二十八日目
放課後、珍しくゆうかが「一緒に帰らん?」と誘ってきた。
この時間、いつもだったら彼女はバレー部の練習をしているので、俺は部活はどうしたのかと聞いた。すると、彼女は少し答えずらそうに、「さぼった」と言った。
「今日は、なんかめんどくさくなっちゃって、お腹痛いって言って休んじまった」
彼女は、複雑な表情を浮かべた。
悲しいような、申し訳ないような、困ったような…………
「部活、行けば?」
練習を自分からわざと休んで悩むぐらいだったら、ハナから行けば良かったんじゃないかと思い、俺は部活に戻らそうとした。しかし、彼女は首を横に振った。どうやら、行かない理由がはっきりとあるらしかった。
俺は、仕方なくゆっくりと、学校にチャリを置いて歩き出した。彼女も当然、ついてきた。
「好きなんじゃないの? バレー」
「まさか、大っ嫌いだよ! 勘弁してくれ……」
俺がようやく一緒に帰る意思を見せると、彼女もいつも通りの口調に戻った。
「だいたい、平日だけじゃなくて土日も部活あんだぜ? 狂ってんだろ。それに、監督も人によって態度変えやがって」
彼女はバレー部の愚痴を吐きつつも、少し嬉しそうに笑っていた。もしかしたら、誰かにこれを聞いてもらいたくて、ズル休みしたのかもしれないな、と思ったりもしたが、あまり聞かないでおいた。
途中から彼女は部活中のエピソードを話し始めて、俺は相づちを打つだけになった。
今はもう、彼女の部活中に誰が何したかとかは、もう覚えていないかった。そんなことよりも、彼女の話が、オチがしっかりした短編小説のようなクオリティばかりで、俺はそっちにばかり感心してしまっていたのだ。
そんなこんなで二人で歩いていくと、彼女は急に止まった。かと思うと、左の建物を見上げて、
「寄ってこ!」
と言った。
俺が「えっあっ」としどろもどろになっているのを他所に、彼女は有無を言わさず建物に駆けていった。
見上げた看板には、大きな文字で「カラオケ」と書かれていた。
彼女の歌は、下手だった。
普通の人が想像するであろう「歌が下手」を、二倍以上超えてくるような下手さだった。
彼女はなぜか採点機能を真っ先に入れていたので、歌い終わる度に点数が表示された。どれもこれも六十点前後ばかりだったが、実際より高いような気がして、俺はずっと不正を疑っていた。
一方、俺も人のことごちゃごちゃ言えるほど、上手かった訳でも無かった。ほとんどが八十点前半、一回だけ八十八点とか出たぐらいで、点数は極めて普通だった。
ただ、問題だったのは、俺が日頃カラオケなどとは無縁の生活を送っている、ということ。
「まだかぁ? 先入れちまうぞー」
「さっさとしろやぁ」
「歌ってんのオレばっかじゃねーか!」
選曲しようにも、日頃から歌を聴かなすぎて、歌える曲が存在しないのだ。
彼女が三、四曲歌い終わって、ようやく俺は一曲入れるのだが、入れたら入れたで彼女は、
「んだこの古い曲!?」
「あっ、歌詞間違ってんぞー!」
と文句を垂れ流し始めるのだった。俺にはもはやどうすることも出来なかったので、彼女の言葉をスルーして俺はひたすらに、うろ覚えの歌詞をリズムに合わせて喋り続けた。
そんなこんなで、一時間半が経過した。
「話が、ある」
彼女は気がつけば歌うのを止めていて、こっちを向いて座っていた。見た目はいつも通りヤンキーなのに、目だけ真剣だったので、少し笑いそうになった。
彼女は耳から何かを取り出して、「ん!」と言ってそれを渡してきた。
小さな、とても小さな、イヤホンのような機械だった。
「あのさ、オレ、耳悪いんだよね」
ゆうかは、ばつが悪いように目を逸らした。
(スペースが足らないから、明日のやつに続きを書く)
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