第2話神は言った、エルフとは仲良くしておけと
「私は冒険者をやっててな、ランクとしては上から二番目のケルベロスランクなんだ、これでも王都ではかなり名前が売れてるんだ!」
「おー!」
ぱちぱちぱち。
誇らしげに語るレイアに拍手を送る。
どうやらレイアはかなりの大人物だったらしい、街道のはずれで話し合っていたボクとレイアは行動方針を話し合った後、そのままの足で王都へ向かった。
「さすがに、もたもたしていては王都に着くのは真夜中になってしまうからな」
これはてきぱきと動いたレイアの言だ。
「みてみて、めちゃめちゃ高く空に飛び上がってるウサギがいる!!」
前世よりもいくらか小さくなった視点から見る世界はここが異世界なこともあって随分と新鮮に感じた。
「あれは、ラウドネス大ウサギだな。新米冒険者がよく狩る獲物だ」
「へー」
何を聞いても子気味良く答えてくれるレイアは異世界の案内人にぴったりだった。
「ユーナ殿は『守り人』になる前の記憶がないんだったか?」
「そうそう、だから他の『守り人』にボクのことを知らないか聞いてみようと思ってるんだ!」
……そういうことにしてある。
レイアと話している感じ、異世界召喚とかはなさそうだったし、いいかんじの誤魔化し方が、これしか思いつかなかったのだ。
「そうだ、王都に着く前にこれを被っておけ」
そういって何やらレイアが手を動かすと、いつのまにやらその手には黒いローブが収まっていた。
「すっごーい!今のが魔法?」
「ああ、これは呼び出し魔法だな。効果は名前そのまま、登録したものを呼び出せるようになる魔法だ」
ボクは初めて見る魔法に興奮していた。
さっきもボクは無意識に魔法を使っていたらしいが、明確な不思議現象を目の前で見せつけられて、やっぱりボクは一人で盛り上がっていた。
「ねね、ボクも魔法使ってみたい!」
「『守り人』様の魔法は人間が使うものとは違うからなあ」
レイアは苦笑しながらそう言った。
「ん?どういうこと?」
「言葉の意味そのままさ、人間が魔法を論理だてて使っているのに対して、『守り人』様は感覚的に魔法を扱うんだ」
「それじゃあボクも感覚で魔法を使ったほうがいいのかな?」
「うーん、聞いた話によれば、『守り人』様の使う魔法は人間のそれを容易に凌駕するらしいからねえ」
悩むようにうんうんと唸っているレイアに質問してみる。
「人間の魔法にも、いいところがあったりするの?」
次の瞬間、
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにレイアはベラを回し始めた。
「そう、そうなんだよ。人間の魔法はかれこれ数千年に渡って受け継がれ、研究されてきたものなんだ。多くの人が使えるように、改良を続けながらしかし、効力は落ちすぎないようにする、そういうギリギリのバランスの上で人間の魔法は成り立っている!半分奇跡みたいなものなんだ!」
「す、すごーい」
マシンガントークを繰り出したレイアに若干押されながらも感想を口にしておく。
実際、ボクの場合は『守り人』の魔法よりも、人間の魔法の方が相性がいいかもしれないし……
「じゃ、じゃあさ、人間の魔法、試しに教えてよ!」
「もちろんいいとも、ならまずは水の魔法だな」
そう言って、手に持っていたローブを素早くボクに着せたレイアは次に、指の上に水球を作ってみせた。
そのまま水球が増えていく。
人差し指の上、中指の上、薬指の上。
そうやって、両手の指十本の上で水球を作ったレイアは笑顔でこっちを見た。
「こんな感じで指の上に水で球体を作って、そのうえで大きさを調節するんだ。見習い魔法使いはほとんどがそうやって魔力の使い方を学んでいくんんだ!」
得意げに説明して見せたレイアの話は確かに分かりやすかった。
もしかしたらレイアは魔法の先生でもしていたのかもしれない。
「む?あれ?」
うーん、魔法を使うように念じてみると水は出るんだけど、形を保っていられない。
「なるほど、『守り人』様が人類の魔法を使うとそうなるのか……」
「なに?なにか分かったの?」
「『守り人』様は私たち人類よりも高位の存在だからな……あるがままとも言っていい」
「だから、形を整えるのは苦手ってこと?」
「ああ、まあ私の推測にすぎんがな」
思慮深いレイアに感心していると、段々と巨大な城壁が見えてきた。
「あれが……王都?」
「そう、大陸一の国家エルス王国の王都だ!」
「すげ~」
つい前世のノリが出てしまうくらいには壮観だった。
巨大な城壁と、それに囲まれた城。
大陸随一という言葉もあながち間違いではないのではない。
そう思わせるほどの光景だった。
「ユーナ殿、フードを」
「……なんで?」
「ユーナ殿が顔をさらしたまま王都に向かえば、城下町は阿鼻叫喚となることが想像に難くない」
「そういえば、顔を見たらわかるんだっけ?」
「ええ、その流星のような御髪となによりもその瞳は、邪な考えを持つ者さえ引き寄せてしまうでしょう」
「悪い奴が来ても大丈夫じゃない?ほら、人間はボクに嘘つけないんでしょ?」
そう、それがボクがこの世界に来てから考えていたことだった。
だれもボクに嘘をつかないのなら、ボクはもうあんな思いを……
ボクの思索をぶった切るように、レイアは言葉を発した。
「嘘をつけないからと言って、必ずしも信用できるわけではないんだ」
深刻そうな顔色のレイアは何かを思い出すようにそう言った後、顔を上げて言った。
「しばらくは私が守ってやるから、心配するな!」
「うん、頼りにしてる!」
そうやってレイアにこの世界のことを教えてもらいながら歩くこと数十分、僕たちは検問の前にたどり着いた。
「おっきな門だね!それに、ならんでる人たちは……?」
「ああ、どんな都市にも配置されている検問施設だな!」
まずい、つまりは入国審査ということだろうか?
前世でのいやな思い出が浮かびそうになって、それをバッサリと切り捨てた。
「おんや、お嬢ちゃんは検問は初めてかえ?」
そうボクに声をかけてきたのは、前にならんでいたおじいちゃんだった。
……お嬢ちゃん?
いよいよボクの背格好が怪しくなってきたな、顔はフードで隠しているはずだけど。
「うん、初めて!」
「そんな嬢ちゃんにはこいつを上げよう、ほれ」
そういっておじいちゃんが手渡してきたのは、黄金のリンゴだった。
レイアは検問の準備なのか荷物をガサゴソと引っ搔き回して、こっちを見る余裕がなさそうだった。
おじいちゃんはどうやら手持ち無沙汰になったボクに構ってくれるみたいだ。
「すごい!金色!」
「そうじゃろう、そうじゃろう、こいつわなあ……、ご、っぐはああ」
「ええ!?、おじいちゃん大丈夫!?」
突如として血を吐きだしたおじいちゃんを心配していると、レイアも気づいたのか、こちらを見た。
そしてボクの手に乗せられた黄金のリンゴを見て、血相を変えた。
「ユーナ、今すぐ捨てて!」
「え?このリンゴ?」
タックルのような勢いでボクに近づいてきたレイアは勢いそのままにリンゴを遠くに投げた。
「え、ええ??」
何が何だかわからず、わたわたしているボクにレイアは告げた。
「あれは『服従のリンゴ』、奴隷商が扱うものだ……」
顔に嫌悪の念を張り付けたレイアは次に辺りを見回すと一つ悪態をついた。
「ちっ、あのじじい逃げやがったか……」
随分と荒々しくなったレイアに驚いていると、彼女はボクとしっかりと目を合わせた。
「いいか?町にはああいう輩もたくさんいるのだ。だから私から決して離れず、何かあれば私に相談するように」
魔法の話をしていたころから打って変わって深刻そうな顔をしたレイアを見て思った。
レイアがいい人だから勘違いしていたけれど、人間は人間だ。
前世の世界だろうと、異世界だろうと人間は人間である以上その本質は変わらない。
ああ、人類は、醜すぎる。
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