二十七日目
六月に入った。
朝のホームルームで先生に、今週の金曜日に「遠足」があると言われた。どうやら、「修学旅行」ではなかったらしい。
先生の話によると、班は先生が決めるのではなく、自分らで五、六人で集まって作らなければならないらしかった。
桜はしばらくすると、ゆうかと、もう二人の友達を連れて、俺のところに来た。
「一緒に行こ!」
彼女は基本的に、言いたいことを素直に言ってくれるので、他の人たちより少し楽に会話ができる。
そこが、彼女の良いとこだと、俺は思っている。
「いいよ」
そんな中で、映画オタクの方をチラッと見ると、教室の一番前の端っこの席で、居心地悪そうに座っていた。
「ねえ、あの子も入れてあげない?」
俺はなんだか可哀想だと思い、誘ってあげることにした。
「わかった」
桜は
取り巻きたちは、「えー」とか「やだ」とか言っていたが、ゆうかはそんな二人の肩をポンポンと叩いて、
「いーじゃん。普段と違うメンツだから、いつもと違う体験できそう」
と言った。
彼女はたまにさりげなくこういうことを言えるから、異性から好かれてもおかしくないのに、俺以外のオスとは喋っているところすら見たことがなかった。
ゆうかはなんで、俺と関わっているのだろうか。
桜に引っ張られるように、映画オタクが連れてこられていた。
「さっ、佐藤拓真、です。よろしく、お願いします。小学校は、第三で、す、好きな食べ物は――」
彼は、顔を真っ赤にして、声を
「アッハッハッハ!」
「いやいや! 知っとるわ!」
「き、緊張してる、のかな? それとも、改めてってこと?」
女子たちが一斉に笑い出したが、俺は少しも笑うことが出来なかった。
こいつは、なんか、嫌だ。
なぜか「俺」が、そう思ってしまうのだ。
こいつが悪いやつじゃないということは分かっているのに、近くにいるだけで、肌で嫌悪感を抱いてしまうのだ。
「あ、アハハ……」
ではなぜ誘ったのか?
「佐藤」
「いや、苗字を呼び捨てかい!」
それはもちろん、好奇心。
「なんで、映画好きなの?」
「そっ、それは――」
「えっそうなの!? たくまって映画好きだったんだ!」
「へぇ、以外! どんな映画観るの?」
なぜ映画が好きなのか。なぜ俺に話しかけようと思ったのか。なぜ早口で喋ることがあるのか。なぜ俺と桜が一緒に映画を観に行ったことに触れないのか。なぜ俺が、嫌がっているのか……
「一番観るのは、や、やっぱりコナンかな」
なぜなのか。
俺はただ、知りたいだけなのだ。
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