第7話:フィンとレオの新たな日常
フィンとの新しい日常が、静かに始まった。彼が俺の家に居着いてから、毎日が穏やかで、どこか温かさに満ちている。以前の孤独な生活が嘘のように感じられるほどだ。
フィンはすっかり元気を取り戻し、今では家の中や鍛冶場で、いつも俺のそばにいるようになった。彼がここにいるだけで、家の中が明るく感じる。朝目を覚ますと、必ず彼が俺の足元で丸くなって寝ている。そんな光景が、もう当たり前になりつつある。
ある朝、俺が目を覚ますと、フィンはすでに起きていた。彼は部屋の隅で伸びをして、のんびりと体をほぐしている。俺が動く気配を感じると、すぐに近づいてきて、甘えるように頭をすり寄せてきた。
「おはよう、フィン。今日も元気そうだな」
フィンは尻尾を軽く振って、返事をするように鼻を鳴らす。彼の反応が日々鮮明になってきていることに気づき、俺は自然と微笑んだ。
朝食を済ませた後、フィンはいつものように鍛冶場についてくる。俺が作業を始めると、フィンは決まって鍛冶場の片隅に座り、じっとこちらを見つめている。彼がそこで静かに見守ってくれることが、いつの間にか俺にとっての支えになっていた。鉄を熱し、金槌を振るう音が鍛冶場に響く中で、彼がいることが妙に安心感をもたらしてくれるのだ。
「よし、今日は大きな仕事があるぞ」
今日は村の農夫から依頼されていた鍬の修理がある。村人たちは俺の鍛冶仕事を信頼してくれていて、日常的に道具の修理や新しい道具の製作を頼んでくる。俺は鉄を炉に入れ、火を起こし、ゆっくりと温度を上げていった。
フィンはその様子をじっと見つめている。彼の目が時折光を反射し、ルーンハウンドとしての魔力がわずかに感じられる瞬間がある。彼は何も言わないが、確かに俺の仕事に興味を持っているようだ。時折、ふとした瞬間にフィンが近くにいることを感じ、いつもと違う安心感を覚える。
鉄が赤く熱され、金槌を振り下ろすたびに、火花が鍛冶場を照らす。フィンはそのたびに軽く耳を動かしながら、静かに俺の作業を見守っていた。
「お前もそのうち、この仕事に慣れてくるかもしれないな」
冗談めかしてフィンに話しかけるが、彼はまるでそれが冗談ではないかのように、真剣に俺を見つめ返してくる。その目には、不思議なほどの理解と共感が宿っているように思える。
「よし、これでひとまず形は整ったな」
鍬を一度水に浸け、熱を冷ます。蒸気が立ち上がると同時に、フィンが軽く鼻を鳴らした。その音が、まるで「よくやった」と言ってくれているかのようで、俺は笑みを浮かべた。
鍛冶場での作業が終わり、俺たちは家に戻った。フィンは少し疲れたように、俺の足元に丸くなって横たわる。日々の作業を見守り続けてくれている彼に感謝しつつ、俺は少しずつ自分の心境が変わってきたことを感じていた。
最初はただ、フィンを助けたいと思っただけだった。傷ついていた彼を見つけて、その命を救いたいという純粋な思いだった。それが今では、フィンがいなければ、俺の生活がどれほど味気ないものだったかを思い知らされるようになった。
「お前がここにいてくれるだけで、毎日が楽しいよ」
俺はフィンの頭を優しく撫でた。彼は目を閉じ、満足そうに喉を鳴らす。その姿を見るたびに、彼がどれほど俺にとって大切な存在になったのかを実感する。
フィンがこの家に居着くようになってから、俺の孤独感は少しずつ薄れていった。異世界に転生し、最初はただ一人で静かに生きていこうと思っていた。しかし、今ではフィンが俺にとっての家族であり、彼と共に過ごす時間がかけがえのないものとなっていた。
日が暮れ、俺たちは家の外に出て、夕涼みをしていた。フィンは俺の隣で静かに座り、遠くの風景を見つめている。村の家々の灯りがぼんやりと光り、夜の空気がひんやりと心地よい。
「お前は、ここに来て良かったと思ってるか?」
俺が問いかけると、フィンは俺の方をちらりと見た。彼は言葉を話すことはできないが、その瞳にはどこか満足そうな光が宿っている。俺の言葉に応えるように、彼は鼻を軽く鳴らし、再び遠くを見つめた。
「俺も、ここでお前と過ごせて良かったと思ってるよ」
フィンが俺のそばにいることが、こんなにも心を満たすとは思わなかった。家族がいなかった俺にとって、彼は間違いなく特別な存在だ。家族として、共に生きる仲間として、これからも一緒に過ごしていけることが、俺には何よりも大切に思えた。
ある日、俺が鍛冶場での作業に取り掛かっていると、フィンがいつものように俺を見守っていた。だが、その日は少し違っていた。フィンが炉の前に立ち、まるで何かを感じ取っているかのように、じっと動かずに立っているのだ。
「どうした、フィン?」
俺が声をかけると、フィンは軽く耳を動かしてこちらを見たが、再び炉の方に目を向けた。彼の表情は真剣で、まるで何かを探るような様子だった。
不思議に思い、俺も炉の方を覗いてみる。すると、火の加減がいつもとは少し違うことに気がついた。火の勢いが弱くなりかけていたのだが、フィンがそのことに気づいて教えてくれたのだろうか。
「もしかして、お前、火の加減を感じ取ってたのか?」
フィンは軽く鼻を鳴らし、再び俺の方を見た。その瞳には、どこか得意げな光が宿っている。まるで「当然だろう」と言わんばかりの顔だ。
「なるほどな……お前のその能力、もしかしたら鍛冶に役立つかもしれないな」
フィンは魔力を感じ取る能力があるらしい。彼の特性であるルーンの模様が、火の勢いを敏感に察知したのだろう。俺は少し感心しながら、炉に炭を追加し、火を調整した。
「ありがとうな、フィン。これで作業が捗るよ」
フィンは嬉しそうに尻尾を振り、再び炉の前に座り込んだ。まるで自分の役割を理解しているかのように、彼はその場で俺の仕事をじっと見守ってくれている。
彼がいることで、俺の鍛冶仕事はよりスムーズに進むようになった。フィンの魔力感知能力が、火の加減や鉄の温度を敏感に感じ取ってくれるおかげで、作業のミスが減り、効率が上がっている。
「お前はもう、立派な助手だな」
俺がそう言うと、フィンはまるで誇らしげに鼻を鳴らし、尻尾を大きく振った。彼との連携が、いつの間にか自然なものになっていた。
日々の生活は静かで、穏やかで、それが心地よかった。フィンと一緒に過ごす時間が増えるたびに、俺の心はどんどん満たされていった。彼がここにいることで、家がただの寝床以上の意味を持つようになった。今では、俺たちの居場所、家族の家だ。
夕暮れ時、俺たちはいつものように家の外で過ごしていた。フィンは俺の足元に寄り添い、静かに目を閉じている。俺は彼の頭を撫でながら、これからの生活に思いを馳せた。異世界での孤独な日々が、今ではフィンのおかげで温かいものに変わっている。
「これからも、一緒に過ごしていこうな」
フィンは静かに返事をするように、鼻を鳴らした。これからも続くであろう穏やかな日常を思い描きながら、俺たちはゆっくりと夜の帳に包まれていった。
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本日、第1章完結まで更新していきます。
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