第4話 アナスタシア、再始動
翌日、国王とフィルバート、それに証拠を精査した宰相も加わって机を囲んだ。
「ううむ、これでは……」
「確かに」
「そうなのです、肝心の資金の出所が分かりません」
宰相の嘆きに、二人は頭を抱えた。
レナルドが持って来た書類は確かに犯罪の証拠であり、有益なものだったが、不十分でもあった。しかし、この情報を手に入れるのにも難儀したのだ。これ以上の情報、資金の出所を探るのは至難の業ではないと誰もが苦慮した。
「こうなりましたら、アナスタシア様に再び活躍していただくしかないのではないでしょうか?」
それが得策だと宰相は提案するが、国王は更に深く頭を抱える。
「それは分かっておるが……しかしアナは、もう二度とやりたくないと。到底わしからは言い出せん。わしは、これ以上アナに嫌われたくないのだ」
弱々しい口調になる国王に、宰相は同情の眼差しを向ける。彼にも娘がいるので、愛娘に嫌われる恐怖をよく理解していた。
「それでは、俺がアナスタシアを説得しましょう」
国王は、これ程フィルバートを頼もしく思ったことはないと心の中で賛辞を贈った。
フィルバートを送り出し、肩の荷が下りた国王の声は明るい。
「さて、アナの褒美は何が良いかのぅ。西の鉱山は、どうだろうか」
西の鉱山と言えば、高価な金属が採掘される山である。大事な王家の資金源。それを、いとも容易に贈与しようとしている。
どこまでもアナスタシアに甘い国王に、宰相は引き攣った苦笑いを浮かべるのだった。
(大丈夫。きっとアナスタシア様は鉱山など望まれない。“いらない”と仰ってくれるはず)
******
「―――というわけでアナ、証拠が少し足りなくてね」
フィルバートが部屋を訪れて喜んだアナスタシアは、ご機嫌で「うんうん」と話を聞いていた。
「その証拠がボグワナ伯爵邸にあるのは間違いないと思うんだ」
アナスタシアは変わらず「うんうん」と笑顔で頷く。
「それで陛下が明日、緊急の議会を開く。内容は、まぁ適当なんだけど。当然、ボグワナ伯爵も招集される。そうすれば屋敷に残るのはレナルドだけになるだろう?」
そこまで聞いて、アナスタシアは雲行きが怪しくなってきたと察した。
「それでね。アナには伯爵邸へ行って、レナルドを引き付けておいて欲しいんだ。その間に僕らが屋敷を調べるから」
「えぇ、またやるの? そこに証拠があるって分かっているなら、伯爵邸に踏み込めばいいじゃん」
「派手にやると、使用人が証拠を隠滅してしまう可能性もあるだろう? そういう指示を伯爵が出しているかもしれないからね」
正当な反論にアナスタシアは、ぐうの音も出ない。先程のルンルン気分は、もはや微塵も残っていなかった。
「アナ。君に嫌がることをさせるのは僕も辛い。本当は僕だって嫌なんだよ。レナルドがアナに触れるだけで、頭に血が上ってどうかなりそうなんだ。だけど、彼らの犯罪を見逃すわけにはいかない。アナも彼らが何をしているのか、知っているだろう?」
ボグワナ伯爵の罪は、人身売買・麻薬・横領と貴族らしい犯罪のオンパレードだった。
それを説明された時、アナスタシアは憤慨し『人身売買』という非道な犯罪に心を痛めた。
「分かった。私が出来ることなら何でもやると、最初に言ったもの。最後まで、やり遂げるわ。それで何をすればいいの」
覚悟を決めたアナスタシアの目は、いつものフィルバートに甘えるようなものではなく、とても力強かった。
この王女、フィルバートには甘えん坊だが、やる気を出せば出来るタイプである。時には予想しないような実力を発揮して、周囲を圧倒する事もある程だ。ごく稀にだが。
曲がりなりにも王女、意外と肝が据わっている時もあるのであった。
「ありがとう、アナ。さすがは僕の婚約者だ」
「その代わり! お父様には、いっぱいご褒美を貰うから!」
「うん、陛下に伝えておくね」
「それにフィルも! 私に……ご褒美ちょうだいね」
「分かっているよ。とびきり甘いご褒美をあげようね」
貰えるものは、しっかりと貰うアナスタシア。
上目遣いで強請る彼女に、フィルバートは目を細めるのだった。
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