第9話神は言った、騎士を称えろと
そして夜、幻惑魔法を解いたボクはレイアにおばちゃんからもらった服を見せびらかしていた。
「どう、似合ってる?」
「うん、清楚な雰囲気だな。ベージュのカーディガンとロングスカートがユーナ殿の慎ましさを主張していて、とても似合っているぞ!」
……おっと、そろそろごはんの時間である。
ボクは黒ローブに着替えて食事に向かうことにした。
レイアの目の前で着替え始めたら、すぐさま部屋の外に逃げ出しちゃったけど。
おばちゃんの前で裸体になったからか、なんだか脱ぐことに抵抗がなくなってきていた。
反省、反省。もうゼインおじさんみたいな犠牲者を出すわけにはいかないのだ。
ボクは自分自身を強く戒めた。
「そういえば、ゼインの奴に色々と話しておいたぞ」
唐突に放たれた言葉に、食事の場が一瞬凍った。
「あの、あまり部外者の方には……」
苦言を呈そうとした教皇。
その表情は先ほどまでニコニコとボクたちの食事風景を眺めていたのとは一変して、真剣なものだった。
「分かっている。だが私の恩人だしユーナ様もお望みだったのだ」
「憶えていてくださるなら問題ありません。差し出がましいことを申しました」
レイアは居候生活二日目にして教皇に対して砕けた態度をとるようになった。
なじむの早いな~。
それはそれとして、だ。
「ゼインおじさん元気だった?」
「ああ、励ました後軽く精神が整う魔法をかけておいた。多分もう大丈夫だろう」
「よかったあ」
ずっと心配だったので、安心した。
ゼインおじさんは明らかにいい人っぽかったから申し訳なく思っていたのだ。
「ああ、それと……」
そう言って服の中をあさりだしたレイア。
谷間のあたりから手を突っ込んだせいか、体のラインが出まくっていた。
レイアは時々女の子としての自覚がなくなるよなあ。
そう思うボク、無性生活二日目だった。
「あったぞ、これだ」
そういってレイアが取り出したのは金細工の髪飾りだった。
艶のある光沢とにぶく金色を放つそれは、レイアのお土産なようだった。
「これ、ボクに?」
「ふふ、私の髪色と同じ色だぞ!」
子供のような笑顔を見せるレイア。
出会って二日目だというのにもうずっと前から一緒にいたような距離感だ。
「よいしょ……どう?似合ってる?」
頭の側頭部あたりにとりあえずつけてみた。
前世が男なので、ぶっちゃけ髪の毛のケアとかそこらへんはレイアに任せっきりだ。
似合ってなかったらどうしよう、なんて気弱な考えが顔を出す。
「うん、やっぱりよく似合ってる。露店で見かけたときにびびっと来たんだ」
「ありがとう、レイア!」
「……」
「顔を赤らめないで!!」
ポッと頬を染めたレイア。
このやり取りはもうすでに三回目であった。
「ああ、『純銀』があ、『純銀』があ。別の色の髪飾りが……」
後ろから響いてくる教皇の嘆きを聞かなかったことにする。
なんだかんだ『大聖堂』の人たちって信心深いんだよね。
ボクが顔を出すと自分の作業を止めて祈りの言葉を紡ぎだすのだ。
正直ちょっと居心地が悪かったりする。
「そうだレイア、貧民街の孤児院ってまだあるの?」
食後の和やかな雰囲気のなかでボクは尋ねた。
「ゼインの奴が出資してるところならあるぞ」
「え!ゼインおじさん孤児院経営してるの!?」
「もう二度と自分のような思いをする人がでないようにと一から作ったんだ」
「あれ、でもなんでわざわざ貧民街に?」
そう、折角なら王都でも治安の良い立地を選べばいいのに。
ボクの言葉にレイアが反応する。
「一時期アイツは裏社会を蹂躙してたことがあってな、そのころの名残で貧民街では一目置かれてるんだよ。だから下手に貴族街の近くに孤児院を作るよりは安全だと判断したんだろうな」
ゼインおじさんが余りにも偉大過ぎる。
王都に着いて一発目でなぜ彼のトラウマを刺激してしまったのか……
自分の不注意のせいだな、よし。
納得したボクはレイアに話を切り出した。
「明日、その孤児院に行ってみようと思うんだ!」
「ああ、いいと思うぞ。あそこらへんはゼインの縄張りみたいになってるから安全だろうしな」
「縄張り!?ゼインおじさんってすごいね……」
「子供にだけは手を出すなってのがあそこのルールだ。それを破った途端にゼインとその考えに同調した奴が襲い掛かってくる」
「なんか……ちょっと重そうだね……」
ゼインおじさんと同じ考えで動く人たちなんて絶対なにがしかのトラウマを持っているに違いない。
今度は絶対に刺激しすぎないようにしようと心に決めた。
「貧民街……貧民街?『守り人』様が貧民街?」
ついにボケが始まってしまった教皇を置いて、ボクは部屋に戻った。
ベッドの中で思い出すおばちゃんとの記憶。
楽しかったな!
ものすごい勢いで何故か女児服を量産しているおばちゃんの夢を見た。
朝日とともに起床、朝食をいただいたボクは貧民街を訪れていた。
「えーっとこの建物がこれだから……」
レイアに地図を書いてもらったはいいものの、地形と街並みが複雑すぎてよくわからなくなっていた。
そんな時、ボクは声をかけられた。
「おい、過激派の暗部が何の用か知らねえがさっさとここから帰りな」
道に並んだむくつけき三人のおっさん。
その目には正義感と、悔恨が浮かび上がっていた。
……絶対めんどくさいタイプだ。
というか聞いたことないんだが誰が過激派だって?
「え、ちょっと待ってボクが過激派の暗部!?」
昨日おばちゃんにもらった服は『大聖堂』に置いてきていた。
もめごとになった時に昨日の今日で服をダメにするのは忍びないというものだろう。
だから今日は黒ローブ姿なのだが、やっぱり怪しかったんだろうか?
「ああ、昨日から噂になってんだ、過激派の犬がこの辺りを嗅ぎまわってるってな」
「それ、多分ボクじゃないよ!?」
いつの間にか訳の分からないことになっている。
「子供に手は出したくない、さっさと国に帰るんだな」
そう言って拳を震わせて何かに耐えるような表情をするおっさんたち。
内包する感情は、諦観、憐れみ、後悔、覚悟。
このちょっと重そうな雰囲気……間違いなくゼインおじさんの関係者だ!
運よくゼインおじさんの縄張りにたどり着いていたようである。
「ねえ、孤児院が何処にあるか知ってる?」
そう口にした途端、あふれ出す闘気。
何が何でも止めて見せる、もう二度と失わないために。
そういった類の空気をまき散らしながらこちらを睨む三人のおっさん。
「孤児院に……何の用だ」
つっけんどんな態度を見せるおっさんたち。
その拳は固く握られ、少しでも変なことを言えばただじゃおかねえ。
そういった感情がにじみだすように空間が重くなっていく。
「なにって、そりゃお話(仲良く)して、情報(おじさんの娘の)収集だよ」
「お話(拷問)して、情報(この国の)収集だと!?」
「うん、ボク頑張ってゼインおじさんの娘さんのルナちゃんを見つけるんだ!」
「お、お前それをどこで……」
おっさんたちに緊張と困惑が走る。
だが、一瞬で立ち直った彼らは覚悟を決めるようにこちらを見た。
「それじゃあますます通すわけにはいかねえな、帰らないなら力ずくでいくぞ」
拳を握る彼ら。
「その剣とかナイフは使わないの?」
ボクの質問に顔をしかめた彼らが言った。
「「「子供に刃物を向けるような畜生になったおぼえはねえ!」」」
訂正しよう、そこにいたのは三人の騎士だった。
孤児院を守るために例え格上が相手だろうと立ち向かうと決めた男たち。
なら、ボクも彼らの思いに答えるべきだろう。
少なくとも洗脳や、魅了の効果、幻惑魔法に頼るのは失礼に思えた。
「ボクにもやりたいことがあるんだ、悪いけど通してもらうよ」
おっさん達甘そうだし、殺されはしないでしょ。
ぶっちゃけ自分の戦闘能力確かめたい。
おっさん達を殺さないように威力に気を付けるぞ!
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神は言った、人類は醜すぎると 五橋 @Itutubasi
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