第2章:カインとの出会いと冒険の始まり
第1話:カイン、鍛冶屋を訪れる
村の外れにある鍛冶屋に、ひとりの若い冒険者がやって来たのは、まだ朝の早い時間だった。鍛冶場の炉が赤々と燃え、鋼を叩く音が響き渡る中、俺はいつも通り、目の前の金属に集中していた。俺にとって鍛冶場での一日は、ただひたすらに鉄と向き合う時間だ。誰が訪れようと、どんな話を持ちかけようと、俺が目の前の仕事を中断することはない。
「ここがレオの鍛冶屋か?」
唐突に声がかかる。俺は手を止めることなく、声の主を一瞥した。見ると、若い男が立っていた。冒険者にしてはどこか緊張しているようで、声には力が入っているものの、その目にはどこか不安が見え隠れしていた。何度も見た顔だ。夢を語る者たちはいつだってこういう顔をして俺の前に立つ。
「そうだが、何の用だ?」
俺は返事をしながらも、手を止めることなく金属を打ち続ける。今叩いている鋼の具合は悪くない。しっかりと火が通り、あと数回の打ち込みで理想の形が見えてくるだろう。俺にとって、この瞬間の集中を乱されることほど厄介なことはない。
「俺はカイン。冒険者だ。お前の作る武器は評判だって聞いた。だから俺にも、その強い武器を作ってほしいんだ!」
彼の言葉には熱があった。情熱的な若者が夢を抱えてここにやってくるのは珍しいことではない。だが、武器が欲しいと言われるたびに、俺はいつも同じ質問を心の中で繰り返す。こいつは本当に、その武器にふさわしいのか――?
「気に入った者にしか武器は作らん。」
俺は冷たくそう言い放った。カインが驚いた表情を見せる。自信満々で頼み込めば、すぐにでも剣を手に入れられるとでも思っていたのだろう。俺は数多くの冒険者を見てきたが、そのほとんどは口先だけで、真に覚悟を持っている者は少ない。
「な、なんでだ? 俺は本気なんだ! 強くなりたいんだ!」
カインは必死に訴えてくる。強くなりたい。誰もが口にするその言葉に、俺はもはや何の感動も覚えない。誰だってそう思うし、誰だってそのために武器を求める。だが、強くなるために何が必要なのかを、本当に理解している者はどれだけいるだろうか?
「言葉だけじゃ強くなれん。お前の言葉に重みはない。」
俺は鋭く言い放った。まだ見ぬ未来の自分を信じているのは良いことだが、現実を見据えた上で、その先を見据える力がなければ、いくらいい武器を持ったところで、その者を強くすることはできない。
カインの顔が一瞬、曇る。予想外の返事に戸惑っているのだろう。だが、俺は知っている。こうした反応はすぐに怒りや悔しさに変わり、彼らはまた同じように自分の夢を語り始めるのだ。案の定、彼もそうだった。
「お前には分からないんだ、俺の覚悟が。俺は過去に仲間を守れなかった。その時の自分を乗り越えるために、もっと強くならなきゃならないんだ!」
彼の言葉には苦しさが滲んでいた。仲間を守れなかったという痛みは、確かに彼の中で深く刻まれているようだ。俺もかつては、同じような気持ちを抱えたことがある。だからこそ、彼の言葉に少しだけ耳を傾けたくなった。
だが、それでも――
「守りたいものがあるか……」
俺はその言葉を呟いた。守るために強くなる、確かにそれは美しい動機だ。だが、守ることだけを目的に強くなれるほど、世界は甘くはない。
「強くなるためには、確かに武器が必要だ。だが、それだけでは強くなれん。武器だけで変われると思うな。」
俺は鋼を再び打ち始めた。カインの目の前で、俺の言葉が彼の夢を壊しているのが分かる。だが、それでも彼は諦めないつもりらしい。
「どうすればいいんだ? 俺にその武器を作ってもらうには、どうしたらいい?」
カインの声には焦りが混じっていた。その焦りが彼の言葉に迫力を与え、同時にその言葉を軽くしている。焦りは弱さの表れだ。強くなるために一番必要なものは、冷静さと、そして自分を見つめる強さだ。
「自分で見つけるんだな、答えは。」
俺はそれだけを言い残し、再び作業に没頭した。鍛冶師としての俺の仕事は、優れた武器を作ることだが、それが正しい手に渡るかどうかを見極めるのも俺の役目だ。カインはまだその答えを見つけていない。そして俺には、その答えを教えるつもりはなかった。
「……分かったよ、俺自身で見つける。」
カインはそう言い残し、足早に鍛冶屋を去っていった。その足音が小さくなっていく中、俺は炉の中で燃え盛る火を見つめていた。あの若者が本当に答えを見つけ、再びここに戻ってくるのか、それは分からない。
その日の夕方、俺はふと手を止めて外を見た。カインの言葉が頭の中で何度か浮かび上がってくる。確かに、彼の情熱は本物だったかもしれない。だが、情熱だけでは武器は扱えない。それを操るには冷静さ、そして自分自身を見極める強さが必要だ。
これまでに何人もの冒険者が俺を訪ねてきた。強くなりたい、もっと上を目指したい、そんな言葉は何度も聞いた。そしてそのほとんどは、最終的に失望して去っていった。カインもその一人に過ぎないのかもしれない。だが――
「もしかすると……」
俺は小さく呟いた。彼の目の中にあったもの、そして彼が語った過去。それらが本当に彼を変える力になるのなら、再び彼がここに戻ってくることはあるだろう。
その時、俺はどうするだろうか?
今はまだ分からない。だが、一つだけ確かなのは、俺がカインの言葉をただの夢物語だと決めつけていないということだ。
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第2章完結まで1日2話ずつに更新(11:00、12:00)していきます。
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