二日目

 好奇心は猫を殺す、という言葉がある。

 好奇心が強すぎると身を滅ぼしかねないという意味のことわざで、イギリス発祥の言葉だそうだ。九つの魂を持つ猫をも殺しかねないというのだから、ヒトの命なんて好奇心で容易く失われてしまうのだ、という意味も含まれているのかもしれない。

「ふふっ」

 俺は思わず、笑みをこぼした。

 俺が知らないうちに、小さい頃から何度も、好奇心に殺されかけていたのかもしれない。そう思うと、今まで自分はどれほど能天気だったのだろうと、自傷的に笑うしかなかった。

「ヒロト、ご飯ー」

 下の階から母親の声が聞こえた。

 時刻は七時。八時十五分までに登校すればいいので、少なくともあと一時間はあった。

 俺はスマホの画面を閉じて、とりあえず朝飯を食べに行った。




 早めにチャリで家を出たあと、運動公園のベンチに座って休んでいた。

 考えていた。

 何故、こんなに気を病んでいるのか。

 考えてみれば、答えは至ってシンプルだった。

「母さん……」

 そうだ。母親あいつのせいだ。

 母親あいつという一人の人間が、俺の中での混乱を招いたのだと、ようやく俺は気づいた。

 あいつは一体、何者なのだろう。

 同じ生き物とは到底思えなかった。なぜなら、あいつはあれだけ熱心に「応援してる」演技をしながら、腹の底では微塵も興味を示していなかったのだから。しかも、それを本人に悟られないように、塾に入ってからの三ヶ月間、ずっと…………

「気持ち悪い」

 俺は一体、何を見てきたのだろう。今までの人生で俺は、目の前の怪物に目もくれずに、周りの「なぜ」ばかりに目を奪われて、俺は一体、何をしていたのだろう。

 ふと、遠くのアスファルトを見ると、陽炎が立っていた。そこに犬とが歩いて来たのを見かけたが、俺はどちらがどちらを散歩しているのか、一瞬だけ分からなくなった。

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