第3話 自衛隊出動
西暦2029(令和11)年9月19日 日本国東京都 都内某所
「会長、ローレシア皇国海軍の竜母機動部隊が『転送魔法』を用いてミズホ王国タガ市を襲撃。現地戦力と港湾部施設を破壊したとの事です。死傷者は1万にも及ぶと…」
高層ビルの一角で、秘書が報告を上げる。会長と呼ばれた男は、静かに瞑目しながら聞いていた。
「…そうか。現地の『商会』に、後始末を命じよ。こうする以上犠牲は避けられんからな」
そう呟き、問いを投げかける。
「問題だ、山田君。この世界の人口はどれぐらいだ?」
「は…『研究所』の試算では凡そ15億人と…」
「そうだ、15億人だ。そこに日本と台湾、その他の国々含め1億5千万近くの地球人が加わっている。合計で16億人以上だ…その16億人に10年…いや100年以上先の繁栄を約束するために、一体何人の犠牲を必要とする?」
会長はそこで目をゆっくりと開き、山田の方に振り向く。そして言った。
「…『商会』に伝えろ。使者は絶対に守れとな」
・・・
同日 日本国東京都 内閣総理大臣官邸
「随分と派手にやってくれたな…」
官邸地下の会議室にて、内藤防衛大臣は唸る様に呟く。この世界で最大のマスメディアと名高い『ロイテル魔導逓信社』より発せられたローレシア皇国政府の記者会見は、当然ながら日本国内の世論を怒りで沸騰させた。
何せ無差別的に民間人を殺傷し、日本の船舶や乗員にも被害を与えたのである。『外道』の一言が当てはまる愚行を犯した者に対して抱く怒りは、相当なものになっていた。
「皇国は此度の一件で、明確に我が国と敵対する意思を見せました。現在、中村祐大、河本哲也両氏は大東洋諸国と繋がりのある商会が保護しているとの事です。しかし、彼の国がここまでの外道を働くとは…」
大川官房長官がそう呟く中、森野首相は内藤に目を向ける。
「…ローレシア皇国は間違いなく、我が国を含む全ての大東洋諸国に矛先を向けるでしょう。であれば我らがすべきことは、これ以上の暴挙を実力を以て阻止する事…違いますか?」
どうやら首相は腹を決めた様だ。そして彼は指示を出す。
「防衛大臣、統合幕僚長。自衛隊に対し、防衛出動を発令します。此度の有事は我が国の自主独立に大きく関わるものであり、そしてその他の国・地域にとって死活問題となります。国会では事後承諾とし、今は目下の問題に対処しましょう」
・・・
1時間後 防衛省 統合作戦司令部
「此度、政府は防衛出動を決定した。内容は大東洋諸国におけるグラン・ローレシア皇国軍の軍事進攻の阻止であり、我が国周辺の治安回復である」
防衛省の一室にて、
「我が司令部はこれを受けて、
「先のタガ空襲では、敵は翼竜を搭載・運用する航空母艦に類似した艦船を運用していたと報告を受けております。よって第1・第2水上戦群を中心とした機動部隊を展開すべきだと考えます」
泉谷の言葉に、海上幕僚長はそう主張する。海上自衛隊初の航空母艦たるいずも型護衛艦2隻と、その艦載機たる20機のF-35B〈ライトニングⅡ〉戦闘機は、間違いなくローレシア海軍の主力艦隊との交戦で活躍するだろう。そして泉谷も、同様の事を考えていた。
「ああ。さらに此度の作戦では空自も大規模展開を行う。クロド王国にはジェット機に発着が可能な飛行場が完成しており、現在ローレシア軍が占領しているサラニア諸島から来るであろう敵性部隊の迎撃拠点として活用される。無論、自衛戦力として陸自の中央即応連隊を派遣する」
ミズホ王国からの情報では、皇国軍は500隻近くの帆走軍艦と5000騎の飛竜の上位種を有するという。イストレシアより西の列強国や他の属領の維持のために投じる事の出来る兵力は限られるとはいえ、圧倒的な戦力差を前に戦う事は避けられないだろう。故に技術水準の面で優位に立つ事が求められた。
「そして肝心のJTFの名称だが…これにはかつて元寇に立ち向かった武将より『季長』の名が与えられる事となった。部隊の展開開始は明日からとなる、急ぎ編制を行え」
翌日、日本政府は自衛隊の防衛出動を閣議決定した事を発表。総数4万人規模の大部隊が戦場へ赴く事となる。
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