第9話 高嶺野緒花の依頼
「ストーカー!?」
「で、具体的な被害は?」
「尾けまわされていることが被害です。いまのところ、家に押し入られたり郵便受けに不審物を入れられたりということはありません」
「うーん、そうですか……」
阿木館と有沢は対処法について小声で相談した。
阿木館のやり方はいつも危険人物を利用する。
有沢はそれを聞いたときにはとんでもない人間の助手になってしまったと後悔した。
「ずっと将ちゃんといればいいんじゃないですか? 嫉妬したストーカーが将ちゃんに手を出したら復讐されて解決」
「それはやめておこう。ストーカーはなかなか手を出さないタイプだし、周りに手を出すタイプだったとしても、それを仕組んだことを知られたら、我々が将ちゃんに報復されかねない。報復我慢券があれば試す価値はあったかもしれないが、保険なしの冒険は危ないよ」
「じゃあ、どうするんですか?」
「適役がいる。男が近づくと危ない女、月島芽々」
「ツキシマ、メメ?」
「そう。嫉妬の化身と呼ばれる彼女はとんでもない妄信をするんだ。少しでも自分に気があると思った男がほかの女性に気を取られたりしたら、その男は地獄を見ることになる。私一人では決して扱えない人物だったが、女性の君が助手になってくれたおかげで利用できそうだよ」
つまり有沢がいきなり前線に駆り出されるということである。
阿木館の口からは「おかげ」だとか「できる」だとか、プラスイメージの言葉が並んで出てきたが、有沢の見る限り阿木館の表情は明るくはなかった。
「それ、本当に女性は大丈夫なんですか? 男性が気を向けたのが自分だったら、女性でもやられません? 何をやられるのか知りませんけど……」
「たぶん大丈夫だ。同性に対する嫉妬の手出しはない。根拠は前例がないという一点のみだが。ただし、女性としての彼女を傷つけるような真似は厳禁だ。以前、月島の隣でタバコを吸おうとした女性が月島に刺される事件があった。月島は『タバコの臭いが私の髪に付くじゃない!』と激怒したそうだ」
阿木館が月島のモノマネらしき口調を再現したが、有沢にはそれが似ているのかどうか分からない。
阿木館が終始曇った表情をしているので、有沢の不安は
「怖いです……」
「何でもするって言っただろう? 報復我慢券二枚分の働きくらいはこなしてくれよ」
「分かりました……」
有沢はがっくりと肩を落とした。
この枕木町に警察がいない以上、ストーカー事件を解決するには危険人物を利用するしかない。
阿木館と有沢の内密な相談が終わると、阿木館は高嶺野に依頼受諾の返事を出した。報酬は結果しだいということになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます