。
その場合は厳兄さんが勝つだろう。
環斗君は誰かに代償を払わせなければ願いを叶えられないが、厳兄さんには代償の呪いすら通用しない。
二人しかいなかったら環斗君は自分の願いを叶えられない。
それに結局のところ、どうやっても厳兄さんには傷一つつけることすらできないのだ。
やはり最強は厳兄さんだろう。
ただ、敵に回すと厳兄さんよりも環斗君のほうが怖い。
環斗君を攻撃すれば、環斗君はそれを回避する願いを叶え、その代償を相手に払わせる。
攻撃を願っても同様。その場合、願いと代償のダブル攻撃となる。
やはりこの二人は枕木町でも別格の超危険人物である。
それからぶち壊し大魔神についてだが……。
「ぶち壊し大魔神!」
突然、阿木館の隣をそう叫んで走り抜けていく男がいた。
「あ……あー」
驚いた拍子に阿木館はいままで何の考え事をしていたかを忘れてしまった。
いまに至るしばらくの時間が無駄になった。
見事に思考をぶち壊されてしまった。
「くそっ! やっぱりアイツだけは好きになれん」
阿木館はとにかくぶち壊し大魔神が嫌いで、それは彼が世界を救ったこの日も変わらないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます