第9話:フィンとの絆と鍛冶作業の発展

 フィンと過ごす日々が続くにつれ、彼との絆はさらに深まっていった。彼は今や、俺の生活の一部となり、何も言わずとも俺の気持ちを理解しているかのように振る舞ってくれる。その静かな存在感が、俺にとっては何よりも大切なものになりつつあった。


 ある朝、いつものように鍛冶場に向かう準備をしていると、フィンがすでに入口で待っていた。彼は俺の作業が始まるのを察知し、いつも先に鍛冶場に向かってくるようになったのだ。俺が炉に火を入れると、フィンは炉のそばに座り、じっと火を見つめている。


「今日も頼むぞ、フィン」


 彼は軽く鼻を鳴らして応えた。彼が何も言わなくても、今ではその行動一つ一つが俺にとっての大きな励みとなっている。フィンが見守ってくれているという安心感は、俺が鍛冶師としての技術をさらに磨くための力になっていた。


 しかし、鍛冶師としての仕事は誰のためにもするわけではない。俺には、「気に入った者にしか武器を作らない」という信念がある。村や近隣の者には武器の製作を頼まれることがあるが、その依頼を引き受けるかどうかは、俺自身の判断による。どんなに高額な報酬を積まれても、俺がその人物に信頼を抱かなければ、どんな武器も作る気にはなれない。


 この日は、特別な依頼が入っていた。村の貴族からの注文で、魔法素材を使った武器を製作することになっていた。だが、俺はその貴族について知っているわけでも、彼の人となりを信じているわけでもない。依頼を受けたものの、本当に作るべきか、まだ決めかねていた。


 魔法素材は扱いが難しく、通常の鉄や鋼とは違って独特の反応を示す。そのため、魔力を感じ取りながら微妙な調整を行う必要がある。これは、技術だけではなく、魔力に対する鋭敏な感覚を持つ者の助けが不可欠だ。フィンはその能力を持っている。だからこそ、俺の技術がさらに研ぎ澄まされていることを実感する。


「フィン、頼む。お前の力を借りたいんだ」


 フィンは俺の声に応えるように炉の前に立ち、魔法素材を見つめた。彼の目が鋭く光り、体に刻まれたルーン模様がかすかに輝き始める。彼が魔力を感知しているのが分かった。


 魔法素材はその特性から、通常の火ではなかなか均等に熱を通すことが難しい。しかし、フィンが火の加減を感じ取り、その調整をサポートしてくれるおかげで、素材が均一に熱されていく。フィンの能力が、俺の作業をよりスムーズに進めてくれるのだ。


「もう少し……そうだ、今だ!」


 フィンの動きを見て、炉の火加減を微調整しながら、俺は魔法素材に金槌を振り下ろす。火花が飛び散り、素材が理想的な形に変わっていく。この瞬間の感覚は、フィンがいなければ絶対に得られなかっただろう。


「さすがだ、フィン。お前がいるからこそ、これだけの仕事ができるんだ」


 フィンは再び鼻を鳴らし、満足そうに尻尾を振った。彼との連携が完璧であることを感じ、俺は心から安堵した。しかし、完成品を手に取っても、その剣を渡すべきかどうか、俺の心はまだ決まっていない。


 俺は気に入った者にしか武器を作らない。貴族の依頼とはいえ、その人物の本質が分からないまま剣を渡すのは危険だ。どんなに腕を尽くして作り上げた武器であっても、それを使う者が信頼に足るかどうかが最も重要だからだ。俺が武器を作るのは、人を助けるためのものだが、誤って使われることで害をもたらすなら、そんなことは絶対に避けたい。


 鍛冶場での作業中、ふと俺はフィンに話しかけた。


「フィン、お前がいてくれることで、俺はいつも助かってるよ。昔は一人でいるのが一番だと思ってたけど、お前と一緒にいる方が、ずっと心地いい」


 フィンはじっと俺を見つめ、軽く耳を動かすだけだったが、その静かな視線の中に強い信頼を感じた。彼は何も言わなくとも、俺の言葉を理解してくれているのだろう。


「ありがとうな。これからも、よろしく頼む」


 俺がそう言うと、フィンは俺の膝に顔を擦り寄せ、軽く鼻を鳴らした。その瞬間、俺の心は完全にフィンに寄り添っていた。彼はもう、ただの仲間ではない。俺にとってかけがえのない存在、つまり家族だ。


 剣が完成したが、まだ俺は貴族に渡すべきかどうかを決めかねていた。彼にとって、この剣がどう使われるか分からない以上、渡すことはできない。それでも依頼が断れない場合もあるが、だからこそ、俺の気に入った者にだけ作るという信念が支えになっている。


「フィン、また考える必要があるな。俺はこの剣を本当に渡すべきなのか……」


 フィンは静かに俺のそばに座り、遠くを眺めていた。彼がここにいることで、俺は自分の信念を見失わずにいられる。どんなに技術が進化しようとも、俺は気に入った者にしか武器を作らない。その信念だけは、どんな時でも揺らがない。


 俺たちの生活は、これからも続いていく。フィンがそばにいる限り、俺の信念も、鍛冶師としての誇りも揺るがないだろう。


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 これで第1章が完結となり、次話から第2章となります。

 明日から第2章の完結まで1日2話更新していきます。


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