第2話:村との出会いと新しい生活の始まり
異世界に転生してから、どれくらいの時間が経っただろうか。空腹を感じ、脚の疲れが増してきた頃、ようやく村らしきものが見えてきた。遠くからでも、木造の家々が立ち並び、煙がゆっくりと昇っているのが分かる。どうやら、あそこが次の目的地になりそうだ。
「やっとか……」
歩き続けた体に少しずつ力が戻る。心なしか、気分も軽くなるようだった。転生してすぐの不安と孤独に耐えながらも、ようやく人のいる場所にたどり着いたという安堵感が大きい。俺は、草原を越えて村へと向かっていった。
村の入口に立った時、俺はその光景にどこか懐かしさを感じた。木造の家々はどれも素朴で、草葺き屋根のものもある。小さな畑が村の周囲に広がり、牛や羊が草を食んでいる。村人たちは、それぞれの仕事に追われているようで、農作業をしている者もいれば、家畜の世話をする者もいた。音は静かだが、生活の息遣いが感じられる場所だ。
「これなら……俺でもやっていけるかもしれない」
そう思った。派手さや豪華さはないが、俺が求めていた平穏がここにはある。転生した異世界で、こんな静かな場所を見つけられるとは思っていなかった。俺は、ゆっくりと村の中へ足を踏み入れた。
最初は、村人たちの目が俺に向けられた。見知らぬ者が突然現れたのだから、当然だろう。彼らは軽い警戒心を持ちながらも、俺に敵意を抱いている様子ではなかった。
「おい、あんた。どっから来たんだ?」
最初に声をかけてきたのは、年配の男性だった。少し腰が曲がっているが、手には立派な鋤を持っている。農作業中だったのか、汗をかきながらも俺をしっかりと見つめている。
「俺は、旅の者です。村を見つけて……少し休ませてもらえないかと思って」
正直に答える。嘘をついてもすぐにばれるだろうし、この村に受け入れてもらうためには誠実である方が良い。男は俺をじっと見てから、小さく頷いた。
「ここは小さな村だが、旅の者ならそう簡単に追い返すことはない。……ただし、何か手伝ってもらうことはあるかもしれんがな」
「もちろん、何でも手伝います」
「よし、そうか。なら、まずは村長のところへ行け。お前の話を聞いてもらえ」
男は鋤を持ちながら俺に指を差し、村の中心を指した。どうやら、あそこが次の目的地になりそうだ。俺は礼を言って、その方向へ向かうことにした。
村の中心に近づくと、少し大きめの家が見えてきた。村の中では比較的立派な造りだが、豪邸というわけではない。玄関の前で俺が声をかけると、すぐに中から壮年の男が現れた。
「お前が旅の者か?」
低い声で問われ、俺は頷いた。彼は村長らしく、しっかりとした体格で、穏やかな目をしているが、どこか厳格な雰囲気を纏っている。
「はい。少しの間、この村で休ませていただけないかと思いまして……」
「ふむ。まあ、よそ者に対して厳しい村ではないが、何かしらの役に立ってくれないとな。それで、あんたは何ができる?」
やはり、この村でも何か働かなければならないらしい。俺は少し迷ったが、自分の持つ唯一の技術――鍛冶師であることを伝えることにした。
「俺は、鍛冶師です。前の世界では……いや、この世界でも鍛冶の技術は同じだと思いますが、鉄を打ち、道具を作ることができます」
「鍛冶師だと?」
村長は少し目を見開いたが、すぐに頷いた。どうやら、この村には鍛冶師がいないらしい。村長は俺の言葉を信じたようで、目を輝かせながら続けた。
「そうか、それはいい。ここには鍛冶師がいないんだ。道具は大抵外の村や町から取り寄せている。だが、毎回そういうわけにもいかんからな……ぜひ、お前の技術を見せてくれ」
こうして俺は、この村で鍛冶師としての腕を試すことになった。
翌日、俺は村長に案内されて、村の中心にある古びた鍛冶場に向かった。かつて誰かが使っていたのかもしれないが、今は荒れ果てていて、炉も道具も使い物にならなさそうだ。
「ここが鍛冶場か……まあ、何とか使えそうだな」
俺は中に入り、まずは炉を確認する。炭を入れて火を起こし、鉄を熱するための設備はまだ残っていた。少し手を加えれば、問題なく使えそうだ。
「ちょっとした道具なら、すぐにでも作れるが……大掛かりなものは時間がかかるな」
村長は頷きながら俺の言葉を聞いている。その時、彼は横にいた一人の若者に声をかけた。
「おい、バート。この男に必要なものを用意してやれ。こいつが鍛冶師として本当に使えるかどうか、見極めるんだ」
呼ばれたのは、俺より少し若い青年だった。彼は鋤を持ちながら、俺に軽く頭を下げた。
「わかりました。……えっと、俺の名前はバート。鍛冶仕事は全然わからないけど、何か手伝うことがあれば言ってください」
「レオだ。よろしく頼む」
俺は彼に笑顔を向け、さっそく鍛冶場の整理を始めた。バートは手際よく俺に必要な道具や素材を運んできてくれる。どうやら村の若者たちは、みんな働き者らしい。
炉に火を入れ、炭が赤々と燃え始めた。俺はさっそく最初の作業に取りかかることにした。手始めに、村人たちが使う農具――鍬や鎌を打ち直すのが良さそうだ。道具は村人の生活に欠かせないものであり、鍛冶師としての腕前を見せるのに最適だ。
「よし、やってみるか」
俺は鉄を炉で熱し、火花を散らしながら金槌で叩き始めた。響く音が鍛冶場に鳴り渡り、鉄の形が少しずつ整っていく。この感覚は久しぶりだが、手は覚えている。火の熱、鉄の冷たさ、そして金属を打つ音……前の世界と変わらない。
鍬を形作りながら、ふと懐かしさが胸に込み上げてきた。前世で鍛冶師として過ごした日々。あの時は、体が衰えてしまい、鍛冶場に立つことすらままならなかった。だが、今は違う。この世界で再び鍛冶師として生きられる――それが、どれほどの幸運かを実感した。
数日が経ち、俺の鍛冶仕事は村の中で評判になり始めていた。
「レオさん、これで本当に鍬を作ってくれたんですね!すごく使いやすい!」
農夫の一人が、俺が打ち直した鍬を手に感激している。道具を渡すとき、彼は満面の笑みで喜びを伝えてくれた。どうやら、長らくこの村では道具が不足していたらしい。俺の鍛冶技術は、村人たちの生活に役立っているようだった。
「これからも、頼まれる限り道具を作るよ。ただし……」
俺はそこで少し間を置いた。自分の信念を示すべき時が来たのだ。
「俺は、気に入った者にしか武器は作らない。道具は作るが、武器はその人間を信頼できるかどうかで決める」
村長やバートは、俺の言葉に驚いた様子を見せたが、すぐに納得したように頷いた。
「なるほど……まあ、それもお前の鍛冶師としての信念だろう。それなら、お前の信頼を得るように村人たちにも言っておく」
俺は鍛冶師として、村人たちとの信頼関係を築き始めていた。何よりも、この村で自分の居場所を見つけられたことが大きい。今はまだ、鍛冶師としての生活の一歩を踏み出したばかりだが、ここから少しずつ、自分の新しい人生が始まるのだろう。
こうして、俺の新しい生活が静かに幕を開けた。この村で、鍛冶師としての技術を磨きながら、穏やかな日々を過ごしていく――そのために、俺は再び火を灯し、鉄を打ち続ける。
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